デジタルトランスフォーメーションはなぜDXと略される?"X"が指す意味とは
デジタルトランスフォーメーションは"DX"と略すのが一般的と考えられますが、なぜ"DX"と略されるのでしょうか。本記事では、デジタルトランスフォーメーションが”DX”と略される理由やデジタライゼーションとの違い、注目される背景や重要性を解説します。
監修者 福本大一 株式会社kubellパートナー アシスタント事業本部|ユニット長 大学卒業後、toC領域のWEBメディア事業で起業。事業グロースに向けたSEO戦略から営業・運用広告に従事し、約2年間の経営を経て事業譲渡。2021年3月からChatwork株式会社(現:株式会社kubell)に入社し、カスタマーマーケティングやアライアンスを経験した後、メディア事業・運用広告事業の責任者としてミッションを遂行する。現在は、DXソリューション推進部のマネージャーとして新規事業領域のセールス・マーケティング・アライアンス・メディア事業を統括。
目次
デジタルトランスフォーメーションはなぜ"DX"と略される?
デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術の活用により、ビジネスモデルの変革を目指すことです。
このデジタルトランスフォーメーションは、英語表記では「Digital Transformation」となり、通常であれば頭文字を取りDTと略されるはずです。しかし、一般的にDXと略されて広まっています。
ではどうして、デジタルトランスフォーメーションは、DXと略されるのでしょうか。
「X」の意味は「Trans」の略
デジタルトランスフォーメンションが「DX」と略されるのは、英語圏で「Trans」を「X」と表記する習慣があるためです。これは、「Trans」の同義語である「Cross」を「X」と略して書くことが由来になっています。
「DT」と表現してしまうとプログラミング言語のDTと被ってしまったり、意味が通じずに仕事に支障が出る可能性もあるため注意が必要です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とデジタライゼーションとの違い
デジタルトランスフォーメーションと似た言葉に、デジタライゼーションがあります。この2つの違いについて、確認していきましょう。
デジタライゼーションとは、これまでアナログで処理していた業務プロセスをデジタル化し、業務の効率化を図る取り組みを指します。PPAや電子契約サービスの導入、MAツールの活用など、デジタル技術やデータを活用し、生産性の向上を実現させるのが主な目的です。
一方のデジタルトランスフォーメーションの目的は、業務の効率化に留まりません。デジタル技術の活用により、根本からビジネスモデルや企業文化の変革を目指すものです。そのため、より明確な目的や経営戦略を持って取り組む必要があります。
デジタライゼーションは、デジタルトランスフォーメーションの過程であると言えるでしょう。
▷デジタイゼーション・デジタライゼーションとは?違いやDXとの関係を解説
DX化とIT化の違い
デジタルトランスフォーメーション(DX)と似ている単語としてIT化があげられ、同じような意味合いで使われていますが厳密には異なります。
IT化はインターネットやWebを通してシステムや物を便利にすることを指し、さまざまなものを効率化していくのです。
一方で、DX化はITサービスやツールを駆使して、日常生活や仕事を変革することを指します。そのため、IT化の先にDX化があると考えれば理解しやすいかもしれません。
▷IT化とは?進め方や事例・メリットとデメリットをわかりやすく解説
デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目される理由
DXは、どうしてこれほど注目されているのでしょうか。ここからは、その理由について詳しく解説していきます。
経済産業省がDX推進ガイドラインを公開したため
経済産業省は、「デジタルガバナンス・コード」と「DX推進ガイドライン」が統合された「デジタルガバナンス・コード2.0(旧 DX推進ガイドライン)」を公開しました。
この中で、DXの実現とその基盤となるITシステムの構築のために押さえるべき事項を明確にしています。経済産業省は、各企業に対して競争力維持・強化のために、DXをスピーディーに推進していくことを求めているのです。
この経済産業省による働きかけは、DXに注目が集まる大きなきっかけとなりました。
▷デジタルガバナンス・コードとは?目的や概要・2.0の改訂内容を簡単に解説!
