マネジメントできる限界の人数とは?適正人数やスパン・オブ・コントロールについて解説
1人の管理職が適切にマネジメントできる人数を表す「スパン・オブ・コントロール」。部下の能力を最大化するには、適正人数でマネジメントを行う必要があります。本記事では、マネジメント可能な適正人数やスパン・オブ・コントロールの概要、人数が多い場合の対処法をあわせて解説します。
・マネジメントの適正人数は、5〜8人であり、マネジメントできる限界の人数は10名が目安
・マネジメントの適正人数を超えてしまうと、さまざまなトラブルを招くリスクがあるため注意が必要
目次
マネジメントの適正人数|スパン・オブ・コントロールとは?
スパン・オブ・コントロールとは、1人の管理職が同時にマネジメントできる適正人数を指します。
一般的に、1人の管理職がマネジメントできる部下の人数は、5〜8人が目安で多くても10人までです。部下の人数が10人を超えると、評価や育成などの難易度が上がってしまうといわれています。
最近では、Amazon.com, Inc.のCEO・ジェフ・ベゾスが「ピザ2枚ルール」という理論を提唱し、人員編成について言及しています。ピザ2枚ルールとは、「ピザ2枚では足りないチームを編成すべきではない」ということを示す理論です。チームの人数を少なくすることで、意思決定の際のオーバーヘッドコストを削減できます。このことから、5〜8人が適正人数と言えるでしょう。
[出典:AWS Executive Insights「高いパフォーマンスを発揮する組織 - Amazon ピザ 2 枚チーム」]
マネジメントできる限界の人数について
マネジメントできる限界の人数は、最大で10人までです。10人を超えると、管理職はメンバーをフォローする時間が十分に確保できず、結果としてトラブルを招く可能性が高まるでしょう。
特に、プレイヤー型リーダーの場合は、顧客との商談や社内会議で不在の時間も多くなります。プレイヤーの活動時間が長くなると、メンバーが相談や報告をしづらくなるため注意が必要です。
また、マネジメントする人数が多い場合は、情報共有やビジョンの浸透も難しくなり、チームとしての結束力が低下します。結果として協調性が低下し、人間関係の希薄化や作業効率の低下につながるのです。
しかし、チームの適正人数は取り巻く状況によっても異なります。状況や要件に合わせて、慎重に人員編成を行うことが大切です。
マネジメントが可能な適正人数を決定する要素
スパン・オブ・コントロールでは、マネジメントの適正人数は5〜8人を目安としています。しかし、リーダーの素質やタイプ、組織の形態によって、マネジメントの適正人数は大きく異なります。
ここからは、4つのリーダー・組織のタイプごとにマネジメントが可能な適正人数を見ていきましょう。
- プレイヤー型リーダー
- 司令塔型リーダー
- 課題解決型組織
- オペレーション型組織
それぞれ詳しく解説します。
プレイヤー型リーダー
プレイヤー型リーダーとは、現場で活躍するプレイヤーと管理職を兼任するタイプのリーダーです。業務遂行の能力が高いものの、協調性やマネジメント能力に乏しいケースが珍しくありません。
自身もプレイヤーとして現場で活動するため、担当業務に割く時間も確保しなければならず、必然的にスパン・オブ・コントロールの範囲は限定されます。部下のマネジメントに割く時間も減り、業務のフォローやメンタルケアも不足する傾向にあります。
そのため、プレイヤー型リーダーが率いるチームは、3〜5人程度の少人数チームがおすすめです。チームメンバーには、実務経験を一定以上積んでいる優秀なプレイヤーを選出してください。
司令塔型リーダー
司令塔型リーダーは、プレイヤーとして能力は高くないものの、コミュニケーション能力や調整能力に優れているタイプです。メンバー一人ひとりの作業負荷や進捗状況などに細かく気を配れるため、大人数のマネジメントに適しています。
業務を進めやすい環境を整備し、メンバーのスキルアップやモチベーションアップが望める点もプラスです。ただし、リーダーによってマネジメント可能な人数は変動します。過去の実績を見ながら、慎重にチームの人数を決めていきましょう。
課題解決型組織
課題解決型組織とは、業務内容やプロセス・期限などの具体的な内容を一から決めておくべき組織です。
課題解決型組織がマネジメントする場合の適正人数は、4〜7人程度です。チームメンバーは案件内容に応じて臨機応変な対応を求められるケースが多く、メンバー同士の連携やコミュニケーションの質が重要になります。
メンバーが少ないほど情報共有がしやすいため、チームの構成人数は4〜7人程度が理想でしょう。チームの人数が8人以上になった場合は、メンバー全員と頻繁にコミュニケーションを取ることが難しくなります。
結果としてメンバー間の相互理解が深まらず、作業の進捗状況も不透明になり生産性が低下する可能性があります。
オペレーション型組織
オペレーション組織とは、業務内容やプロセス、工数などがルーティン化されている組織で、最大15人程度までマネジメントが可能です。
