日本におけるDXの課題とは?推進を阻む問題点や解決策を徹底解説

最終更新日時:2023/04/05

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日本のDXの課題

日本は先進国の中でDX化に後れをとっています。日本企業でのDXの課題はどのような点なのでしょうか。本記事では、日本のDXの現状から日本企業がDXを推進すべき理由、日本企業のDX推進を阻む課題・問題点を紹介します。解決策も10個掲載しているのでご覧ください。

福本大一

監修者 福本大一 Chatwork株式会社 DXソリューション推進部|マネージャー 大学卒業後、toC領域のWEBメディア事業で起業。事業グロースに向けたSEO戦略から営業・運用広告に従事し、約2年間の経営を経て事業譲渡。2021年3月からChatworkに入社し、カスタマーマーケティングやアライアンスを経験した後、メディア事業・運用広告事業の責任者としてミッションを遂行する。現在は、DXソリューション推進部のマネージャーとして新規事業領域のセールス・マーケティング・アライアンス・メディア事業を統括。

日本のDXの現状

経済産業省が発表した「DXレポート2.2」では、回答企業の9割がDX推進に取り組めていないと答えています。また、IMD(スイスの国際経営開発研究所)が2022年に「世界のデジタル競争力ランキング」を発表しました。

ランキングは、1位がデンマーク、2位がアメリカ、3位がスウェーデン、そして日本は29位という結果に終わりました。アジア圏でも10位以内に「シンガポール」や「韓国」が入っているため、アジア諸国の中でも後れをとっている現状です。

[出典:経済産業省「DXレポート2.2中間取りまとめ(概要)」]

[出典:IMD「World Digital Competitiveness Ranking」]

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日本企業がDXを推進すべき理由

世界と比べDX推進に後れをとっている日本ですが、DXを推進しなければならない理由があります。

「2025年の崖」に直面する可能性が高い

2025年の壁とは、既存のITシステムが老朽化やブラックボックス化を起こし、最大で年間約12兆円もの損失を出す問題のことです。

ただし、2025年の壁は2025年に突然現れる訳ではありません。現在も日本は2025年の壁に向けて進んでいます。現在の状況のまま2025年を迎えないためにも、DXを推進する必要があるのです。

2025年の崖とは?経産省のレポートの要点やDX推進のシナリオについて

働き方の多様化に対応するため

昨今では仕事する環境がオフィスだけではなく、自宅・コワーキングスペースなど自分が働きたい場所で働ける多様化が進んでいます。

オフィスではなく自分の好きな場所で働きたいというニーズは非常に高く、市場でも人気があるため、働き方が選べる企業は人気が高く優秀な人材が集まる傾向です。海外と比べてもリモートワーク等で働ける企業はかなり少ない現状もあります。

海外と比較して日本は生産性が低い傾向

日本は1つの仕事に対して人的リソースや時間をかけすぎる傾向にあるため、生産性が低いといわれています。しかし、DXの推進によって業務のデジタル化やデータの活用が進めば、生産性を向上できる可能性があります。

そのため、DXが推進されれば、本来の目標であるデジタル変革だけでなく、業務効率化の実現も可能です。

日本のDX推進の現状とは?海外との比較や遅れている理由について

日本企業のDX推進を阻む課題・問題点

日本はDX推進において後れをとっていますが、なぜDXが推進されないのでしょうか。DX推進を阻んでいる課題や問題点について、具体的に解説します。

  • システムがブラックボックス化している
  • DXへの理解が足りない
  • IT人材が育ちにくい
  • データに対する想像力が足りない
  • 社内システムの現状維持に投資している
  • 長年培ってきた企業文化を変えられない

(1)システムがブラックボックス化している

既存のシステムがブラックボックス化していることが、DX推進の足かせとなっています。ブラックボックス化とは、既存のITシステムの構造が分からず、「システムを使いこなせない」「データを活用できない」などの問題のことです。

ブラックボックス化したシステムは活用できないだけでなく、維持するためにコストを要します。そのため、ブラックボックス化したシステムからの脱却とシステムの切り替えが求められます。

