人材マネジメントポリシーとは?目的や事例・作り方、注意点を解説
慢性的な人手不足などの影響から注目されている、人材マネジメントポリシー。大手企業を中心に策定が進んでいますが、人材マネジメントポリシーとはどのようなものでしょうか。本記事では、人材マネジメントポリシーの目的や具体的な作り方、取り組み事例を詳しく紹介します。
目次
人材マネジメントポリシーとは?
人材マネジメントポリシーとは、自社の人材に対する考え方や価値観、方針などを言語化した人事政策の一つです。採用・評価・報酬・育成などあらゆる人事施策は、人材マネジメントポリシーにもとづいて設計・運用することで、円滑な人事の実現を目指せます。また、人事の優先順位や意思決定の指標としても役立つ施策です。
人材マネジメントポリシーは、労働人口の減少や多様な働き方の推進に伴い注目されるようになりました。変化が激しく、将来が見通せない時代になっている点も、同政策へ関心が高まった要因といえます。
新たな人材を確保して時代の潮流に適応するには、社内での人材育成が欠かせません。企業が求める人材の育成などを目的に、人材マネジメントポリシーを策定し、適切な人事体制を敷く動きが活発化しているのです。
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人材マネジメントポリシーの目的とは
人材マネジメントポリシーを策定する主な目的は、あらゆる人事施策に一貫性を持たせ、関わる人達の理解を得ることにあります。
明確な正解が存在しない人事領域においては、人によって考え方や基準がブレがちです。このような個人差は、往々にして社員の不満やモチベーションの低下を招きます。
人材マネジメントポリシーによる一定の基準を設けることで、個人間のブレを抑制し、一貫性と公平性を保てるため、社員からの理解を得やすくなるでしょう。
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人材マネジメントポリシーが注目されている理由
近年、人材マネジメントポリシーへの注目が集まっている理由としては、少子高齢化による人材不足や不確実性の高まりが挙げられるでしょう。
少子高齢化の影響により、人材不足に悩まされる企業が増えています。新たな人材の採用が難しいとなれば、いまいる人材を有効活用して企業の生産性を向上させることもひとつの手段です。
一方、現代は不確実性の高い時代ともいわれていて、先行きの不透明さから市場で成功を収めるための戦略を見出すことが困難な状況になっています。また、企業が求める人材像も変化してきており、幅広い知識やスキルを持ったゼネラリストから、特定の分野に特化したスペシャリストが求められる時代へと変化しつつあります。
このように、採用後も教育や人事評価について向き合う必要性が高まったことから、人材マネジメントの在り方を見直す企業が増えてきているのです。
人材マネジメントポリシーを作成するメリット
人材マネジメントポリシーを作成する4つの代表的なメリットを解説します。メリットを正しく理解し、作成の必要性を認識しましょう。
企業のブランディングにつながる
人材マネジメントポリシーを作成しPRすることは、企業のブランディングやイメージアップにつながります。
特に採用シーンでは、求職者にどのような価値観の会社かを事前に理解してもらえるため、ミスマッチの抑制効果も期待できます。
「この会社で働いてみたい」と思えるような、魅力的な人材マネジメントポリシーの策定がポイントです。実現できれば、応募率の向上や内定辞退率の低下などが望めるでしょう。
企業理念・ビジョンが社内に浸透する
人材マネジメントポリシーを作成することで、企業ビジョンが社内に浸透しやすくなるメリットもあります。企業の考え方や価値観が言語化されると、社員もそれを理解しやすく、同じ方向を向くことができるためです。
社員一人ひとりが自身の果たすべきミッションを認識し、足並みが揃うことで生産性の向上、さらには企業全体の成長も期待できるでしょう。
従業員のエンゲージメントの向上につながる
人材マネジメントポリシーと従業員のエンゲージメントは、密接に関係しています。適切な決まりを策定すれば、エンゲージメントの向上が可能です。例の一つに、人事の評価制度が挙げられます。
人事制度や評価の基準が不透明な場合、納得感が得られず従業員は不満を抱きます。人材マネジメントポリシーで明確な評価基準を設け、決まりに沿った制度設計・運用を行うことで、公平性のある評価の実現につながるのです。公平な人事評価は自社に対する信頼の醸成を促し、エンゲージメントの向上にも寄与します。
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競合他社との差別化につながる
企業独自の方針や価値観が反映される人材マネジメントポリシーは、競合他社との差別化においても重要な働きをもちます。企業オリジナルの考えを策定・浸透することで、独自性が具現化されやすくなり、自ずと差別化が図れるのです。
