BYODとは?企業や教育分野で活用するメリット・デメリットを解説
働き方改革やテレワークの普及などにより、近年広がりを見せているBYOD。BYODとは、自身の端末を業務で利用することを意味していますが、一体どのようなメリットがあるのでしょうか。本記事では、そんなBYODのメリットやデメリットについて詳しく解説していきます。
目次
BYODとは?
BYOD(Bring Your Own Device)とは、プライベート端末の活用を意味する言葉です。もともとアルコール類や肉類の持参を求めるレストラン用語として浸透していたBYO(Bring Your Own)から派生し、BYODという言葉が生まれたといわれています。
BYODは個人が所有しているPC、タブレット、スマートフォンなどの各種デバイスを、私的利用に限定するのではなく、活躍の場を広げることで、より有効的に活用することを目的としています。
私生活以外でプライベート端末を利用するシチュエーションとして、候補に挙がっているのが企業や学校です。ビジネスや学業にもプライベート端末を活用することで、コスト削減や作業の効率化が期待されています。
企業におけるBYODとは?
企業におけるBYODとは、各企業が定めたルールに基づき、プライベート端末を業務上でも活用することを指します。
いつ、どのように、どのようなツールを使うかは、業務を円滑に進めるうえで重要な要素です。BYODはデバイスの自由化を通じて、それらの判断に柔軟性を付与し、従業員の主体的な業務改善を後押しします。
近年ではスタートアップ企業やベンチャー企業を中心に、BYODの導入を検討する動きが活発化しています。
学校・教育分野におけるBYODとは?
学校・教育分野におけるBYODとは、児童や生徒が持つデバイスを授業にも活用することを指します。
学校・教育分野において、デバイスの持ち込みには主に4つの種類があります。自由なデバイスを持ち込めるBYODに加え、学校側が指定した仕様や機種の中から選択するCYOD(Choose Your Own Device)、学校側が購入端末を指定するBYAD(Bring Your Assigned Device)、文部科学省が推進するGIGAスクール構想を通じて支給された端末を使用するという4種類です。
2022年時点において、端末の持ち込みに関する選択肢は、国内で完全に共通化されているわけではないため、都道府県や学校によって選択肢が異なる場合もあるでしょう。
BYODの活用が進んでいる背景
これまでは情報セキュリティなどの観点から、プライベート端末の活用は禁じられる傾向にありました。厳しい企業・学校では、職場や校内に持ち込み自体を禁止することも珍しくなかったでしょう。
しかし、近年ではBYODの活用を検討する企業や学校が増えており、その背景には主に3つの理由があります。
テレワークの普及
ここ数年で導入率に大きな伸びをみせたのが、テレワークです。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、総務省の令和2年通信利用動向調査において、2020年時点で企業のテレワーク導入率は、導入予定を含めると50%を突破しています。(出典:総務省「令和2年 通信利用動向調査」)
時を同じくして、学校でもオンライン授業の導入が積極化し、自宅を通じたリモート環境下での学習が急速に普及しています。
この変化によって、職場や校舎でしかできない仕事や学習は次第に減少していきます。それが結果的に今まで存在していたBYODの導入ハードルも下がっていき、BYODの推進を後押しすることになりました。
デバイスの普及
総務省が2021年に発表した通信利用動向調査において、モバイル端末全体の普及率は83%を突破し、国民の生活必需品レベルにまで達しています。
スマートフォン単体で見た場合、学生や会社員として活躍する13歳〜59歳の年代において、同年のスマートフォンの利用率も80%を突破しました。(出典:総務省「令和2年 通信利用動向調査」)
ここまでデバイスの普及が進んだ場合、仮に企業や学校側でデバイスを支給したとしても、買い替えの頻度的にプライベート端末のほうが性能面で優れている可能性は高いでしょう。加えて使い勝手を考慮すると、プライベート端末のほうが扱い慣れているのは明白です。
このような状況下では、プライベート端末のほうが総合点において勝っているケースのほうが多く、わざわざ企業や学校側がデバイスを支給する必要がありません。
そのため、BYODの導入を通じて、デバイスの自由化を図る企業や学校が増えているのです。
ペーパーレス化の推進
近年では契約書や教科書などをデジタルに置き換える、ペーパーレス化の動きが加速しています。ペーパーレス化が進めば、必然的にデバイスの利用頻度が上がります。
しかし、これまではデバイスの持ち込み・持ち帰りを制限する企業や学校が多く、ペーパーレス化の障害にもなっていました。この突破口として注目されたのがBYODです。
BYODによるデバイスの自由化は、紙媒体に投じていた膨大なコストの削減にもつながります。加えて働き方や学び方に多様性が生まれるため、利用者にもメリットがあります。
