インボイス制度が一人親方に与える影響とは?対策方法や注意点を解説

最終更新日時:2022/09/24

請求書発行システム

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インボイス制度は一人親方にどのような影響を与えるのでしょうか。本記事では、インボイス制度による一人親方への影響について解説します。また、インボイス制度に備えて行うべき対策や注意点も紹介しているので併せてご覧ください。

インボイス制度とは

インボイス制度(正式名称:適格請求書等保存方式)とは、事業者間での取引に際して仕入税額控除を受けるためには、インボイスが必要となることを定めた制度のことです。このインボイス制度は、2023年10月1日から開始されることがすでに決定しています(ただし、経過措置期間あり)。

仕入税額控除とは、課税売上げに係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いて納付する消費税を計算する仕組みです。

例えば、税抜10万円で仕入れた商品を加工し税抜20万円で販売したとき、税率が10%なら売上税額は2万円、仕入税額は1万円です。この場合、売上税額2万円から仕入税額1万円分を差し引くことができるため、納付消費税額1万円となります。

つまり、課税事業者が取引の買手に当たる場合は、仕入税額控除を受けることで、重複課税を避けられるため、消費税の負担が抑えられるのです。

インボイス制度の開始における大きなポイントとしては、一般課税における仕入税額控除について、事前登録制の適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)が発行したインボイスの保存が義務付けられたことが挙げられます。

インボイスがなければ、経過措置期間と売上先が簡易課税制度を適用している場合を除いて、仕入額控除が受けられなくなるのです。

さらには、インボイス発行事業者として登録を受けるためには課税事業者であることが前提であるため、個人事業主やフリーランスなどの免税事業者からの仕入れでは仕入税額控除ができないこととなります。

適格請求書

適格請求書とは、事前に登録された適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)が発行する請求書や納品書、レシートなどの証憑書類のことです。

売手が買手に対して適用税率や消費税額を正しく伝えるために、以下に挙げる記載事項を満たす必要があります。なお、記載要件を満たしたデータ(電子インボイス)も適格請求書の1つです。

  • 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額税抜き又は税込み)及び適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

[引用:国税庁「免税事業者のみなさまへ 令和5年10月1日から インボイス制度が始まります!」]

一人親方は消費税を納めなければならない?

建設業などにおける個人事業主やフリーランスを意味する「一人親方」は、消費税の納付義務がある場合(課税事業者)と、そうでない場合(免税事業者)に分かれます。

具体的にどのように消費税の納付義務の有無が分かれているのか確認しておきましょう。

(1)消費税の納付義務がある一人親方(課税事業者)

消費税の納付義務がある一人親方は、消費税法上、課税事業者と呼ばれます。原則として個人事業者や法人は事業者として納税義務者(課税事業者)とされており、一人親方も原則として消費税の納税義務者です。

国内取引の納税義務者は、事業として、資産の譲渡や貸付け、役務の提供を行った事業者です(注)。この事業者とは、個人事業者(事業を行う個人)と法人をいいます。

[引用:国税庁「No.6125 国内取引の納税義務者」より]

(2)消費税の納付が義務でない一人親方(免税事業者)

原則として一人親方は消費税の納税義務者(課税事業者)と説明しましたが、消費税を納税しなくてもいい一人親方もいます。

具体的には、基準期間(前々年の1月1日〜12月31日)または特定期間(前年の1月1日〜6月30日)の課税売上が1,000万円以下の一人親方は、消費税を納める必要がありません。

そのような一人親方は免税事業者と呼ばれ、取引先から受け取った報酬に上乗せされて支払われた消費税分も合法的に手元に残すことができます。仮に令和4年(2022年)分の課税期間について免税事業者かどうかを判定する場合は、令和2年(2020年)の課税売上高が判定基準となります。

ただし2年前の課税売上高が1,000万円以下であっても、1年前の1月から6月まで(特定期間)の課税売上高または給与等支払額が1,000万円を超えた場合は課税事業者です。