独自の方針や価値観にもとづく行動、意思決定一つひとつが企業らしさを形作り、他社との違いとして認知されていくでしょう。
組織文化の醸成が見込める
人材マネジメントポリシーを作ることで、組織文化の醸成が見込めるのもメリットのひとつです。組織文化とは、企業全体で共有されている価値観などを指します。顧客への対応や提供するサービスにも通ずる部分であり、外部からの企業イメージに直結するものでもあるのです。
人材マネジメントポリシーとして、何をよしとし大切にするかを示すことで、それに沿った行動が蓄積・共有されていき、組織文化として根付いていくことが期待できます。
人材マネジメントポリシーの作り方
人材マネジメントポリシーは、基本的な流れに沿って作るのが効率的です。人材マネジメントポリシーの作り方を4つのステップで解説します。
企業ビジョン・戦略を可視化する
人材マネジメントポリシーを設計する前に、自社のビジョンや戦略を可視化することが重要です。優れたビジョンがあっても、従業員に伝わらなければ意味がありません。わかりやすく可視化したうえで人材マネジメントポリシーに反映すれば、より理解を得られる内容に仕上げることができます。
自社が掲げるビジョンや戦略、理想とする組織像を明確にし、それにもとづいて設計していくことで、有用な人材マネジメントポリシーを策定できるでしょう。
策定したビジョン・戦略と現状とを照らし合わせる
可視化したビジョン・戦略を現状に照らし合わせて、人材マネジメントポリシーの方向性を整えます。人材マネジメントポリシーはただ掲げるだけでは意味がなく、戦略と連動していること、実行可能であることが重要です。
企業のビジョンや戦略と乖離のある人材マネジメントポリシーでは、一貫性のある事業運営ができません。自社の目標と現状の課題を考慮し、実現可能な方針を打ち出すことで、理想とする人事政策に近づけます。
評価基準を定める
ある程度原案が固まったら、人材マネジメントポリシーにもとづいた評価基準を定めましょう。人材マネジメントポリシーでは「個人の成果を尊重する」としているにもかかわらず、評価基準に成果が含まれていなければ矛盾が生じ、かえって社員に不信感を与えてしまいます。
評価基準を設定する際は、人材マネジメントポリシーに矛盾していない項目を作ることが大切です。一貫性のある基準を設け、昇進や報酬といった成果を具体的に盛り込んで作成しましょう。
人材マネジメントポリシーに沿った取り組みを促進する
人材マネジメントポリシーおよび評価基準を社員に周知し、政策内容に沿った取り組みを促進しましょう。
まずは経営陣やマネジャーへの研修などを通して、人材マネジメントポリシーの内容を把握してもらいます。上層部が理解を深めたうえで社員に周知・啓蒙すると、取り組みを円滑に進めることが可能です。
取り組みを行っていくうえで、改善点などが挙がれば定期的に見直し、人材マネジメントポリシーの研磨にも努めていきましょう。
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人材マネジメントポリシーを策定する際の注意点
人材マネジメントポリシーを策定するにあたり、知っておくべき注意点を4つ解説します。取り組みの有効性にも関わるため、ポイントを押さえておきましょう。
部署・社内の従業員から多角的に意見を取り入れる
人材マネジメントポリシーを策定する際は、部署や社内の従業員からさまざまな意見を取り入れるとよいでしょう。
経営層の意見だけでは、社員一人ひとりの考え方や要望が反映されず、会社からの一方的な要求と捉えられてしまう可能性があるためです。
現場の声を積極的に取り入れたうえで、価値観や方針などの柱となる要素を決めましょう。できるだけ多くの従業員の意見を取り入れることで、納得感が高く社員に馴染みやすい人材マネジメントポリシーを策定することができます。
人材像だけではなく選考プロセスについても発信する
求める人材像だけではなく、選考プロセスについても発信を行い、人材マネジメントポリシーの精度を高めましょう。
選考プロセスは非公開であるのが一般的です。すると、求職者は雇用条件などのハード情報しか得られず、結果的にミスマッチが起こりやすくなります。
人材マネジメントポリシーに選考プロセスを設けて発信することで、企業風土や雰囲気が伝わりやすくなるでしょう。エントリーの段階で考え方や価値観が正しく共有され、ミスマッチの抑制効果も期待できます。
ホームページで公開する場合は多言語対応にする
自社のHP上で人材マネジメントポリシーを公開する際は、主要国の言語に対応した多言語ページを用意するのが理想です。
とくに、自社の商品やサービスを海外に向けて発信する必要がある場合は、コアなファンの獲得につながる可能性があります。また、採用の場面においても、優秀な海外人材の目に留まることがあるかもしれません。
グローバル化が加速している昨今において、多言語対応ページを用意しておいて損はないといえるでしょう。
