DX推進にシステムの内製化は必要?メリット・デメリットや進め方を解説
DX推進をする中で、システム開発の内製化は必要なのでしょうか。本記事では、システム開発を内製化した場合のメリットやデメリット、内製化するか外注するかを見極めるポイントを紹介します。内製化する時のコツも解説しているので合わせてご覧ください。
目次
DX推進にシステムの内製化が重要な理由
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革することを意味しています。近年、企業競争力の向上や業務効率化のため、DX推進を図る企業が増えています。
これまでシステム開発を行う場合、日本の企業の多くは外部に委託する「外注」が主流でした。しかし、日々変化するデジタル環境に対応するため、システム開発を自社で行う「内製化」に切り替える企業も増えてきています。
ここでは、システムの内製化が重要視される背景について解説します。
(1)スピード感を持って変化に対応する必要があるため
内製化が広がる背景には、市場やビジネスのスピードの高まりがあります。市場のニーズは日々変化し、企業はそれに合わせたシステムの刷新や改善が求められます。また、常に最新技術を取り込みながらシステムをアップデートさせなくてはなりません。
しかし、外注ではスケジュール調整などに時間を要し、迅速に対応するのが難しいのが現状です。企業の成長には市場の変化への柔軟な対応が必要であることから、内製化が広がっています。
(2)企業全体のデジタル最適化が求められているため
新型コロナウイルスの流行以降、リモートワークなどの働き方が増え、DX推進が加速しています。こうした働き方の変化に対応するためには、状況に応じて自社のデジタル環境を最適化する必要があります。システムを内製化しておけば、こうした事態にも柔軟な対応が可能になるのです。
(3)システムのブラックボックス化を防止するため
デジタル化を進める中で重要なのが、システム障害への対応です。外注している場合は、障害の発生原因や対応策などに対して、都度外注先との調整が必要になり、対応に時間を要します。
また、自社に技術者がいない場合は、自社で使用しているシステムの中身を誰も把握できていないという状況にもなりかねません。このような、自社システムのブラックボックス化を防ぐためにも内製化は重要です。
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内製化した場合・外注した場合で異なる点
外注から内製化に変更した場合、コストや組織体制にもさまざまな変化が生じます。ここでは、それぞれのケースにおける費用や組織体制の変化について解説します。
(1)費用
企業がDX推進のためにシステム開発の内製化を図った場合、以下のような費用負担が考えられます。
・従業員の人件費、教育費
・パソコン・サーバーなどの設備費 など
一方で、外注した場合は「外注費」のみの負担となります。短期的に見ると内製化は設備費など初期投資に費用がかかり、必ずしもコスト削減にはつながりません。しかし、長期的に考えれば外注費を抑えることができるため、コスト削減にも意義のある取り組みと言えるでしょう。
(2)組織体制
内製化をした場合、組織体制も自社での構築が必要です。プロジェクトマネージャーや、エンジニア、プログラマーなどの人材でチームを構成し、開発から運用までチーム内で協力しながら進めていきます。
運用がスムーズに進めば、社内の調整のみで事業を進められるため、仕様変更などにも柔軟に対応できるようになります。
一方で外注をする場合は、自社に外注先と調整を行う責任者が必要です。また、改善や仕様変更があるたびに調整が必要なため、時間がかかる可能性があります。
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システム内製化による4つのメリット
システム開発の内製化を進めることは、企業にとってもさまざまなメリットがあります。ここでは、内製化のメリットを4つ紹介します。
(1)素早く変化に対応しやすい
外注の場合は、委託先とのスケジュール調整や納期の確認など、開発完了までにさまざまな工程が必要です。
一方で内製化をしておけば、社内担当者との調整のみでシステムの開発や仕様変更を進めることができます。自社のエンジニアが対応することにより、外注よりもスピード感のあるシステム運用が可能になるのです。
(2)自社にノウハウが溜まる
内製化をすると、開発から業務まで全て自社の従業員が行うため、その過程で得た知識やノウハウは会社の貴重な資産となります。
そのノウハウをマニュアル化し、次の担当者へ引き継ぎできれば、人の入れ替わりがあっても知識やノウハウが失われることはありません。内製化は、デジタル技術の蓄積やエンジニア育成の環境作りにも大きく役立ちます。
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(3)システムのブラックボックス化を阻止できる
システム開発を外注していると、「自社システムについて理解している人が社内にいない」ということがよく起こります。
このように自社システムがブラックボックス化してしまうと、緊急時に迅速な対応ができません。また、次の開発にノウハウを生かすこともできないでしょう。