また、仕入れや経費が多いため消費税の還付を受けられる場合などは、免税事業者であっても、あえて消費税課税事業者選択届出書を提出することによって課税事業者(選択課税事業者)となることもできます。

インボイス制度が一人親方へ与える影響

ここからは2023年10月から始まるインボイス制度の開始が、一人親方に与える具体的な影響を解説します。

課税事業者の場合と免税事業者の場合など、それぞれの場合に分けて解説しますので、状況と照らし合わせつつ確認してください。

(1)課税事業者が受ける影響

これまで課税事業者であった一人親方の場合、インボイス制度が開始しても特に大きな影響はないでしょう。

請求書や納品書、領収書などに、「登録番号」や「適用税率ごとの消費税額」など、インボイスとして記載が定められた事項を記載する必要がありますが、その他に事務負担や納税負担が増えることはありません。

ただし、インボイスの発行には、インボイス発行事業者として登録しなければならない点に注意しましょう。インボイス制度が開始される2023年10月1日から登録を受けるには、原則、2023年3月31日までに国税庁への登録申請を行う必要があります。

なおインボイス発行事業者として登録すると、「国税庁適格請求書発行事業者公表サイト」で氏名と登録番号、登録年月日が公表されます。申出によって屋号と所在地を追加して公表することも可能です。

(2)免税事業者が受ける影響

免税事業者である一人親方の場合、取引先からインボイス発行事業者として登録することを促されたりすることが考えられるでしょう。課税事業者が仕入額控除を希望しつつ、既存の免税事業者との取引を継続するには、その方法しかないからです。

インボイス発行事業者としての登録は任意のため、もちろん断ることはできますが、その場合、仕入額控除が受けられない分の値引き交渉をされる可能性があるでしょう。さらには、他のインボイスを発行できる一人親方に仕事を依頼したりしてしまうことも考えられます。

ただし、「取引の継続」を担保にするなど、買手側が立場を利用して一方的に提示し、対応を迫ることは、下請法や独占禁止法に抵触するリスクがあります。このような交渉は、お互いの状況を考慮しつつ、真摯に協議する必要があることは認識しておく必要があるでしょう。

なお、次の場合には、免税事業者のままでもインボイス制度による影響はありません。

  • 取引先が一般消費者もしくは免税事業者である
  • 取引先が消費税の確定申告を簡易課税で行っている

これらは、一般消費者や免税事業者は、もともと仕入税額控除の対象外であること、また、簡易課税の場合はインボイスを保存しなくとも仕入額控除を行うことができるためです。

(3)課税事業者・免税事業者ともに起こる影響

インボイス制度開始後、一人親方が買手として請求書や領収書、納品書、レシートなどを受け取る場合には、その様式が変わっている可能性があります。

具体的にインボイス(適格請求書)では、これまでの区分記載請求書の記載事項に加えて、「(インボイス発行事業者)登録番号」、「適用税率」、「税率ごとに区分した消費税額」の3点を記載しなければなりません。

そのため、適格請求書(インボイス)では適用される税率とその消費税額がひと目でわかるようになります。

一人親方のインボイス制度対策をわかりやすく解説

それでは、一人親方におけるインボイス制度の対策としてはどのような方法があるのでしょうか。このような疑問に対して次の3つを紹介しますので、ぜひ実践してみてください。

  • 課税事業者になり、インボイス発行事業者として登録する
  • 課税事業者であれば簡易課税制度の適用を検討する
  • 請求書フォーマットを見直す

(1)課税事業者になり、インボイス発行事業者として登録する

免税事業者である場合、取引先が仕入額控除が受けられる事業者との取引を望むのであれば、いずれは仕事を失ってしまう可能性は否めません。

取引先が提示する不利な条件に否応なしに対応する必要はありませんが、インボイスの発行を望む取引先に対しては、発行事業者として登録するしか方法がないことも事実です。

課税事業者になることで発生する、メリット・デメリットの双方を考慮した上で検討する必要があるでしょう。

(2)簡易課税制度の適用を受ける

すでに課税事業者となっている一人親方の場合、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であれば、中小事業者のために設けられた特例の方式である、簡易課税方式が利用できます。

