テレワーク導入の際に就業規則の変更は必要か?手順や注意点を徹底解説
テレワーク導入に際して、就業規則の変更は必要なのでしょうか?本記事では、テレワーク勤務独自の就業規則の必要性や定めるべき項目、変更する際の手順や注意点をご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
テレワーク導入で就業規則の変更は必要?
テレワークを導入した際に就業規則を変更するべきか否かは、導入規模によって異なります。テレワークを組織全体で一斉導入し、となれば、就業規則の変更は必要でしょう。
一方で、数名〜数十名単位の規模でテレワークを導入するのであれば、個別に労働契約を変更したほうが、手間の軽減、規則運用の双方において良いケースもあります。また、テレワークの実施が週に1〜2日程度であったり、臨時的な勤務形態という場合も、就業規則を大きく変更する必要はないでしょう。
そのため、テレワークを導入した際に就業規則を変更する必要があるのかどうかは、対象となる従業員の範囲のほか、テレワークが臨時的な勤務形態なのかといった複数の要因によって、判断することになります。
そもそも就業規則とは?
そもそも就業規則とは、雇用する側(企業)と雇用される側(従業員)における、それぞれの権利と義務が記載されたものです。
労働時間や賃金の支払い条件など、働くにあたってのルールを従業員ごとに、「個別」に記載する労働契約書(雇用契約書)とは違い、就業規則は、働く上で全社員に適用されるルールとなります。
労働契約書は、法律により労働条件を書面で明示することが義務付けられているものの、実は「契約書」の作成についての義務は雇用者側にはありません。
それに対し、就業規則は、労働基準法第89条にて、以下のとおり「作成」が明確に規定されています。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
また、厚生労働省が発表するガイドラインでは、「10人未満」であっても、就業規則の作成が望ましいとしています。このように、就業規則とは、法律によって作成が義務づけられているだけでなく、労使間におけるトラブルを未然に防止するための重要なルールとなるのです。
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就業規則を変更する場合の方法と手順
労使間における大切なルールである就業規則は、テレワークを大規模かつ常態的な勤務形態の一つとするのであれば変更したほうがいいといえるでしょう。
就業規則を変更する場合の手順と流れは、主に以下のとおりとなっています。
- 既存の就業規則に追加、または新しく勤務規則を作成する
- 就業規則変更届を作成する
- 就業規則に添付する意見書を作成する
- 労働基準監督署に提出する
- 社内周知
それぞれを詳しくみていきましょう。
(1)既存の就業規則に追加、または新しく勤務規則を作成する
就業規則を変更する場合、既存の就業規則に必要事項を追加するか、もしくは新しく勤務規則を作成することになります。
テレワーク導入時の追加事項については、後段にて詳しくご説明しますが、一般的にはテレワークの定義や対象者、労働時間、費用の負担といったルールを追記しなくてはなりません。ただし、既存の就業規則に新たなルールを追加する場合は、改めて全体を見直し、矛盾などが生じていないかを確認する必要があります。
(2)就業規則変更届を作成する
新たに就業規則を作成したり、既存の就業規則を変更した場合には、その旨を労働基準監督署長に届け出るための就業規則変更届を作成します
就業規則変更届は、決められたフォーマットはありませんが、厚生労働省の公式ホームページには就業規則変更届の様式が掲載されているため、それらを参考にすると良いでしょう。
(3)就業規則に添付する意見書を作成する
次に、就業規則変更届に添付する意見書を作成します。この意見書とは、労働者の過半数で組織する労働組合、もしくは労働者の過半数を代表する者の就業規則変更に関する意見の内容を記載し、労働代表者の署名か記名押印がされた書類です。
就業規則は、原則として企業が一方的に労働者の不利益となるような変更をおこなうことはできないとされているため、変更時には、このような意見書の添付が必要となります。
(4)労働基準監督署に提出する
新しい就業規則と就業規則変更届、意見書が完成したら労働基準監督署に提出します。
変更の届出に関しては、本社や支店などの事業場ごとに管轄の労働基準監督署に提出する方法のほか、事業場に関係なく同一の就業規則であれば、本社が所在する労働基準監督署に一括して届け出ることも可能です。ただし、その場合は、変更前の就業規則も同一であることが求められますので注意しましょう。
また、就業規則には、法令や労働協約に反した内容を記載することはできません。違反が判明した場合は、受理されないことがあるため、各種法令や協約と照らし合わせて入念にチェックすることが重要です。
(5)社内周知
