DX推進がイノベーションの鍵になる?阻む壁や必要な人材・組織とは

最終更新日時:2023/05/22

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DX推進を阻む壁や必要な人材・組織とは

あらゆるモノ・サービスのデジタル化や労働力不足といった社会背景から、DXの必要性に迫られる企業も増えているのではないでしょうか。そこで本記事では、DXの定義やデジタルイノベーションの意味、DX推進に必要な人材・戦略などについて解説していきます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、スウェーデンのウメオ大学にて教授を務めたエリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した概念です。

IT技術の普及による生活の変革を説いたDXは、当時はまだ将来への希望的な概念として捉えられていましたが、今では、世界各国の企業においてDX化が推進されるなど、市場競争を生き抜く上で、企業が取り組むべき重要な要素となっています。

このような変化は、日本国内においても例外ではなく、2018年に経済産業省が発表したDX推進ガイドラインにて、改めてその重要性が定義されたことから、日本のビジネスシーンにも大きな変化の機会を与えています。

また、同ガイドラインは、2019年にDX 推進指標として改定されており、DXを以下のように定義しています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

[引用:経済産業省「「DX 推進指標」とそのガイダンス」より]

近年では、通信インフラを始めとするIT技術の進化により、ビジネスのグローバル化も加速しています。

このグローバル化で生まれる、競争の激化やさらなるニーズの多様化に対して、迅速かつ柔軟な事業展開を実現するには、ひとつ、DXによる競争優位性の確保が鍵となるでしょう。

実際に、DXに取り組む企業は年々増加しており、一般社団法人日本能率協会(JMA)による2021年の調査では、実に9割以上の日本企業が、DXにすでに取り組んでいる、あるいは、検討段階に入ったと回答しています。

[出典:一般社団法人日本能率協会「日本企業の経営課題2021」]

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デジタルイノベーションとは?

デジタルイノベーションとは、デジタル技術によって既存の仕組みに革新をもたらすこと、あるいは新しい価値を創造することを指します。

また、経済産業省が2019年に発表した資料において、イノベーションは以下のように定義されています。

研究開発活動にとどまらず、

  1. 社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイデア)で新たな価値

    (製品・サービス)を創造し

  2. 社会・顧客への普及・浸透を通じて
  3. ビジネス上の対価(キャッシュ)を獲得する一連の活動を「イノベーション」と呼ぶ[引用:経済産業省「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」より]

このことから、ビジネスシーンにおけるデジタルイノベーションとは、デジタル技術によって社会や顧客に対して新しい価値を提供する、あるいはそのための製品・サービスであるといえるでしょう。

DXとデジタルイノベーションの違いについて

DXとデジタルイノベーションは、概念的に似た意味合いを持つとされていますが、厳密には異なります。その違いは、具体的には価値創出の対象にあります。

主に、対内的なニュアンスを持つDXは、経済産業省のDXレポート2.1において、その終着点について以下のように語られています。

DX の終着点における企業の姿とは、価値創出の全体にデジタルケイパビリティを活用し、デジタルケイパビリティを介して他社・顧客とつながり、エコシステムを形成している姿と考えられる。

[引用:経済産業省「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」より]

DXは、企業が競争力を高めるために、組織や事業の価値を創造することにフォーカスされていることがわかります。

一方のデジタルイノベーションは、一般的に対外的なニュアンスを持っており、価値創出の対象は社会や顧客です。

このことから、DXは組織的な価値創出、デジタルイノベーションは社会的な価値創出が重視されているといえるでしょう。

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DX推進を阻む壁と課題

組織・事業のデジタル化やグローバル化が進む現在、企業にとってDXは看過できない要素となっています。

しかし、DXは第四次産業革命の移行フェーズであることからも、成功事例が決して多いとは言い切れず、いまだ再現性の高い成功パターンの確立には至っていません。

ここではDX推進を阻む壁と課題について、特にハードルとして挙がりやすい4つの例を解説します。

1.DXの重要性への理解が進まない

DXでは、これまでの商習慣を見直す必要があるため、少なからず痛みを伴う変革でもあります。長きにわたって続けてきた事業ほど慣習に愛着があり、新しい商習慣への不安は生まれやすいものです。

