リテンションマネジメントとは?重要性や事例・取り組むメリットを解説
従業員のエンゲージメントを高める取り組みとして注目される「リテンションマネジメント」。既に多くの企業で取り組まれていますが、そもそもリテンションマネジメントとはどのような取り組みなのでしょうか。本記事では、リテンションマネジメントの概要や目的、重要性を詳しく解説します。
目次
リテンションマネジメントとは?
人事領域におけるリテンションマネジメントとは、従業員に長く働き続けてもらうことを目的に、エンゲージメント向上や離職防止を目指して行うあらゆる取り組みのことです。
具体的には、労働環境や社内制度の整備・改善、適切な評価体制の構築、成長機会の提供などの取り組みが有効であるといわれています。
厚生労働省の若年者雇用実態調査結果によると、平成30年時点で7割以上の企業が「社員定着のための対策を行っている」と回答しています。
[参照:厚生労働省「H30年若年者雇用実態調査結果の概況」]
リテンションマネジメントの目的
リテンションマネジメントの目的は、優秀な人材に長期的に働いてもらうことで採用コストの抑制と生産性向上を目指すことにあります。
昨今、業界や業種を問わず人材不足が深刻化しており、いかに優秀な人材を確保するかは、多くの企業にとっての課題です。また、せっかく優秀な人材を採用・育成しても離職によって人材が流出してしまうこともあるでしょう。
その都度、新たに従業員を採用することになりますが、採用には、人材仲介費、広告費、教育・育成費など、さまざまな内外のコストがかかります。
そのため、企業は離職を防止して採用コストの抑制を目指すとともに、従業員のエンゲージメントを高めて、主体的に業務に取り組むことで高い生産性を確保する、リテンションマネジメントを行う必要があるのです。
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リテンションマネジメントの重要性とは?
近年、経済環境の変動や社会の変化に伴い、リテンションマネジメントの重要性がより一層高まっています。
ここからは、リテンションマネジメントの重要性を詳しく解説します。
少子高齢化に伴う労働人口減少に対応するため
少子高齢化が進行する中で、労働人口の減少は企業にとって深刻な課題となっています。新たな人材の確保が難しくなるうえに、自社の経験豊富な人材の流出も避けなければいけません。
リテンションマネジメントによって、価値ある人材の確保と維持を目指すことで、企業の競争力や生産性を維持・向上させることが可能となります。
人材の流動性に伴う離職者の増加に対処するため
キャリアの多様性や働き方の変革により、フリーランスでの働き方を選ぶ人が増え、転職サイクルも短期傾向にあるなど、人材の流動性が高まっています。
優秀な人材の流出は、企業にとって大きな利益損失となる一方で、「売り手市場」と言われる転職市場では、魅力的な労働環境でなければ、従業員が離職を決断するのは、当然の結果ともいえるはずです。
そのため、リテンションマネジメントを適切に導入することで、仕事内容や労働環境へのエンゲージメントを高め、「この会社で働こう」と思える動機づけを行う必要があるのです。
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リテンションマネジメントに取り組むメリット
リテンションマネジメントは、企業にとって数多くのメリットをもたらします。
ここからは、リテンションマネジメントに取り組むメリットを5つ紹介します。
人材の採用・育成にかかる費用を削減できる
リテンションマネジメントの適切な取り組みは、人材の採用や育成に関わるコストを大きく軽減する効果があります。
新たな人材の採用には、募集、選考、研修などの多くの費用が発生し、一般的には、社員1人あたり数十万円以上の採用コストがかかるといわれています。しかし、定職率が高く、そもそも採用活動を行う必要がなければ、これらのコストは不要です。また、採用事務のほか、育成担当者が教育にあたる時間や手間もなくなるため、既存の従業員の生産性向上も期待できるでしょう。
企業イメージの向上が期待できる
リテンションマネジメントの積極的な取り組みは、企業イメージの向上にも貢献します。