2025年の崖に備える必要があるため
「2025年の崖」とは、企業のDX推進がこのまま進まず、大部分に残ったレガシーシステムにより、2025年以降に最大12兆円/年の経済損失が起こるといわれて懸念されている問題のことです。
日本企業では、システムが部門ごとに独立している傾向があります。それぞれが使いやすいようにカスタマイズされており、複雑化しているのです。また、運用が属人化されていることが多く、システムが担当者の異動や退職などによってブラックボックス化しています。
これらの問題が、「2025年の崖」を引き起こすと考えられているのです。経済産業省はこの問題を解消するために、早期からDXの推進を呼びかけています。
▷2025年の崖とは?経産省のレポートの要点やDX推進のシナリオについて
グローバルな市場競争力の獲得のため
日本企業がグローバル市場での競争に勝ち抜くには、従来のビジネスモデルに捉われない挑戦を続ける必要があります。現代の市場の変化は激しく、新たな競合の参入で既存のビジネスモデルが一掃される可能性もあるためです。
DXの推進は会社の組織構造を根本から変革し、新しいビジネスモデルを確立させる手段にもなり得ます。企業が新たな強みや武器を見つける方法として、DXに注目しているのです。
▷DX推進がイノベーションの鍵になる?阻む壁や必要な人材・組織とは
デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性
企業がDXを推進することは、なぜ重要なのでしょうか。ここからは、DXの重要性を3つ紹介します。
企業の競争力を高めるため
これまで成功していたビジネスモデルであっても、変化していかなければ、市場での競争で勝ち残るのは困難です。デジタル技術を活用した競合他社や新規参入企業により、シェアを奪われる可能性も十分に考えられます。
実際の例を出すと、定額制のクラウド型サブスクリプション動画配信サービスの台頭で、レンタルビデオサービスが急激に衰退したという事例があります。
DXの推進は、企業の競争力を高める、あるいは劇的な変化に対応するために重要なのです。
新しいビジネスモデルの構築ができるため
常に変化し続ける市場で生き残るためには、消費者のニーズを迅速に正確に分析しなくてはなりません。DXへの取り組みは、これまで対応できなかった部分をデジタルの力によってフォローし、市場や顧客のニーズの迅速な分析を実現させます。
これにより、常にマーケットやトレンドの変化に応じた経営戦略を定めることができ、新しいビジネスモデルの構築につながるのです。
▷DXによるビジネスモデルの変革とは?事例から学ぶ成功企業の共通点
災害など万が一の際に備えるため
地震や台風などの自然災害、感染症の流行など、万一の備えのためにもDXは重要です。DXによりデータをデジタル化していれば、有事の際も物理的に情報が消失することがありません。
また、デジタルツールの導入により、テレワークなどの多様な働き方が可能になるため、場所や時間に縛られずに業務を行える体制を構築することができます。
▷DXとデジタル化の違いとは?意味・目的・重要性や推進するための秘訣を解説
デジタルトランスフォーメーション(DX)が進まない原因
DXには導入の重要性やメリットがたくさんありますが、実際は多くの企業でDX化が進んでいないのが現状です。
ここからは、DXが進まない主な原因を3つ紹介します。
既存システムの維持にコストがかかる
先ほどもお伝えしたように、さまざまな企業が老朽化システムを抱えており、その運用費・保守費にIT予算のおよそ8割をかけている場合が多いのが現状です。老朽化や複雑化、ブラックボックス化による影響もあり、システムの維持に膨大なコストが発生しています。
そのため、新たなシステムやツールの導入に割ける予算が不足してしまい、DXに必要な投資に回す予算が確保できないという負の循環状態になってしまいます。既存システムの維持費は、DXを推進できない大きな原因の一つです。
DXを推進できる人材が不足している
DXが進まない理由の一つに、IT人材の不足があげられます。
最新のIT技術を導入して活用するDXには、ITに強い人材が不可欠です。しかし、少子高齢化により人材の確保が難しく、特にIT人材の育成は市場におけるニーズの拡大に反して進んでいません。
この問題を解決するためには、外部からの採用だけでなく、自社での教育や育成に力を入れるなどの対策が必要です。
▷DX人材に必要なスキルや知識とは?育成方法やマインドセットも解説
DXに関しての興味関心が低い
経営層のDXに関する興味関心が低いことも、DXが進まない原因の一つとして考えられます。
DXの導入は、一つの部署だけではなく社内全体で行う必要があります。しかし、経営層がDXに対して興味関心や知識がなければ、DX化は進められません。そのため、従業員だけではなく経営層もDXのセミナーなどに出向き、知識を深めることが大切です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するメリット