加えて、過去の成果に対して満足度が高ければ、さらにDX推進は難しくなるでしょう。

また、DXの理解度は、現場と経営陣で乖離していることが多いのも特徴です。DXは主に3つの段階で構成されており、総務省の情報通信白書では以下のように定義されていますが、経営陣が3つの段階を区別できていないケースもあります。

デジタイゼーション

デジタルは、確立された産業の効率化などを補助するツール

デジタライゼーション

デジタルは、産業と一体化することで、ビジネスモデル自体を変革する

デジタル・トランスフォーメーション

デジタルは、産業内の制度や組織文化の変革を促す

[引用:総務省「令和3年版 情報通信白書」より]

そのため、仮にDX推進がスタートしても、組織のデジタル化が完了する、デジタル技術を活用したビジネスモデルが実用化されるなど、一定の実績が生まれたタイミングでDX推進にストップがかかり、志半ばでプロジェクトが打ち切られることも少なくありません。

DXを推進する際は、ロードマップやマイルストーンなどを通じて、目的や指標の認識を明確化することが大切です。

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2.PoCの進め方が理解できていない

概念実証フェーズであるPoC(Proof of Concept)において、戦略・コンセプトの妥当性を判断するうえで、判断材料となるデータをどのように収集・加工するか、何を基準に成否を決めるかは非常に重要です。

しかし、DXに取り組む多く企業にとって、PoCは未体験の領域です。そのため、自社の知見だけではどのようにPoCを進めるべきか判断できないこともあるでしょう。

その際はオープンイノベーションなどを活用して、他社の知見・ノウハウを取り入れる手段を模索するのも一つの打開策です。

また、いざPoCに取り掛かっても、完璧を追い求めてしまう、失敗を恐れてしまうなどが原因で、いつまで経ってもPoCが終わらず、PoC疲れを起こすケースがあります。このような状況に陥ってしまう企業の多くは、PoCが目的化してしまっています。

精度を高めることも大事ですが、PoCの繰り返しが長期化すると、プロジェクトメンバーの徒労感が増してしまうリスクもあります。何より事業化のフェーズに進めないと、いつまでも成果を上げることができません。

そのため、DXではスモールスタート(small start)やフェイルファスト(fail fast)など、リスクを最小化する手法を取りつつ、可能な限りスピーディに事業化へと進めていくことが求められます。

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3.増加するレガシーシステム

レガシーシステムとは、長期利用によって複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムのことです。

システムがレガシー化することで、システムの全体像が把握できなくなる、メンテナンス負荷が増える、急なトラブルに対応できる人材がいないなどの問題が起き、結果として維持コストが膨れ上がってしまいます。

このレガシーシステムが問題視され始めたのは、経済産業省が2025年の崖として警鐘を鳴らしたことがきっかけです。経済産業省が2018年に発表したDXレポートでは、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)のアンケート調査をもとに、約8割の企業がレガシーシステムを抱えているという実態を明らかにし、レガシーシステムによる技術的負債は、2025年以降には年間で最大12兆円の経済損失につながる可能性を示しています。

使い慣れたシステムを変更するのは不安も大きいでしょうが、一方で技術の属人化によって従業員のパフォーマンスが下がる、維持費が高騰して戦略的なIT投資ができないなど、企業に与えるダメージは決して小さくありません。

特に現在はVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と呼ばれる予測不能な時代に突入したこともあって、これまでの常識が通用しにくい状況になりつつあります。

先の読めない時代だからこそ、変化に対して素早くフレキシブルな対応を取るためにも、レガシーシステムからの脱却が推奨されています。

[出典:経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」]

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4.IT人材の不足

少子高齢化による人材不足が叫ばれ続ける日本ですが、なかでもIT人材の不足は顕著です。

2016年に経済産業省が発表した試算結果において、IT人材の不足数は2022年時点で約34万人、2030年の段階では約59万人に達するといわれています。

DX推進に関わる上級職や専門職の採用競争は特に激化しており、これまでベンダーに依存していたユーザー企業を含め、あらゆる企業がIT人材の採用に乗り出しています。

優秀なIT人材を迎え入れるためには、幅広い採用手法を検討するだけでなく、これまで以上に他社との差別化を図り、自社の魅力付けを行うことが重要となってくるでしょう。

[出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」]

DX推進に必要な人材とは?