簡易課税方式とは、事業形態によって一定の割合のみなし仕入率を使い、算出した消費税額を納める制度のことです。ちなみに一人親方の場合は、建設業が含まれるのであれば第三種事業でみなし仕入率70%、それ以外は第四種事業でみなし仕入率60%で消費税額を算出します。

簡易課税方式を利用するには、事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署長に届け出る必要がありますが、簡易課税制度を選択すると消費税の申告に関する事務の負担を抑えられるとともに、場合によっては一般課税と比べて納付する消費税の負担を抑えることも可能です。

また、一人親方がさらに下請業者に仕事を発注した場合、その業者がインボイスを発行しなくとも、仕入額控除が受けられるようになるため、納税額を抑えることができるようになります。

すべて課税取引であることを前提としますが、みなし仕入率が70%ということは、実際の仕入れ・経費率が70%を超えない限り簡易課税制度を選択したほうが良いということになるでしょう。

なお、本来であれば「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した翌年から簡易課税制度を適用できますが、2029年12月31日までにインボイス発行事業者として登録した場合は、登録日の年末までに提出するとその年から簡易課税制度の適用を受けられます(個人の場合)。

(3)請求書フォーマットを見直す

インボイス発行事業者となると、記載条件を満たしたインボイスを課税事業者である買手に交付しなければなりません。

インボイスには、インボイス発行事業者であることを示す登録番号や適用税率ごとの消費税額などを記載する必要があるため、記載事項を満たしているかどうか請求書フォーマットを確認し、必要に応じて見直しましょう。

インボイス制度の開始にあたり一人親方が注意すべき点

2023年10月1日から始まるインボイス制度について、一人親方が注意すべき点は主に以下の3点です。ぜひ確認してみてください。

(1)資金繰りに気をつける

インボイス発行事業者の登録を受ける場合、課税事業者となる必要があります。これまで免税事業者であった場合は消費税の納税負担が生じるため、それらの負担増を見越した資金繰りをしなければなりません。

そのため、月次決算や四半期決算を行うなどして、納税額を予測しておくことが重要です。

(2)免税事業者の場合、取引先と話し合いを行う

インボイス発行事業者とならず免税事業者のままでいる場合、事前に取引先と話し合いをしておいたほうが良いでしょう。取引先の方針によっては、今後の取引条件が悪化するかもしれません。

インボイス発行事業者となるかどうかを早期に検討するためにも、事前に話し合いをしておくことがおすすめです。

(3)会計ソフトがインボイス制度に対応するか確認する

2023年10月1日にインボイス制度が始まると、インボイス発行事業者から発行されるインボイスと、免税事業者などから発行される従来の請求書など、証憑書類が仕入税額控除の対象となるものとならないものに分かれます。

また、インボイス制度では消費税額の計算について、これまで認められていなかった積上げ計算も可能です。このような取引環境の変化が見込まれるため、会計ソフトが対応していてスムーズに取引や社内処理ができるかを確認しておくと良いでしょう。

インボイス制度が与える影響を理解して適切な判断を

2023年10月1日にインボイス制度が開始すると、元請負や施主などの取引先が一般課税で消費税の確定申告をしている場合、取引条件が悪化する懸念があります。

そのため、一人親方としては事前によく取引先と話し合ってインボイスへの対応方針を決めると良いでしょう。また、課税事業者となってインボイス発行事業者としての登録を受ける場合には、簡易課税制度の選択も検討するべきです。

ぜひここでご紹介した内容を参考にしつつ、取引状況に合ったインボイスへの対応方針を決めてみてください。

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