内製化を進めれば、自社の従業員がシステムの内容を熟知できるため、ブラックボックス化を阻止できるのです。
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(4)柔軟な開発ができる
内製化の場合、社内調整のみで対応できるため、開発途中の仕様変更などにも柔軟に対応できます。外注では変更があるたびに、スケジュール調整などを要するため開発過程での変更はハードルが高いのが現状です。
また内製化すれば、自社の業務内容をよく理解した従業員が開発に携わります。そのため、業務内容に沿った柔軟なシステム開発が実現するのです。
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システム内製化のデメリットや課題
内製化には多くのメリットがある一方で、考慮すべきデメリットもあります。ここでは、主なデメリットを5つ紹介します。
(1)コスト意識が希薄になりやすい
外注の場合、支払う費用の金額や内訳が明確です。そのため、余計な費用をかけない工夫をするなど、コスト意識を強く持つことができます。一方で内製化の場合は、人件費や設備費など、さまざまな費用が発生します。
そのため、何に対して、いくらコストがかかっているのか全体像が把握しづらくなるのです。特に人件費は、積極的な人材の採用、育成環境の整備などで、一気に増えてしまうことがあります。
(2)人材の採用や育成に時間とコストがかかる
IT市場が急成長を遂げる一方、日本国内のIT人材不足が深刻化しています。そのため、人材の確保には、ある程度の時間やコストがかかってしまいます。
また、内製化を進めるには、採用後の人材育成が欠かせません。しかし、人材育成には、短くとも数ヶ月、長い場合は数年かかります。依頼したその日からシステムの構築が始まる外注と違い、内製化は人材の採用や育成にかかる時間とコストも考慮しなくてはなりません。
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(3)開発品質が落ちやすい
外注の場合は、システム開発を専門とする企業に委託することが多く、各社の品質基準をクリアした高品質なシステムが納品されます。
自社でエンジニアを揃える場合は、外注先と比べて技術や実績、経験が不足していることもあります。そのため、外注に比べてシステムの品質が落ちる可能性があります。
(4)大規模開発に向かない
内製化は、小規模の開発ならば柔軟な対応ができるなど、多くのメリットがあります。しかし、大規模なシステム開発を行う場合、人材や知識不足などにより、自社のみで行うことが難しいケースもあります。
大規模開発の場合は、高い知識やスキルを持った人材が多数必要です。自社でそれだけの人材を揃えることは難しいため、大規模なシステム開発は内製には向いていません。
(5)離職のリスクがある
内製化によってシステムが確立した場合、管理や運用は社内で実施することになります。そこで問題になるのが、システムを熟知した担当者の離職です。
一人の担当者に業務が偏っていると、システムがブラックボックス化してしまう可能性があります。そのため、システムの担当者が離職すると、管理や運用が継続できなくなるのです。
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内製化を行うか外注するかを見極めるポイント
内製化と外注にはメリット、デメリットがそれぞれあり、自社にとって最適な方法を総合的に選択しなくてはなりません。ここでは、内製化と外注のどちらが適しているか見極めるポイントを紹介します。
(1)コストの比較
内製化を進めるかどうか判断するためには、まずコストを考えなくてはなりません。特に、内製化は全体のコストが把握しづらく、気づかないうちに自社の財政に大きな負担がかかってしまうこともあります。
ただし、内製化は初期費用がかかりますが、長期的な視点で見ると外注費を抑えられるためコストダウンできる可能性もあります。将来のビジョンを立てながら、外注にかかる費用と、内製化の全体的なコストを比較し検討することが大切です。
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(2)人材の育成や採用が可能か
内製化の課題の一つに、エンジニアの人材確保と育成があげられます。特に日本国内のITエンジニアは人材が不足しているため、スムーズに採用できない可能性があります。
また、人材を採用したとしても社内に育成できる環境がなければ、内製化は成功しません。内製化を進めるには人材確保と育成が十分にできる状況か、判断する必要があります。
DX推進におけるシステム内製化の進め方
実際に内製化を進めるうえで、必要なプロセスについて解説します。
(1)人材を育成・採用する
内製化を進めるうえで大切なことは「人材の確保」です。採用の体制作りなど、新たに人材を確保する環境を整備しましょう。
そして人材の採用と同時に、人材を育成する環境を整えなくてはなりません。IT人材の育成のためには、専門的な知識やスキルが必要です。社内にノウハウがない場合は、外部の専門家に研修や講義を依頼する方法もあります。