DXの推進によって、生産性の向上や新たな商品・サービスの創出などさまざまなメリットがあります。ここからは、DXを推進する6つのメリットを紹介します。
生産性の向上につながる
DXの推進は、生産性の向上につながります。さまざまなデジタル技術の活用により、これまでアナログで処理していた業務の自動化や効率化が可能です。
これにより確保できた人的リソースを、より売上に関わるコアな業務に充てることができます。そのため、これまでと同じ限られたリソースでも、生産性の向上によってビジネスの成長を加速させることが可能です。
▷生産性とは何か?正しい定義や算出方法・有効な向上施策まで解説
新たな商品やサービスの創出につながる
IoTやSNSの普及により、これまで以上に詳細な顧客情報や消費者のニーズに関するデータを集めることができます。さらに、デジタルツールの活用で、より精度の高いデータの分析・解析が可能です。
これにより、変化が激しい顧客や市場のニーズを正確に把握できるようになります。DXの取り組みにより得られたデータを活用すれば、新たな商品やサービスの創出につなげられます。
環境の変化に適応しやすい
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの企業でテレワークが導入されました。このような環境の劇的な変化に適応するためにも、DXの推進が必要不可欠です。
コミュニケーションや業務管理、勤怠管理に関わるデジタルツールを導入していれば、たとえオフィスに出社しなくても、滞りなく仕事が進められます。
今後もこのような劇的な環境の変化がいつ発生するかはわかりません。ただ、変化に対応できる体制を整えておくことが、企業が生き延びていく、かつ成長し続けるためには必要です。
働き方改革が推進できる
昨今、労働環境の見直しや長時間労働の是正のため、企業に働き方改革が求められています。ワークライフバランスを重視した多様な働き方の実現には、デジタル技術の活用が欠かせません。
チャットツールや各種管理ツールなどの導入により、場所や時間を選ばない働き方が可能になります。また、アナログからデジタルへの切り替えにより、業務効率が向上すれば、過度な残業や休日出勤などが削減できるでしょう。
▷働き方改革を実現する業務効率化とは?基本プロセスや成功のコツを解説
レガシーシステムからの脱却ができる
システムの老朽化や過剰なカスタマイズによる複雑化、ブラックボックス化など、多くの企業がレガシーシステムの問題を抱えています。
経済産業省が発表した「DXレポート」によると、およそ8割の企業が老朽化システムを抱え、企業のIT予算のおよそ8割が現行システムの運用費・保守費となり消えているのです。
DXの推進により、レガシーシステムから脱却できれば、時代に合った最新システムの構築が可能となります。また、逆にレガシーシステムから脱却できないままでは、最新の市場や手法に合わせたシステムの構築ができず、ビジネスが衰退してしまう原因になる可能性もあるため注意しましょう。
▷レガシーシステムとは?DX推進を阻む原因や放置するリスクについて
BCPの充実が可能
BCP(事業継続計画)とは、自然災害や情報漏洩などの不測の事態が発生した際に、資産の損害を最小限にとどめて事業の継続あるいは早期復旧を可能とするための計画のことです。
DXの取り組みは、環境の変化に対応する準備にもなります。テレワークや業務の効率化、関連企業や施設との連携、情報のバックアップなどが行えるため、BCPの充実が可能となるのです。
▷BCP(事業継続計画)とは?初心者でもわかる策定の重要性と手順について
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する際の課題
DXを推進するには、さまざまな課題があります。ここからは主な課題を4つ紹介します。
スムーズに取り組んでいくためにも、事前に確認しておいてください。
場合によっては高額な費用が発生する
DXを推進していくには、導入時の初期費用・運用していくうえでのランニングコストなどまとまった費用がかかります。中長期的に予算を見積もっておかないと、利用していく中で予算を圧迫するケースがあるため注意が必要です。
また、DX推進にあたって外部の人材や採用などでも費用がかかるので、あらゆる可能性を見越して予算を設定するようにしましょう。特に予算に限りがある中小企業にとっては、大きな課題となっています。
全社員の理解・協力が必要になる
DXの取り組みは、特定の部門だけで進めるのではなく、会社全体で一丸となって行う必要があります。そのため、まずは経営層が目的を明確に打ち出し、全社的な協力を得なくてはなりません。
しかし、中には変革を望まない従業員も多いという実態もあります。特に自身の業務に関わる部分の変化には、抵抗を示す可能性もあります。各従業員の理解やサポートが必要なことは、DX推進の際の障壁となりうる課題と言えるでしょう。
▷DX推進を成功させる組織とは?組織変革のポイントや成功事例を解説
DXを推進できる人材の確保が必要