就業規則の変更が労働基準監督署に受理されたら、変更した就業規則を社内に周知します。以前の就業規則と新しい就業規則を比較して、どこがどのように変わったのかということを明確に周知できるよう工夫することが大切です。
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テレワークモデル就業規則を参考にした就業規則や規定で定めるべき項目
ここでは、厚生労働省が公表しているテレワークモデル就業規則を参考に、テレワーク導入時に就業規則にて規定すべき9つの項目について確認していきましょう。
[出典:厚生労働省「テレワークモデル就業規則〜作成の手引き〜」]
(1)適用範囲の指定(委任規定)
テレワーク勤務とオフィス勤務が混在し、既存の就業規則に新たにテレワーク勤務に関する規定を追加した場合、就業規則の中の「委任規定」として、その規則の適用範囲を指定する必要があります。
この委任規定により、テレワーク勤務の従業員に対しては、テレワーク勤務時の規定が適用されることを示すことができます。
(2)テレワークの定義
テレワークには、在宅勤務やサテライトオフィス勤務、モバイル勤務などさまざまな種類があるため、まずは、自社における「テレワーク」を定義する必要があります。
テレワークとして、どのような働き方を認めるのかを明確にすることで、費用負担やその他の規定を定めることが容易になります。
(3)テレワークの対象者
企業によっては、全社員のテレワーク化が難しい場合もあるでしょう。その場合は、テレワーク勤務の対象となる従業員を明記する必要があります。
テレワーク勤務の対象範囲を決定する基準については、主に業務内容や育児や介護、自身の傷病といった個人の事情に配慮する形で判断されることが一般的です。また、まだ業務に慣れていない新入社員は対象外とするために「勤続1年以上の者」といった制限を設けるケースも見られます。
ただし、業務内容などにかかわらず雇用形態のみを理由にテレワークを不可とするなど、不合理な基準を設けることは避けるようにしてください。まずは、全従業員にテレワークの導入ができるかどうかを検討した上で、難しい場合には、対象者を決定するようにしましょう。
(4)費用負担
テレワークを導入する場合、自宅などでの作業環境を整えるために、パソコンや周辺機器、社用携帯などを準備する必要があります。
また、これらのデバイスを利用するにあたっては、インターネットの通信費や電気代、電話料金、消耗品費などが発生することになります。これらの必要不可欠とされる費用を企業がどこまで負担するかについても、あらかじめ就業規則内に記載しておかなければなりません。
費用の負担に関しては、労使間で話し合いをおこない、双方が納得した上で決定する必要があります。一般的には、「在宅勤務手当」や「テレワーク手当」などとして、一定の額を支給するパターンが多いといえるでしょう。
(5)労働時間
これまで通りオフィスで働くときと同様の感覚でテレワークできる従業員であれば問題ありませんが、テレワークにより育児や介護が伴う従業員がいる場合は労働時間に関する就業規則を改める必要があります。
これまでと同様の労働時間制度を活用するのであれば、始業時間や終業時間、休憩時間などは変わりません。また、時間外労働についても同様に割増賃金が発生することになります。
一方で、「事業場外みなし労働制」といった、オフィス外で労働する従業員の労働時間の把握が困難である場合に適用される制度もあります。このような制度を利用する場合は、その旨を就業規則にも明示し、従業員にも周知するようにしましょう。
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(6)服務規律
服従規律とは、業務に取り組むにあたって従業員が遵守すべき義務やルールのことを指します。特にテレワークでは、従業員の勤務態度や働き方を、上長やリーダーが直接確認することはできません。
そのため、従業員のセキュリティーリテラシーの低さが、情報流出などの重大な問題を引き起こす場合もあります。
そのため、テレワークにおける服務規律の策定の際は、勤怠管理の目的だけでなく、情報セキュリティ管理の視点を持つことが重要です。情報セキュリティの詳細については、総務省が発表している「テレワークセキュリティガイドライン」を参考にすると良いでしょう。
(7)休憩時間
労働関連の法令は、当然ながら、テレワーク勤務時にも適用されます。そのため、テレワークであっても、オフィス勤務と同様に、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上の休憩時間を与えなくてはいけません。
このことは、在宅勤務やサテライトオフィス勤務など、テレワークの種類に関係なく適用されるため、就業規則にも、その旨を記載するようにしましょう。
(8)時間外労働
テレワークにおける時間外労働については、オフィスに出勤する場合と同様に、就業規則を定める必要があります。