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(2)社内の開発環境を整える
次に、設備や組織の編成など、システム開発ができる環境を整える必要があります。環境をしっかりと整えれば、開発がスムーズに進み、業務の効率化も可能です。
また、ノウハウが蓄積されるようになり、障害への対応やマニュアル作りも自社で行えます。内製化の計画を立てながら、段階的に開発環境を整えることが大切です。
(3)社内で品質を担保できる体制を作る
従業員が作業できるような開発環境を整えたら、作成したシステムを社内で評価できる仕組み作りが必要です。外注の場合、委託先の企業の品質基準をクリアしたものが納品されることが多く、自社で細かく品質管理をする必要はありませんでした。
しかし、内製化を進めるとなると、開発したシステムの品質基準を自社で作成し管理しなくてはなりません。また、外注していた頃に比べて、技術や知識が劣り品質が低下する可能性もあります。品質の新しい評価基準など、品質管理の体制作りも進めましょう。
(4)外注先での依存度を段階的に減らす
外注先の委託を急にすべて止めてしまうと、新たなチームへの負担が大きくなります。また、既存のシステムの管理や運用に不具合が出る可能性もあるでしょう。さらに、内製化は社内の体制の変化に大きく関わるため、従業員の混乱を招くこともあります。
内製化が可能な工程から取り入れ、段階的に外注への依存度を低下させるのがおすすめです。業務体制を段階的に確立できるように、無理のない計画を立てましょう。
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システムを内製化するときのコツ
内製化を成功させるためには、デメリットを回避しながら、ポイントを押さえた進め方が大切です。ここでは、内製化に向けて押さえておきたいコツを紹介します。
(1)社内システムの棚卸しを行い、内製化する優先順位をつける
内製化を効率よく進めるためには、一度に全てのシステムを内製化するのではなく、優先順位をつけてから進めることが大切です。
そのために、まずは社内で稼働しているシステムの現状を確認する必要があります。システムの中には、古くから稼働し最新のものにアップデートされていないものや、社内全体で共有できていないシステムがあるかもしれません。まずは、そうしたシステムを棚卸しすることが大切です。
棚卸しが終わったあとは、内製化の優先順位を考えます。基幹システムなど安定性が求められるものは、無理に内製化を進めると業務に支障が出る可能性があります。課題の多い箇所や、変化が求められるシステムなど、内製化を取り入れやすい箇所を見つけて進めていくとよいでしょう。
(2)社内開発できるツールを導入する
従来のシステム開発には、プログラムコードを書ける人材の確保が必要でした。しかし、そうしたプログラミングスキルを持つIT人材の確保や育成は容易ではありません。そのため、内製化には自社の状況に合わせた最適な開発ツールの導入が必要です。
現在、注目されている開発ツールが「ローコード開発」です。視覚的な操作を用いて高度なプログラムを組むことができ、プログラムコードの記述を最小限に抑えることができます。システム開発にかかる時間も大幅に短縮できるため、内製化には欠かせないツールです。
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(3)人材の採用や育成環境を整備する
専門知識を持った人材の採用や育成が内製化の成功には欠かせません。採用については、求人サイトなど従来のやり方のほかにも、SNSを使った手法なども取り入れながら幅広く検討することが大切です。
また、採用後の育成プログラムも整える必要があります。IT人材の育成には専門スキルが必要なため、すぐに環境を整備するのは難しいかもしれません。そのため、外部の研修なども上手く活用しながら進めていきましょう。
(4)必要に応じて内製化コンサルを活用する
内製化に対応できる社内体制が整っていない場合は、専門のコンサルティングサービスを活用することもおすすめです。内製化の知識や体制作りに不安がある企業にとっては心強いサービスとなります。
人材の育成から開発支援まで一貫してサポートするものから、課題の業務のみを一部依頼するものなど活用法もさまざまです。自社の課題に合わせて適切に取り入れることで、よりスムーズに内製化を進めることができます。
▷DXコンサルティングとは?必要な企業や導入メリット・選び方を解説
メリット・デメリットを把握し内製化するか決めよう
DX推進のためのシステムの内製化は、時代に合わせた変化への柔軟な対応、社内ノウハウの蓄積など、企業にとって多くのメリットがあります。一方で、コストや時間、人材の確保や育成などのデメリットも少なくありません。
ここでお伝えした内容を参考にして、システムの内製化に取り組むべきかを検討してみてください。そして、内製化を進める場合には、自社の状況や課題をしっかりと整理したうえで、計画的に取り組みましょう。
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