DXの取り組みは、レガシーシステムからの脱却が必須ですが、DXを推進できる人材を確保しなければ脱却は難しいと言えます。また、大規模なシステムの移行自体が困難な場合もあります。
費用面、人材確保はもちろんのこと、全社的なデータフォーマットの統一の面からも、システムの移行は慎重に進めていかなくてはならず、膨大な時間やコストをようすることも少なくありません。
また、システムのブラックボックス化の度合いによっては、システム移行がそもそも難しいケースもあり得ます。さまざまなケースに対応するためにも、まずはDXを推進できる人材の確保が必要です。
▷DX人材に必要なスキルや知識とは?育成方法やマインドセットも解説
すぐに効果が現れるわけではない
DXに取り組んでも、すぐに業務効率や生産性が向上するわけではありません。結果が得られるには、平均で3〜5年はかかるといわれています。そのため、長期に渡って取り組む時間と、必要なITツールやシステムへの投資が必要になることを理解しておきましょう。
▷DX推進には不可欠なビジョンとロードマップ策定の重要性について
デジタルトランスフォーメーション(DX)の成功事例
最後に、DXの推進を成功させた企業の事例を4つご紹介します。DX化を進める際の参考にしてみてください。
ユニメイト
レンタルユニフォーム事業を展開する株式会社ユニメイトは、AI画像認識による自動採寸アプリの開発によって、クライアントの業務効率化に成功しています。
これまで、ユニフォームの採寸は、クライアント側で行われていました。しかし、サイズ違いなどの人為的ミスが起こりやすく、返品や交換に多大な手間やコストが発生していたのです。
また、サイズ交換用の過剰在庫、商品の廃棄による環境への負担も大きな課題でした。以上の課題解決のために開発導入したのが、AIの画像認識を活用した自動採寸アプリです。このアプリをクライアントに提供することで、業務の効率化とコスト削減に成功しました。
[出典:Monstarlab DXブログ「AI画像認識を活用した自動採寸アプリで顧客の業務効率化とコスト削減を実現」]
Shake Shack
Shake Shackは、ニューヨーク発祥のハンバーガースタンドです。Shake Shackでは、これまで以上に簡単に注文が可能で、自社のブランド力やサービスの質を損なわないデジタルツールの導入を課題としていました。そこで導入されたのが、オンライン注文プラットフォームです。これにより、注文時の待ち時間を短縮、顧客の不満や混雑の解消につながりました。
また、このプラットフォームにはレコメンド機能、顧客エンゲージメントに沿ったサービス提供機能なども搭載されており、サービスの質や売り上げが低下しない仕組みになっています。実際に導入した店舗では、客単価15%アップ、さらには人件費の削減まで実現しました。
[出典:Monstarlab DXブログ「Shake Shack(シェイクシャック)」]
三菱ケミカルグループ株式会社
半導体材料の開発・提供や製薬材料、食品機能材料の提供などを展開する三菱ケミカルホールディングスでは、業務効率化やコスト削減を実現するために、国内外の全プロセスの90%を標準化することを決定しました。
標準化のために必要なデジタルバックボーンを構築するため、アプリケーション構築や最先端技術の活用などを行いDX推進を進めています。
データ分析にはAIを活用して戦略を立て、社内デジタルチームのスキルアップを図ることでプラットフォームを強化しました。また、自社の全インフラの移行も予定しており、従業員の働き方改革やコストの最適化が期待されています。
[出典:三菱ケミカルグループ株式会社「DXの推進」]
住友生命保険相互会社
主に生命保険業を展開する住友生命保険相互会社は、DXの取り組みで健康増進型保険「Vitality」の開発を実施。しかし、価値創造型の商品であるVitalityに対し、同社では新しい価値を創造してビジネスに組み込むことができる人材がいませんでした。
そこで、まずはシステムに知見がある人材にビジネスの知識やデジタル技術を学んでもらえるカリキュラムを導入しました。結果的に社内でDXが推進され、Vitalityの開発も成功しています。
注目すべきは、この開発が会社ファーストではなく、ITを通して生活をよりよくすることを念頭に、社会や顧客を意識して行われたことでしょう。
[出典:住友生命保険相互会社「DX対談」]
▷注目すべき海外のDX推進事例15選!事例からみる日本との比較も解説
デジタルトランスフォーメーション(DX)の理解を深めよう
今回は、デジタルトランスフォーメーションの呼称「DX」の由来も含め、重要性やメリット、成功事例などをお伝えしてきました。
企業にとって、DXの推進は必ず実施すべき大きなテーマです。そして、DXが進まない現状の課題を解決するためには、まずDXへの理解を深める必要があります。そのうえで、目的や経営戦略を明確にして一歩ずつDX化に取り組んでいきましょう。
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