厚生労働省が公表する既出のガイドラインによれば、「所定の手続きを経た上で、所属長の許可制とする」と「在宅勤務については時間外労働などを原則として認めない」という2つの規定方法が提示されています。
しかしながら、これらはあくまで一つの例にしかすぎないため、法令にそった範囲内で、自社に合った仕組みを策定するようにしましょう。
(9)出退勤管理
出退勤管理は、テレワーク導入にあたっての大きな課題の一つであるといえます。すでにクラウド型の勤怠管理システムなどを利用している場合は、パソコンやモバイル端末などから、出退勤時の打刻が可能となるため、別途テレワーク時の勤怠管理制度を設ける必要はなくなるでしょう。
そのようなシステムを導入していない場合は、テレワーク勤務時の始業と終業の時刻をどのように報告するのかについても就業規則にて明記しておくことが重要です。
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テレワーク導入に伴い就業規則を変更するときの注意点
テレワーク導入に伴い就業規則を変更するときは、いくつかの注意すべき点もあります。ここでは、4つの注意点について詳しく解説します。
(1)労働法の強行法規に従うのは義務
テレワーク導入に伴い就業規則を変更する場合、労働基準法などの労働関連法令は、必ず遵守しなければなりません。
企業が従業員の労働時間を正確に把握し、時間外労働や休日出勤などに対する割増賃金を支払うことは、企業に課せられた義務でもあります。就業規則を変更する際には、これらの法令に違反した記載がないかを注意するようにしましょう。
(2)テレワークへの「事業場外みなし労働時間制」適用は難しい
「事業場外みなし労働時間制」は、労働者が業務をオフィス外でおこない、かつ、雇用側(使用者)が、その労働時間の算定することが困難な状況であると認められる場合において、雇用側の労働時間の算出義務を免除しつつ、オフィス外労働については 、一定の時間を労働したとみなすことのできる制度です。
一見、テレワークにも適用可能な制度のように感じますが、インターネットに常時接続できる環境でのテレワーク業務については、事実として雇用側(管理者)がいつでも指示を出せる状況であると考えられます。
事業場外みなし労働時間制は管理者からの指示が及ばない場合にのみ適用されるため、テレワーク業務への適用は、かなりハードルが高いといえるでしょう。
(3)労使の合意が必要
就業規則を変更する際は、前段で変更届とともに意見書が必要となる旨をお伝えしたとおり、必ず労使双方の合意が必要です。そのため、会社側が一方的に、従業員の不利益となるような就業規則の変更をすることはできません。
これは労働契約法においても定められているため、そのような行為を会社がおこなった場合は違法となります。また、従業員に強制的に合意させた場合には、その合意自体が無効となる点にも注意しなければなりません。
テレワークを導入するにあたって、終業規則を変更する際は、必ず従業員の同意を得るようにしましょう。
(4)内容の合理性と周知は必須
テレワーク導入にまつわる変更部分に限らず、元来、就業規則とは、合理性のある内容でなければなりません。また、従業員への周知徹底も必須となります。
合理性があるかどうかの判断に迷った時は、厚生労働省による「テレワークモデル就業規則」を参考にしつつ確認したり、後にご紹介する「テレワーク相談センター」を活用するのも良いでしょう。
また、従業員に対し、就業規則が変更されたことをアナウンスする方法についても、社内ネットワークへの掲示や、各部署レベルのミーティングにおいて上長から直接伝える場を設けるなど、複数の方法で情報を共有し、周知を徹底することが大切です。
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困ったら厚生労働省の「テレワーク相談センター」を活用
テレワークを初めて導入する企業においては、適切な就業規則の策定や勤怠管理の方法など、不明な点も発生することでしょう。社内での解決が困難な場合は、厚生労働省の「テレワーク相談センター」を活用することをおすすめします。
テレワーク相談センターでは、テレワークを実施する際のセキュリティに関することや人事評価、導入のプロセスなど、テレワークに関するあらゆることを気軽に相談することができます。
適切な就業規則で円滑なテレワーク導入を
本記事では、テレワーク導入の際に就業規則の変更は必要かどうかということについて、変更する場合の方法や手順、定めるべき項目などと併せて解説しました。
テレワーク導入にあたって、就業規則の変更が必要かどうかは企業によって異なります。まずは、社内で就業規則の変更の必要性について検討しましょう。
就業規則は、労使間のトラブルを未然に防ぐだけでなく、労使間の信頼関係にも影響する大切なルールです。変更が必要となった場合には、ここでご紹介した手順やポイントを把握した上で、適切な就業規則を策定するようにしてください。
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