定期的に人材マネジメントポリシーの見直しを行う
人材マネジメントポリシーは、策定したら終わりではなく、定期的に見直しを行うことが大切です。なぜなら、自社のフェーズが変わるにつれて、方針や考え方を刷新する必要があるためです。
見直しの際も、社員の声に耳を傾けることが重要となります。現在の状況を現場で感じている社員の意見は貴重であるため、新たな政策づくりに有効活用すべきです。納得感を持って運用に協力してもらうためにも、社員の意見を取り入れる姿勢を示し、人材マネジメントポリシーの刷新を行いましょう。
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人材マネジメントポリシーの取り組み事例
人材マネジメントポリシーの取り組みを行っている事例を4社紹介します。政策の具体的な内容、考え方などを参考にしてください。
株式会社リクルート
株式会社リクルートは「価値の源泉は人」という価値観を掲げ、社員個人に求めるものと会社が提供するものをそれぞれ分けて定義しています。
個人に対しては自律性やチームワークを求めるほか、個と組織の双方で進化してほしいことを説いています。対して企業側は、経歴の異なるさまざまな人が活躍できるよう、よりよい仕組みづくりや働き方の提供を宣言しているのです。
これらの人材マネジメントポリシーを柱とし、評価や育成の制度が設計されています。会社から社員に一方的な要求をするのではなく、会社から社員に提供するものまで提示していることで、会社と社員が対等であろうとする姿勢が伺えます。
[参考:株式会社リクルート「人事制度・仕組み]
住友商事株式会社
住友商事株式会社では、グローバルベースの人材マネジメントポリシーを掲げ、国内外を問わずグループ全体に向けて発信しています。
個人と組織の双方で目指す姿を具体的に明示しているのが特徴です。個人は自ら進み成長し続けることを目標にし、組織は次なる革命へ挑戦する場として支持されることを目指しています。
価値観や具体策の可視化が行き届いている点もポイントでしょう。人材マネジメントの中核となる考えを7つ定義し、さらにその実現方法を6つに分けて説明することで、施策の内容がわかりやすくなっているのです。人材確保、処遇の公平性、評価や配置といった具体策を説き、行動の推進を図っています。
[参考:住友商事株式会社「グローバル人材マネジメントポリシー」]
株式会社アイデミー
既存のミッション・バリューが抽象的であるがゆえ問題が起こったとし、人材マネジメントポリシーで解決を図ったのが株式会社アイデミーです。明確に行動を示す指針として「会社と社員の約束事」という形で導入しました。
社員から会社へ、会社から社員への約束事を3つずつ掲げています。互いに約束を守ることで、バリューの継続的な創造と最大化を図ることが目標です。約束事は具体的に言語化されていますが、さらに噛み砕いて提示するDos & Don’tsという行動指標の策定も進めています。
同社では、個人間で受け取り方の差が生まれたり、会社が期待していない行動を取る人の割合が増えたりと、抽象度の高い目標が原因で一体感が薄れていました。異なるキャリアの社員同士が共通認識を持てるよう、具体的な人材マネジメントポリシーの策定にこだわったことが感じられます。
[参考:株式会社アイデミー「アイデミーの人材マネジメントポリシーを策定しました!」]
UUUM株式会社
Youtuber事務所として知られるUUUM株式会社では、「想いの熱量でセカイを切り拓く」という経営理念のもと、「自己を超え、チームでエンタメを創造する」と題した人材マネジメントポリシーを掲げています。
個人の創造性・価値向上に重きを置いてきた同社が、次のステージに進むために行ったのが「チームワーク性」を取り入れたポリシーの策定です。社員やクリエイターはもちろん、クライアントも巻き込んだチームワーク性で、革新的エンターテイメントの創成を志しています。
また、個人・チームが活躍できる機会の提供、成果へ応える姿勢が必要であるとし、その実現にも意欲的です。社員一人ひとりが自分事として共創に励むことも重視し、エンタメの創造を実現していくと説いています。
[参考:UUUM株式会社「【採用メッセージ】UUUMの人材マネジメントポリシー」]
人材マネジメントポリシーを策定して企業の成長を促進しよう
会社の人材に対する考え方や価値観を言語化するのが、人材マネジメントポリシーの役割です。社員一人ひとりが会社の方向性や自身のミッションを理解するために、必要不可欠な要素といえます。
適切な人材マネジメントポリシーを策定できれば、社員の一体感・エンゲージメント・生産性が向上し、企業成長の大きな追い風となる可能性があります。理念やミッションを今一度見直し、自社にあった最適な人材マネジメントポリシーを策定しましょう。
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