DXは一種のバズワードとして浸透した関係で、どのようなIT人材を獲得すべきなのか分からないという企業も多いのではないでしょうか。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が、2020年に発表した資料では、DX推進に必要な人材を6つのポジションに分けています。

プロダクトマネージャー

ビジネスデザイナー

テックリード(エンジニアリングマネージャー、アーキテクト)

データサイエンティスト

先端技術エンジニア

UI/UXデザイナー

エンジニア/プログラマ

[引用:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」より]

なかでも重要度の高いポジションとして挙げられるのが、DX推進の旗振り役を担うプロダクトマネージャーと、デジタルビジネスの実現に向けた仕組みづくりを担うビジネスデザイナーの2つです。

DXにおける全プロセスを一貫して統括するプロジェクトマネージャーや、ビジネスモデル変革の構想から携わるビジネスデザイナーがいなければ、DX推進は上手く進みません。

また、デジタル領域に精通しているだけでなく、解決すべき課題を特定し、主体的に動ける人材がいることで、DXをより効果的に推進できるでしょう。

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DX推進に必要な組織と戦略

DXを推進するうえでは、専門組織の立ち上げや全社戦略の策定が重要視されています。ここでは、そのための具体的な3つのアクションについて、詳しく解説します。

1.情報収集・研究

まず大切なのが、マーケットの状況を知ることです。自社が関与する業界のトレンドや課題、購買行動の変化、競合他社の動向、先進企業の事例、最先端技術の取り組みなどを調査することで、顧客のニーズをより深く把握でき、製品やサービスの傾向も明らかになります。

特に現在ではコモディティ化が進んだことで、製品やサービスの差別化がこれまで以上に難しくなっています。そのような状況下では、市場に合った商材をいかに早く提供できるかが重要です。

企業としての競争優位性を保つためにも、マーケットの情報収集や研究は欠かせないでしょう。

2.提案・推進・連携

専門組織が主導してDXを推進するうえで、必ず求められるのが事業部門との調整力です。現場の課題を吸い上げるだけでなく、デジタル技術の活用によってどのような利益があるかを分かりやすく説明し、現場の理解を得る必要があります。

時には外部パートナーも交えながら、現場が疲弊しないようにPoCも円滑に進めなくてはいけません。

会社規模によっては複数の事業部門とのやり取りが発生することもあるため、いかに関係各所とスムーズに調整できるかが、DXの推進スピードを左右するといえるでしょう。

3.環境整備

DXを推進するには、IT基盤を整える専門人材、顧客情報や生産情報をはじめとする多種多様なデータ、新たなシステムの導入や人材を採用するための予算など、いわゆるヒト・モノ・カネの確保が不可欠です。

また、企業によってはDX推進を通じて大きな変革を迫られることになるため、それを受け入れる準備ができているかも重要なポイントになります。

風土が醸成されていない状態でDXを推し進めても、現場からの反感を買うばかりか、ステークホルダーの同意が得られない可能性もあり得ます。

DX推進を途中で打ち切られないためにも、合意形成を得るうえでの準備・対策は重要といえるでしょう。

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DX推進で経営者が担う役割とは?よくある課題や成功へ導く考え方

DX推進によって新たなデジタルイノベーションへ

本記事では、DX推進における課題や必要な人材・組織・戦略などについて紹介しました。

DXは企業の競争力を高めるうえで注目が集まる取り組みではありますが、一方で変革による痛みを伴うものであり、中途半端な状態で進めてしまうとプロジェクトが途中で打ち切られるリスクもあります。

そして、何より重要なのは、DXには明確な終わりがないということです。あくまでも企業が競争優位性を持続するための手段であり、社会情勢やマーケットに変化が起こるたびに、変化に対応した組織、サービス、カルチャーをつくる必要があります。そのため、DXは変化に適応するためのプロセスに過ぎないともいえるでしょう。

予測不能な時代に適応するためにも、DXでの組織変革を通じて、新たなビジネスチャンスをつかみ取れる企業を目指していきましょう。

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