レガシーシステムとは?DX推進を阻む原因や放置するリスクについて

(2)DXへの理解が足りない

DX推進を目指すためには、DXへの理解が重要です。しかし、現状ではDXを理解しないままなんとなくDX推進に取り組む企業や、DXの定義を勘違いしたまま進めてしまう企業が存在します。

DXを推進させる目的やメリット、課題を具体的に把握しておかなければなりません。また、経営陣が理解していても、現場が理解できていなければDX推進は失敗に終わる可能性もあります。DXに関する理解は、企業全体で進めていきましょう。

(3)IT人材が育ちにくい

ITに詳しいはずの若い世代が、企業でなかなか活躍できない現状があります。その背景には、日本の年功序列という制度があります。

年功序列の制度では、年長者の意見が優先されるため、生まれた頃からデジタルに触れてきたはずの若い世代の意見が採用されないのです。日本でも徐々に年功序列の考え方が薄れてはいますが、未だその風土が残っている企業も存在します。

(4)データに対する想像力が足りない

日本の企業では、データを記録・情報としか認識しない傾向があります。蓄積されたデータは万一のために保管しておくのではなく、データを活用して何か新しいことができないかと想像・模索することが重要です。

データを保管するにも人的リソースやコストが割かれていますし、活用しなければデータの価値が発揮されません。

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(5)社内システムの現状維持に投資している

現在、ITに関して日本企業が主に投資しているのは、既存のITシステムの維持です。老朽化・ブラックボックス化したITシステムを活用・刷新することなく、ただ維持するためだけにコストを割いています。

DX推進を目指すのであれば、新たなITシステムの開発や既存システムの刷新にかかるコストを確保しなければなりません。

(6)長年培ってきた企業文化を変えられない

とくに大企業において起こりやすいと考えられている問題が、長きにわたって構築された企業文化を変えられないことです。大企業は、過去の成功によって成長を遂げ、ある程度安定した状態を保っています。

そのため、成功経験にすがり、リスクを負ってまでビジネス変革したくないと考える傾向にあります。

大企業は他の企業や中小企業の見本ともなりうる存在であり、他の企業より先んじてデジタル化をしていくことによって日本全体のDX化が進みます。一見安定して見える現状を打破してさらなる良い環境を目指すのが企業成長の秘訣です。

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【業種別】DX推進における課題・問題点

DX推進に関する課題や問題点は業界によって異なり、すべての企業で共通したものではありません。業界ごとに持つDXの課題・問題点を解説します。

(1)建設業界

建設業界では「3D設計」が主流になりつつありますが、中小企業では未だ浸透していません。中小企業はITシステムの導入に時間・コストを割けないため、古い手法で業務を進めざるを得ません。

そのため、企業間で設計図を確認する際も、紙の図面を用いる必要があります。また、建設業界には新たなIT技術が導入されているにもかかわらず、有効活用できていないという現実もあります。

(2)物流業界

物流業界の主な業務は「輸送」「包装」「保管」など、人の手によって作業されることがほとんどです。しかし、現代では物流業界にも「情報処理」という要素が加わりました。

にもかかわらず、主な業務とは別のおまけ作業として認識していることも多く、DX推進に積極的でないのです。IT技術が浸透していない物流業界だからこそ、情報処理の部門にITシステムを導入すれば、急激な成長・DX推進が期待できます。

(3)製造業界

製造業界では、自動化や省人化によって業務効率化・生産性の向上が実現されています。しかし、業務効率化と生産性の向上がDX推進につながっているわけではありません。

DX推進は、IT技術の導入からビジネス変革を起こしてこそ達成できる問題です。しかし、DXとの関係の有無に関わらず、課題解決に向けて一部をデジタル化したのみで満足しているため、DX推進には至りません。