両者に利益が生まれることで、BYODに対して肯定的な環境が少しずつ醸成されていきました。
BYODを企業で活用するメリット・デメリット
BYODを企業で活用する場合、主に持ち込まれるデバイスはパソコンやスマートフォンです。これらのプライベート端末を業務にも使用した場合、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
企業のメリット
企業の主なメリットとしては、コストの削減と業務の効率化にあります。
コスト削減
近年、デバイスの性能向上のスピードは著しく、今販売されている端末がわずか数年で低スペック扱いになることも珍しくありません。
業務を円滑に進めるためにも、企業は従業員に支給する端末を定期的に買い替える必要があります。しかし、BYODによってデバイスの自由化が進むと、社用のPCや携帯がなくても大半の業務を処理できます。
ハイスペックPCを必要とする業務もあるでしょうが、全従業員を対象とした社用デバイスの支給が必要なくなれば、端末購入費の削減につながるため、大幅なコストカットが実現できるでしょう。
業務効率化
BYODを活用するメリットは、デバイスを利用する場所や機能が限定されない点です。プライベート端末であれば、持ち帰り申請を処理する必要もありません。
また、現在のノートPCやスマートフォンに関しては、市販で提供されている製品でも十分な性能があります。法人向けに販売されている製品と比較しても、スペック面で業務に支障をきたすことは少ないでしょう。
近年ではクラウドサービスの利用シーンが増え、オフィス外でも業務を処理できるため、あえて社用端末とプライベート端末を使い分けるよりも、従業員が使い慣れているデバイスを活用してもらったほうが、結果的に業務の効率化にもつながります。
企業のデメリット
BYODはコスト削減や業務効率化が期待できるなど、企業にとって複数のメリットがあります。一方でBYODの普及率は決して高いわけではありません。
総務省が2018年に発表した情報通信白書では、株式会社三菱総合研究所の調査結果をもとに、国内の企業活動におけるBYODの許可が20%未満と、他国と比べてBYODの普及率が低いことを明らかにしています。(出典:総務省「平成30年版 情報通信白書」)
企業にBYODの活用をためらわせているのは、主にセキュリティ対策と運用ルールの策定が影響しています。
セキュリティ対策が必要になる
プライベート端末を業務に活用する場合、セキュリティリスクは避けて通れません。
業務とは異なり、プライベート端末はあらゆる利用シーンが想定できます。接続方法や場所、インストールするアプリ、アクセスするWebサイト、ダウンロードするデータなどは多岐にわたるでしょう。
加えて、端末における仕事とプライベートの区別がなくなるため、何気ない操作が機密情報の持ち出しにつながる可能性もあります。それを予防するためにも、セキュリティ対策をより強固な状態にすることが重要となるでしょう。
運用ルールを整備する必要がある
機密情報の流出を防ぐためには、プライベート端末で行える業務を明確化し、運用ルールを整備する必要があります。
ルールが定まっていない場合、会社の情報資産に対するアクセス意識が緩くなるだけでなく、就業時間外の業務を助長してしまう可能性もあります。
とはいえ、複雑で過剰なルールの設定は、従業員の負担や不満を与えるきっかけになりかねません。そのため、可能な限りシンプルで守りやすいルールを設定することが大切です。
BYODを学校・教育分野で活用するメリット・デメリット
BYODを学校・教育分野で活用する場合、主に持ち込まれるデバイスはタブレットやノートPCです。これらのプライベート端末を授業にも使用した場合、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
学校・教育分野のメリット
学校・教育分野の主なメリットとしては、コストの削減とICT教育の促進にあります。
コストを抑えることができる
1つは企業と同様に、コストメリットの恩恵を受けられる点にあります。特に学校・教育分野では、企業よりもハイスペックPCを必要とするシチュエーションが少ないため、BYODを推進しやすいといえるでしょう。
近年はオンデマンド教育が普及したことで、パソコン教室を廃止して、これまで発生していたランニングコストを削減する教育機関も増えているようです。
また、CYODやBYAD、GIGAスクール構想など、デバイスの選定パターンが多く、学校・教育機関には大きな負担となっています。
これらがBYODに切り替わるだけで、学校・教育機関がデバイスの機種や仕様に悩むことがなくなり、より本質的な業務に集中できるようになります。
ICT教育を促進することができる
政府が未来社会のコンセプトとしてSociety 5.0を提唱するなど、デジタル技術の重要性は日に日に高まっています。
そのため、義務教育の段階から、日常的にデバイスに触れる環境を提供することは、将来的に必要となるITリテラシーを学ぶ機会にもなります。
英語の授業にしても、近年ではWeb会議ツールを介して海外の学校とつながり、本格的な英語を体感できるなど、授業内容の幅は広がっています。