離職率の低さは、良好な労働環境の証としての評価につながるのはもちろん、充実した福利厚生、キャリアアップ機会の提供といった、リテンションマネジメントの施策は、求職者からの「従業員の満足度を重視する企業」というイメージ確保にもつながるはずです。
また、良い企業イメージは顧客や取引先との関係構築にも寄与し、ビジネスにおける信頼性も向上するなど、企業の競争力を強化する要因となるのです。
1人あたりの生産性向上が期待できる
在籍期間の長い従業員は、組織文化や業務、プロセスへの深い理解を持っています。その知識や経験は、高い生産性に直結するだけでなく、イレギュラーな事態が起きた時の冷静な問題解決といった場面でも発揮されるでしょう。
さらに、安定した雇用環境は、従業員のモチベーションを高め、新しいアイディアや取り組みを推進する意欲を刺激します。このような環境下では、従業員は自らの役割や業績に対する責任感を強く持ち、目標達成に向けてより効果的に取り組む傾向が見られるのです。
エンゲージメントの向上が期待できる
リテンションマネジメントの取り組みは、従業員のエンゲージメントの向上にも寄与します。エンゲージメントとは、従業員が自らの仕事や組織に対して感じる愛着心や所属意識のことです。
リテンションマネジメントによって従業員の声を聴き、適切なフィードバックや評価を行うことで、従業員の仕事に対する情熱やモチベーションを高めることが可能です。
エンゲージメントが高まると、従業員の積極的な取り組みや創意工夫が増え、組織全体のパフォーマンスも向上します。また、高いエンゲージメントは、従業員の離職率を低減させる効果も期待できます。
ナレッジが蓄積される
長期間在籍する従業員は、業務効率や生産性を上げるためのノウハウに精通しています。このようなナレッジの蓄積は、新入社員の教育にも活用され、組織の学習スピードを高めることにも役立てられるなど、組織全体のスキルレベル向上にも好影響をもたらすでしょう。
また、ベテラン社員による組織内外の広範なネットワークが、新たなビジネスチャンスを生んだり、早期の問題解決につながったりすることもあります。長く働く従業員によるナレッジの継続的な蓄積は、企業の持続的な成長と革新の基盤にもなり得るのです。
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リテンションマネジメントに取り組むデメリット
リテンションマネジメントには多くのメリットがありますが、同時にデメリットも考慮する必要があります。
ここからは、リテンションマネジメントに取り組むデメリットを2つ紹介します。
職場環境を整える必要がある
リテンションマネジメントの成功には、良好な職場環境の構築が不可欠です。
たとえば、コミュニケーションを活性化するためのオープンスペースの設置、休暇制度の見直し、柔軟な勤務形態の導入など、設備や制度といった多岐にわたる取り組みが必要となり、これに伴うコストや時間が発生します。内容によっては、組織文化や価値観の変革が求められる場合もあり、実現に向けては経営層のコミットメントが欠かせません。
すぐに効果を感じられるわけではない
リテンションマネジメントの効果は、短期間で目に見えるものではありません。特に、組織文化や従業員の意識に対するアプローチは、長期を見据えた効果測定が求められるでしょう。
経営層は、即効性のみを期待するのではなく、長期的な視点を持って、社員の声を取り入れながら持続的な取り組みを続けることが大切です。
リテンションマネジメントを成功させるためのポイント
リテンションマネジメントの成功には、具体的な戦略や取り組みが求められます。
ここからは、リテンションマネジメントを成功させるためのポイントを4つ紹介します。
組織の現状を把握する
組織の現状を把握することは、リテンションマネジメントの第一歩です。従業員のモチベーション、コミュニケーションの状態、職場環境、そして離職理由などの多角的な情報を収集し分析することで、組織の強みと課題を明確にします。
具体的な調査方法としては、アンケート調査やインタビュー、定期的なフィードバックセッションなどが挙げられます。現状の正確な把握は、今後の戦略策定や改善活動の基盤となり、効果的なリテンションマネジメントの展開をサポートします。