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DX推進を阻む課題に対する解決策

DXは、推進を阻む多くの課題が存在します。では、具体的にどのような対策をとればよいのでしょうか。

(1)自社にとってDXの定義づけをする

DXを推進するにあたって導入するIT技術の目的や課題は企業によって異なります。そのため、DXの定義を企業ごとに定義づけすることが重要です。

DXを推進するにあたって、以下のことを明確にしておきましょう。

  • IT技術の種類
  • IT技術導入の目的
  • 仕組み・体制
  • 運用方法
  • 必要なコスト

上記を明確にしたうえで、企業にとってDXがどのような存在となるか定義づけ、DXを推進できるよう長期的に取り組む必要があります。

(2)デジタライゼーションから行う

以前までは、企業が取り扱う情報・データを紙で管理することが主流でした。DXは、新たなIT技術の導入をもとにビジネス変革を目指します。そこで、まずは情報やデータのデジタル化を進めることが重要です。

デジタルで管理することによって、データを活用しやすくします。ただし、業務をデジタル化しただけで満足してしまうと、DXの目標であるビジネス変革が実現できないため注意が必要です。

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(3)社内の意識を変える

DXの推進は、企業全体で取り組み、現場の声を聞くことが重要です。とくに、経営陣がDXを理解しないまま進め、それに伴う課題を把握できていない場合に注意しましょう。現場からの提案や改善策を出すことで、経営陣にも現状を共有できます。

また、経営陣が考えているDXのビジョンを現場に共有することも重要です。したがって、経営陣から現場まで、企業全体が同じ意識を持って取り組むことで、DX推進を実現できるのです。

(4)スモールスタートにする

DXを推進するにあたって、いきなり会社全体に浸透させるのではなく、できる限り少ない人数でスモールスタートで始めるようにしましょう。小さい規模で始めることによって、リスクが低く人によってデジタル格差が起こりにくくなるためです。

初めから大きな規模でDXを進めてしまうと、予算調整や人によって理解度に差が生まれるなどのリスクがあり、DXが社内に浸透しにくくなるので注意が必要です。

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(5)スムーズな情報共有をする

DX推進を目指すにあたって、DXへの理解が必要不可欠です。ただ、企業によってDXの定義が異なるため、経営陣と現場ではDXに対する考え方のズレが発生する可能性があります。

そうならないように、現場が抱く不安や疑問について、経営陣がいち早く対応することが重要です。経営陣と現場が同じ目標に向かえるよう、スムーズな情報共有を目指しましょう。

(6)DX評価指標を作る

経済産業省は、DXにおいて実証的な取り組みがあるもののビジネス変革まで至っていないと訴えています。そこで、DXがどの程度推進しているのかを、各企業が自己判断できる「DX推進指標」を作成しました。

DX推進指標を利用すれば、DX推進の現状や課題に気づけます。その気づきから改善案やDX推進計画を立てるとよいでしょう。

[出典:経済産業省「デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました」]

DX認定制度とは?概要や取得メリット・申請時のポイントについて解説

(7)ベンダーとの関係を見直す

既存システムを大幅に刷新する場合、ベンダー企業はリスクを伴います。なぜなら、新たなITシステムの構築が利益をもたらすか判断できないためです。

そこで、ベンダー企業にもメリットを提示することが重要です。具体的な方法として、以下が挙げられます。

  • 企業とベンダー企業の関係性を上下関係ではなくパートナー関係へと移行する
  • 刷新したシステムから利益を得た際、一部をベンダー企業へ還元する

方法は上記に限られたことではありません。自社とベンダー企業にとって最適な契約関係を見つけましょう。

ただ、ITシステムに関する業務をベンダー企業にすべて任せている場合、刷新されたシステムを社内で使いこなせないことや、新しいシステムにメリットを感じられないなどのトラブルが予想できます。これらのトラブルを踏まえたうえで、契約内容を見直すとよいでしょう。

(8)経営トップがコミットメントする

経営陣がDX推進を促していても、実際の業務を現場に丸投げしていてはDXはいつまでも実現できません。

DX推進を指示する経営陣がコミットメントできていないと、現場は求められていることが理解できません。そのため、経営トップが積極的にDX推進と関わり、具体的な指示を出すことが重要です。