また、社会進出後はプレゼンテーションの機会が増えるため、学生の頃から検索や資料作成、発表能力をより実践に近い環境で学べることは非常に有効です。
BYODを通じてICT教育が促進されれば、学生のITリテラシーが高まるだけではなく、社会進出後のギャップ解消にも期待が持てるでしょう。
学校・教育分野のデメリット
学校・教育分野の主なデメリットとしては、セキュリティ対策や集中力の低下にあります。
セキュリティ面での対応が求められる
社会人が持つものと比べ、学生のプライベート端末はフィルタリングや閲覧制限がかけられているものが多いとはいえ、セキュリティ対策が不要というわけではありません。
連絡先や成績など、学校・教育機関のシステムには多種多様な学生の個人情報が保管されています。これらの情報がプライベート端末を介して持ち出されないようにするためにも、端末管理やアクセス制限などの対策が重要となるでしょう。
集中を妨げてしまう可能性がある
プライベート端末には、授業に関係ないアプリも多数インストールされています。アプリの中には、通知機能がオンの状態になっているものも少なくないでしょう。
そのような場合、授業中や在宅学習中に届いた通知の内容がどうしても気になってしまい、集中力を維持できなくなる可能性があります。
近年、学生にとってSNSがコミュニケーションの場として欠かせない存在となっており、そのアクセス手段であるスマートフォンの依存性は極めて高いとされています。
そのため、学習中はプライベート端末の通知を切るなど、公私混同を避けるための工夫が大切です。
BYODを導入する際に必要なセキュリティ対策とは?
BYODの導入ハードルとされるセキュリティ対策において、重要なポイントは主に3つあります。
必要な環境の整備
BYODの安全性を担保するには、環境の整備が欠かせません。
- 端末を一元的に管理するためのMDM(Mobile Device Management)
- 非登録端末からのアクセスを制御するためのアクセスコントロール
- ウイルスに感染した端末の隔離やセキュリティパッチ更新を行うための検疫システム
- 機密情報を保護し、外部への送信や持ち出しをブロックするためのDLP(Data Loss Prevention)
これらの環境を整えることで、BYODのセキュリティリスクを軽減することができます。
運用ルールの策定
BYODの導入には、プライベート端末を利用する従業員や学生の意識形成や理解が重要となります。そのためには、シンプルで分かりやすい運用ルールの策定が欠かせません。
- 具体的な操作手順
- 利用できる業務や学習の範囲
- BYODの利用を通じて得られる変化
- 持ち出しが制限されるデータの定義
- ウイルスに感染した際の対応マニュアル
上記のような情報を網羅したガイドラインを作成することで、従業員や学生の同意を得やすく、よりスムーズな導入を進めることができるでしょう。
端末管理ツールの導入
端末の管理には、MDM(Mobile Device Management)というツールが一般的に利用されています。
MDMは従業員や学生の利用する端末を、管理部門が効率的に管理するためのツールです。企業や学校が定めたセキュリティポリシーに基づいて端末情報を収集し、不正利用の防止や紛失・盗難時の情報漏えい対策に役立てることができます。
MDMにはプライベート用と業務用で使用可能なアプリケーションを切り分ける、リモート制御による端末のロックなどが行えるため、安全性を確保するうえで重要なツールといえます。
BYODを実際に活用している事例
企業や行政の事例
企業や行政によるBYODの活用事例として、アパレル業界、金融業界、都道府県庁から、それぞれ事例をご紹介します。
株式会社ユナイテッドアローズ
アパレル業界でセレクトショップを運営するユナイテッドアローズでは、申請義務によってモバイル端末を持ち出す従業員が少なく、外出時の連絡が取れないという課題がありました。
そこでBYODを導入することで、端末購入費をカットするだけでなく、ワークスタイルの柔軟性を確保することにも成功しました。デバイスの利用制限がなくなることで、出先でもメールやスケジュール確認ができるようになり、従業員の生産性の向上にもつながっています。
セキュリティ対策としては専用のセキュアブラウザを活用することで、従業員のプライベート端末にデータが残らない仕様になっています。
セゾン投信株式会社
投資信託の運用・販売を行うセゾン投信株式会社では、銀行や証券会社を経由した間接販売によって社外業務が増加する一方で、個人情報の取り扱いなどのリスク対策に課題がありました。
それらの解決策として、セゾン投信株式会社はリモートアクセスサービスを採用し、BYOD環境の構築を通じて、セキュリティレベルを保った状態でのテレワーク推進を実現しました。
セキュア接続によって出先や自宅から社内システムにアクセスすることで、個人情報をダウンロードすることなく、業務の遂行ができるようになっています。また、Office 365との連携によって、メールの送受信に場所を制限されることもなくなりました。
これらの環境の切り替えによって、コロナ禍の緊急事態宣言の発令時も、テレワークへのスムーズな移行が実現できています。