ただし、15人をマネジメントする場合、管理職の他にリーダー役の設定が条件です。リーダーを置くことで、管理職の業務負担が軽減してマネジメントの質が向上します。
リーダー役の配置によって業務の指示系統が明確になり、伝達ミスによるトラブルが発生しにくい点もメリットです。
またオペレーション型組織の場合、業務の流れや内容・遂行方法は、チーム内である程度確立されている状態です。そのため、「進捗状況に遅れはないか」「緊急対応の業務は発生していないか」など、確認事項の内容も限定されます。
課題解決型組織と比べコミュニケーションが少なくて済むため、比較的多くの人数をマネジメントできます。
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スパン・オブ・コントロールを超えた場合の対処法
ここまで、マネジメントの人数が多い場合に生じるリスクを紹介しました。しかし、人材不足によって、1人の管理職が多くのメンバーを見なければならないケースもあるはずです。
ここでは、スパン・オブ・コントロールを超えた場合の対処法を5つ紹介します。
管理職を増やす・部下の人数を減らす
一つ目は、管理職の増員や部下の人数を減らして、管理職1人あたりの業務量を削減する方法です。管理職を増やす場合は、責任や指揮決定権の所在を明確にしておきましょう。
曖昧な状態だと、トラブルが発生した際にどの責任者に相談すべきか部下が判断に迷います。意思決定に時間がかかると対応が後手に回り、被害状況や利益損失の額が大きくなる可能性があります。
そのため、責任や指揮決定権は特定の管理者に集約しておきましょう。また、部下を減らす場合は、業務の割り当てを事前に決めておく必要があります。
後任が決まらないと担当者は業務の引き継ぎができず、全体の進捗にも影響を及ぼします。管理職が担当するのか、同じメンバーに割り当てるのかを事前に決めておきましょう。
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管理職を増やした場合のメリット・デメリット
管理職を増やした場合、複数の管理職で管理業務を分担できるため、生産性の向上が期待できます。うまくチームをまとめて、業務効率を向上させられるでしょう。
一方で、管理職は人件費が高い傾向があるため、複数人になると人件費も高くなってしまう点がデメリットです。また、管理職間で意見が食い違うと業務にロスが発生する恐れがあり、生産性も低下するでしょう。
管理職を増やす場合は最終責任者を決めて、万が一意見の食い違いなどが起きても対処できるようにしておくことが大切です。
部下の人数を減らした場合のメリット・デメリット
部下の人数を減らした場合、マネジメントをする人数が減るため管理職の業務に余裕が生まれます。また、人数が減ることで全体のコミュニケーションが取りやすくなる点もメリットです。
しかし、労働力が下がってしまうため、業務の遂行に支障が出る恐れがあります。部下を減らす場合は、あらかじめ業務の担当を割り当てておき、スムーズな業務進行が行えるようにしましょう。
1-3-9のチームを発足する
1-3-9のチームとは、管理職1人の下に3人のリーダー役を置き、リーダーが9人のチームメンバーをコントロールする方法です。リーダー役は1人で3人のメンバーを担当し、管理職が3人のリーダー役をフォローすれば、合計で12人をマネジメントできます。
1-3-9のチームを発足する上で重要なのは、リーダー役に与える権限の範囲です。権限の範囲が狭すぎると、管理職は都度リーダー役から報告を受けなければならず、負担が増大します。
一方で権限を与えすぎると、重要な内容もリーダーが勝手に判断する機会が増え、組織としての統制が取れなくなります。最初はリーダーの権限範囲を小さく設定して、状況を見ながら徐々に広げていくようにしましょう。
部下に権限を委譲する
管理職が持つ権限の一部を部下に委譲するのも一つの選択肢です。
権限委譲によって、個人の判断で業務を進められる範囲が広がり、スパン・オブ・コントロールも拡大できます。さらに、委譲した人材の潜在能力の開花や人材育成も期待できます。
ただし、判断力に優れた人材が社内にいなければ権限委譲はできません。意思決定には、正確性とスピードが高いレベルで求められます。納期がひっ迫した際やトラブルが起きた場合など、素早い決断が求められるケースは多々発生します。
安心して業務を任せるためにも、判断力に優れた人材がいた場合にのみ権限を委譲するようにしましょう。
組織のデジタル化を図る
組織のデジタル化とは、自社の業務プロセスにデジタル技術(DX)を取り入れることです。デジタル化によって、業務効率の改善やペーパーレス化の促進など多くのメリットが期待できます。
例えば、勤怠管理システムを導入し、出退勤時刻や労働時間をシステム上で管理することなどがあげられます。デジタル化の推進によって、システムへ任せられる業務が増加し、管理職の負担も軽減できるでしょう。