DX推進で経営者が担う役割とは?よくある課題や成功へ導く考え方

(9)DXを推進できるIT人材の採用・育成

ITシステムを理解した人材の退職や、ITシステムに関する業務をベンダー企業に任せていることから、社内でITシステムを理解できる人材が減少しています。

そのため、IT人材の採用や育成は必須といえます。また、企業の中でITシステムが活用されている部分は1つではありません。したがって、IT人材を1つにまとめることなく、適切な場所へ配置しましょう。

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(10)攻めのIT投資を行う

IT投資には「攻め」「守り」と言われる2つの方法があり、日本では守りのIT投資がほとんどです。守りのIT投資では、業務効率化や生産性の向上を目指すためにコストを割きます。

しかし、アメリカが行っている攻めのIT投資は、ITによる新たなビジネスを生み出し、ビジネスモデルの変革を目指すためにコストを割いています。守りの投資のままでは、DXを実現できないため、攻めのIT投資を行う必要があるのです。

日本企業のDX成功事例を5つ紹介

日本企業でDXの実現に成功した事例を5つ紹介します。DXの定義や課題はそれぞれ異なります。成功事例をもとに、自社にはどのようなDX推進が適切なのかを検討しましょう。

(1)株式会社クボタ

株式会社クボタでは、建機の修理対応を現地の担当者が行っていましたが、担当者のスキルによっては対応が困難でした。そこで、業務効率化も兼ねた「故障診断フロー」を開発しました。

故障診断フローでは、表示されるエラーコードをもとに、修理が必要な場所や方法を割り出します。そうすることで、現地担当者のスキルに左右されることなく、修理対応を可能としました。

(2)JapanTaxi株式会社

Japan Taxiは「時間」「地域」「気象情報」などの情報をもとにAIが分析し、配車を最適化しました。

また、到着前にキャッシュレスで支払いを完了できるIT技術を取り入れたため、顧客のストレスを軽減させることに成功しています。そして、キャッシュレスを取り入れたことで、運転手の現金管理や盗難防止につながっているといえます。

(3)株式会社メルカリ

メルカリは金融インフラの幅を広げた代表的なサービスです。フリマアプリが普及するまでは、ネットオークションサービスが主流でした。しかし、ネットオークションサービスではパソコンがなければ利用できなかったことから、メルカリはスマホで完結する手軽さに着目したのです。

スマホで完結するサービスのため、ユーザーが利用するハードルを下げることに成功。さらに、「匿名配送」「メルペイ」など関連するサービスを提供し、ユーザーの利便性に寄り添っています。

(4)株式会社三井住友フィナンシャルグループ

株式会社三井住友フィナンシャルグループでは、顧客の声が多数届くも、手動で管理・分析するための時間とコストが課題でした。そこで、届く意見を内容ごとに分類する自動システムを導入し、業務効率化に成功しています。また、業務効率化にとどまらず、手動より高度化した分析や新たな意見の気づきにつながっています。

(5)ソフトバンク株式会社

ソフトバンクでは、警察署から依頼されるケータイの落とし物通知を、コールセンター担当者が入力業務にあたっていました。しかし、多数届く通知を入力するには時間がかかり、本来の業務に支障が出ていたのです。

そこで、書類を高精度にデータ化するITシステムを導入しました。自社開発のシステムと新たなITシステムを連携したことで、自動化に成功。コールセンターは本来の稼働が可能になり、200時間ほど入力業務を短縮できたそうです。

注目すべき海外のDX推進事例15選!事例からみる日本との比較も解説

日本企業のDXの課題や問題点を把握し対策を練ろう

DX推進には、日本企業がDXの課題や問題点を把握し、DX推進に取り組むことが重要です。ただし、課題は企業によって異なる部分があるため、自社にあった対策方法を選ぶ必要があります。

経営陣や現場がそれぞれで動くことなく、企業全体で対策を練りましょう。

バックオフィス業務のDXとは?メリットや推進方法・必須ツールを解説

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