大分県庁
大分県庁では、2015年に立てた行財政改革アクションプランをもとに、ICTの積極的な活用による労働生産性の向上を目指してきました。
プランを推進する中で、女性の社会進出や共働きニーズの拡大などをきっかけに、働き方が少しずつ多様化していきます。その変化を受け、大分県庁では多様な働き方を支えるリモートワーク環境の構築が急務となっていました。
そこでリモートアクセスやネットワークソリューションのサービス導入を通じて、BYODの活用を進め、自席でしか行えない作業を減らすことに成功しました。
セキュリティ対策としては、MDMによる端末認証とリモートワイプを駆使し、安全な接続と端末へのデータ保存を抑制することで、県庁内でのパソコンでしか行えなかった業務が、自宅でも行えるようになり、大幅な工数削減につながっています。
学校・教育分野の事例
学校・教育分野によるBYODの活用事例として、都道府県・大学の事例を3つご紹介します。
佐賀県
佐賀県は、率先してICT技術の推進に取り組んでいる都道府県です。2008年に策定した佐賀ICTビジョン2008をもとに、行政全体の横断的なIT化を推進し、2011年からはICT教育にも注力しています。
この背景には、当時の佐賀県が学力テストの結果において全国平均を下回っており、県議会などを通じて教育への関心が高まっていたことが挙げられています。
BYODに対する取り組みとして、佐賀県は2014年度から県立高校でタブレット端末の活用を義務化し、電子黒板とBYODによる1人1台のデバイス環境で授業を実施しています。
また、佐賀県の県立学校は新型コロナウイルスの感染拡大よりも以前からオンライン授業を積極的に取り入れています。カメラの調整や理解度の不明確さに課題はありつつも、生徒からは「いつもの授業のように勉強を進められた」「チャットがあって発表しやすい」などの好意的な意見も寄せられました。
トライ&エラーを繰り返しながらも、佐賀県の授業環境は着実に改善しており、現在では先進的なICT教育を行う都道府県として注目を集めています。
大阪大学
大阪大学では、BYODに肯定的な見解を持ちつつも、ネットワーク経由での教育コンテンツの配信において、統一性を見出すことができずにいました。
そこで大阪大学は、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)という仮想デスクトップ技術を用いて、仮想マシン上で端末を動作させる基盤を構築し、BYODの推進に踏み切りました。
BYODとVDIの導入によって、学生たちはプライベート端末でも講義を受けられるようになり、自宅やキャンパス外で講義を受けるなど、学習環境の選択肢も格段に広がりました。
また、教員にとっても自由な場所で講義の準備ができると好評で、コンテンツの配信者と受信者どちらにもメリットが得られる結果を出すことに成功しています。
九州大学
九州大学は2013年からBYODによる学生のデバイス持ち込みを必須化しています。
当時はどの国立総合大学もBYODを導入しておらず、学内でも反対意見が大多数であったといわれています。そのような状況下でも諦めず、粘り強く関係者を説得していくことで、国立総合大学として初めてBYODを導入することに成功しました。
九州大学がBYODの導入を検討していた背景には、PCルームの維持コストの増大があります。2009年にはPC台数を1000台規模まで増やしたものの、学生数の全体で比べると圧倒的に不足している状態でした。
一方で、1年生の約95%がプライベートPCを所有していることが判明し、必ずしも大学側がPC環境を整備しなくても良いのではないかという考えから、BYODの需要につながっていきます。
BYODの導入に際して、九州大学はマイクロソフトの教育向け包括ライセンスを利用し、OSに関係なく全ての学生が同じ学習環境を実現できるように整備を行いました。また、コンテンツに対してアクセスが集中した場合を考慮して、インフラ環境の強化にも取り組んでいます。
この取り組みによって、全ての学生に等しい学習環境を提供することに加えて、PCルームの廃止によるコスト削減も実現しています。
BYODのメリット・デメリットを理解して導入へ
本記事では、BYODの定義から、メリット・デメリット、企業や学校・教育分野における利用シーンの具体例を中心にご紹介しました。
デバイスの性能向上が著しい現在において、プライベート端末と業務用デバイスの性能差はほぼ体感できないレベルまで近づいてきています。ユーザーの買い替え頻度によっては、プライベート端末のほうが性能面で優れていることもあり得るでしょう。
そのため、BYODを通じてデバイスの自由化を促すことは、働き方・学び方の選択肢を広げるだけでなく、生産性の向上やコスト削減も期待できます。
多様性が重視される世の中で、より柔軟な企業・教育活動を推進するうえでも、BYODの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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