組織の目指すべき姿を明確にし周知する
組織の目指すべき姿であり、従業員の行動指針となるビジョンやミッションを策定し、全員に周知することで、組織全体の方向性や目的意識が統一できます。
組織の目標や方向性への共感度を高めることは、組織に所属し、仕事をするうえでの自らの動機づけにもなるのです。
適切な評価制度を構築する
公正かつ透明性のある評価制度は、従業員に自らの業績や成果が正当に評価されていることを実感させ、モチベーションの維持に寄与します。
モチベーションへの影響だけでなく、適切な評価は、従業員への気づきや改善点の発見を促すため、パフォーマンスの向上へとつながり、組織全体の生産性向上も期待できるでしょう。
育成担当者のスキル向上を図る
人材育成担当者のスキル向上は、リテンションマネジメントの成功に直結します。
育成担当者が持つべきスキルは、コミュニケーション能力、適切なフィードバックができる業務への高い理解度、リーダーシップ、問題解決能力などです。これらのスキルが高いレベルで発揮されていれば、人材育成のプログラムは、従業員のスキルを向上させるだけでなく、自己成長を実感できる機会としても機能し、社員満足度を上げることもできるでしょう。
適切な育成プログラムとフィードバックの提供は、信頼関係の構築にも効果を発揮し、組織全体の離職率の低下にも寄与します。
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リテンションマネジメントの成功事例
ここからは、リテンションマネジメントに成功した3社の事例を紹介します。
カネテツデリカフーズ株式会社
加工食品の製造・販売を行うカネテツデリカフーズ株式会社では、入社前の個別教育や生産現場実習などの新人に向けた各種研修により、離職率の低下を実現しています。
同社では、十分な経験や知識がないまま新人が職務に就いていたことで、早期の離職率が高くなっていました。そこで、マンツーマンでの研修を導入。丁寧な研修でコミュニケーションの改善や教育環境を整えたことで早期離職の防止に成功しています。
[出典:カネテツデリカフーズ株式会社「新規学卒者教育展開の3原則」]
株式会社鳥貴族ホールディングス
主に焼鳥屋(居酒屋)を展開する株式会社鳥貴族ホールディングスは、入社後のフォローを徹底することで、離職率を大幅に低下させています。背景には、Webアンケートシステム「HR OnBoard」の導入が大きく関係しています。
採用担当者の主観によって行われていた新入社員のフォローを、Webアンケートの実施によって可視化された客観的データをもとに行う体制へと変更。フリーコメント欄で従業員の本音を聞いて職場環境の改善につなげるなどの取り組みも併せて行い、離職率を大幅に改善しています。
[出典:エン・ジャパン株式会社「株式会社鳥貴族の導入事例」]
Sansan株式会社
各種クラウドサービスを提供するSansan株式会社は、通勤ストレスの低減を目的として、本社の近くに住むことで家賃の一部を補助する近隣住宅補助制度を導入しました。この制度によって、通勤による心身の負担を抑え、より業務に集中できる環境づくりを推進しています。
従業員からは、実際に通勤時間のストレスや疲労が減ったため、仕事におけるメリハリをつけられるようになったとの声が寄せられています。ほかにも、テレワークや懇親会費用を補助する制度などの導入により、従業員が働きやすい環境を整えて低い離職率を維持しています。
[出典:Sansan株式会社「通勤のエネルギーを業務へ!近隣住宅補助制度「H2O」」]
リテンションマネジメントの重要性を理解し積極的に取り組もう
近年、企業における人材の確保と維持は、業界や業種を問わず喫緊の課題となっており、リテンションマネジメントは、これらの課題に対応するための効果的な手法として注目を集めています。
「従業員のための施策」と思われがちですが、従業員の満足度やエンゲージメントを向上させることで、組織の成長や競争力の強化が図れること、さらに、定職率の改善は、採用や教育のコスト削減に直結するなど、組織としてのメリットにもつながる取り組みです。重要性や利点を正しく理解し、積極的に取り組みましょう。
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