ただし、業務プロセス全般を一度にデジタル化するのは避けてください。従業員に大きな負担をかけるだけではなく、取引先にも迷惑がかかる可能性があります。
ビジネスチャットや経費精算システムの導入など、導入しやすい分野から取り組んでみましょう。
▷DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味・定義・重要性をわかりやすく解説
業務マニュアルを作成する
業務全体の流れや手順・注意点を記載した業務マニュアルの作成も有効です。業務マニュアルを見れば業務の進め方がわかるため、業務の属人化を防ぎ、管理職の指導時間も削減できます。
業務マニュアルの作成を効率的に進めるためにも、マニュアル作成ツールの導入を検討しましょう。レイアウトに沿って必要事項を入力すれば、簡単にマニュアルを作成できます。
画像や動画でのマニュアル作成に対応しているツールも多く、機械の操作手順や調理手順など、文章では伝わりにくい業務内容も正確に伝えられます。過去に作成したマニュアルをシステム上で管理できるため、ペーパーレス化が促進できる点もメリットです。
▷業務マニュアルを作成するメリット・デメリットとは?活用方法も解説
チームの人数に応じたマネジメント手法
チームの人数に応じて、最適なマネジメント手法は異なります。ここからは、チームの人数に応じたマネジメント手法を紹介します。
5人未満のマネジメント手法
5人未満のチームの場合、メンバーの能力を最大限発揮させて、専門性を追求できるようにマネジメントを行うのがおすすめです。
例えば、「Aさんは営業に関する業務、BさんはWeb関連業務」といったように、それぞれの専門性が明確になっていれば適切に業務を振り分けられます。また、役割も明確になるため無駄なコミュニケーションコストを削減可能です。
5人未満のマネジメントを行う際は、責任の所在を明確にしましょう。これにより、チームのまとまりを保てるようになります。
少人数の5人未満をマネジメントする場合は、現場で活躍するプレイヤーと管理職を兼任する「プレイヤー型リーダー」が向いているといえます。
5人以上10人未満のマネジメント手法
5人以上10人未満のチーム編成の場合は人数がやや多いことから、何か問題が発生した際もすぐに対処できるようマネジメントを行うことが大切です。
5人未満のチームと比べてメンバーの役割も増えて、責任の所在や役割分担が曖昧になってしまう恐れがあります。また、メンバー間の能力の差が生じる可能性もあるため、フォローが必要になる場面もあるでしょう。
5人以上10人未満のチームでは、基本的にメンバーの間を取り持つ役割であることを意識して、マネジメントを行ってみてください。
10人以上のマネジメント手法
10人以上のチームの場合は、規模が大きいため就業規則などで明確なルールを設けて、統率をとる必要があります。
メンバーの人数が多くなると、メンバー間の価値観の違いや能力差が生じやすく、管理職にはよりマネジメント能力が求められます。
しかし、10人以上の規模はスパン・オブ・コントロールの範囲を超えているため、1人の管理職では対処しきれないでしょう。適切なマネジメントを行うためには管理職を増やすか、チームを分割して規模を小さくしなければなりません。
人数が多い場合の管理職は、コミュニケーション能力や調整能力に優れる「司令塔型リーダー」が適任です。
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スパン・オブ・コントロールの実行事例
スパン・オブ・コントロールの事例として、Google社の事例を紹介します。
同社は、最小人数で最大限の成果を生み出すことを重視しています。1人の管理職がコントロールする人数を7人以内と設定し、チームの生産性向上やマネジメントの強化に努めています。
また、管理職にさまざまなルールを設けています。例えば、マネジメントに専念するため基本的にルーティンワークは担当しません。ルーティンワークはできる限り自動化しています。
また、愚痴や揉め事などはチームに良い効果をもたらすものとして認め、オープンなコミュニケーションが取れる環境を構築している点も特徴です。
ほかにも、チームメンバーの「個性」に応じて接し方を変えており、メンバー同士で信頼感が生まれる話し方や接し方を意識的に行っています。
スパン・オブ・コントロールを理解して適切なマネジメントを
スパン・オブ・コントロールは5〜8人が目安で、1人の管理職がマネジメントできる適正人数も同様です。しかし、リーダーのタイプや組織形態によって適正人数は大きく変動します。
一般的にマネジメントできる最大人数は10人程度とされているため、メンバーが10人以上になる場合は管理職を増やすか、チームを分割するなどして対処しましょう。大人数のチームのマネジメントを行う際は、本記事を参考にして対策を講じ、リスク回避に努めてみてください。
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