日本のDX推進の現状とは?海外との比較や遅れている理由について

最終更新日時:2023/04/28

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日本のDX推進の現状について

日本国内でのDXに対する認知や理解は、徐々に拡がっているものの、実際の企業におけるDX推進の取り組みは、海外と比べて、順調とまではいえない状況にあります。この記事では、日本のDX推進が遅れている理由や、海外と日本のDX事情の違いを解説します。さらに日本企業が行うべきDX化への取り組みや成功事例もご紹介しますので、企業のDX化を目指す上での参考にされてみてください。

福本大一

監修者 福本大一 Chatwork株式会社 DXソリューション推進部|マネージャー 大学卒業後、toC領域のWEBメディア事業で起業。事業グロースに向けたSEO戦略から営業・運用広告に従事し、約2年間の経営を経て事業譲渡。2021年3月からChatworkに入社し、カスタマーマーケティングやアライアンスを経験した後、メディア事業・運用広告事業の責任者としてミッションを遂行する。現在は、DXソリューション推進部のマネージャーとして新規事業領域のセールス・マーケティング・アライアンス・メディア事業を統括。

海外と比較した日本のDXの現状

スイスに拠点を置くIMD(国際経営開発研究所)が、2021年に発表した「世界のデジタル競争力ランキング」では、1位アメリカ、2位香港、3位スウェーデンに続き、日本は28位という結果となっています。

この調査は、「知識」「テクノロジー」「将来への準備」の3つの観点から、IT分野での競争力を評価するものです。

アジア諸国からは、シンガポールや台湾が10位圏内に入っており、昨年はトップ10入りを果たしていた韓国も少々ランクを落としたとはいえ12位と、変わらず上位をキープしています。また、2018年には30位だった中国が15位にランクインし、躍進を遂げたことにも注目が集まりました。

一方の日本は、2020年の27位、2021年の28位と低迷した状況が続いています。特に、「IT技術の専門家が人口に占める割合」や「ブロードバンド普及率」といった客観的な指標により評価される、IT人材やデジタル技術・スキルの競争力においては、それぞれ47位と62位となるなど、日本国内のIT人材の不足やそれに起因したデジタル技術・スキルの不足など、DX化への遅れが浮き彫りとなった形となりました。

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日本が陥る2025年の崖とは

「2025年の崖」とは、日本企業においてDXが推進されなかった場合、2025年には最大で年間12億円もの経済損失が生じる可能性があるとした問題のことです。

この2025年の崖の、主たる要因となるのが「レガシーシステム」です。レガシーシステムとは、長期間にわたって使用される間に機能の追加や拡張を繰り返したことで、複雑化・老朽化・ブラックボックス化したシステムを意味しています。

レガシーシステムは、システムを理解した人材の不足や、メンテナンスの負担などが大きく、維持費用が年々膨れあがる傾向にあります。

このようなシステムの管理には、多くの人的リソースやコストが割かれ、その結果、新たなIT技術の開発予算が確保できなくなるなどの悪循環に陥ってしまうのです。

また、レガシーシステムの多くは、最新の多様なシステムとの連携が困難なため、業務効率や生産性を落とし、事業スピードに影響が出てしまう恐れもあります。

そのため、経済産業省はレガシーシステムからの脱却を目指し、デジタル社会基盤の形成を早期に実行する必要があると警鐘を鳴らしているのです。

[出典:経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」

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日本のDX推進が遅れている理由

企業の国内における競争力、ひいては世界レベルでのIT分野における日本の優位性を確保する意味でも、DXの推進は急務となります。しかし、現状は「2025年の崖」が描くシナリオ上にあると言わざるを得ません。

そこで、なぜ日本はDX推進が依然として進まないのか、その理由についてまとめました。

(1)経営戦略が曖昧で具体的な指示がない

企業におけるDXの推進は、単に業務をデジタル化することに終わらず、デジタル技術によって既存事業に変革を起こしたり、新たな価値を創造したりする点に真価があります。

そのため、DXを進めるにあたっては、明確な経営戦略が必要となります。

経営戦略が曖昧なまま進めてしまうと、無駄な予算が発生するだけでなく、現場社員の反発にあってDX化が頓挫してしまうケースや、新たなビジネスモデルによる企業優位性の確立といった本来の目的を達成できなくなります。

そのため、DX推進における経営戦略では、何を、どう、どのタイミングで改革し、どういった状態を目指すのかについて、具体的に表現する必要があります。

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(2)IT人材の不足

DXを推進させるためには、最先端のデジタル技術の知識を持つだけでなく、自社の事業における市場動向や、社内の業務状況に対しても深い理解のある人材が必要となります。

しかし、慢性的なIT人材の不足の現状においては、そのような人材の確保ができる企業はごくわずかといえるでしょう。そのため、DX推進の計画や戦略策定の時点でつまずいてしまう企業が後を絶たないのです。

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(3)老朽化したシステムを使っている

前出の「レガシーシステム」と呼ばれる、老朽化したシステムの使用は、DXの推進を妨げる主たる要因でもあります。レガシーシステムは最新システムやデジタル技術との連携が難しく、莫大な維持費も発生します。

このような老朽化したシステムを抱えている企業は、日本の約8割ともいわれ、システムの刷新においては、当該システムに精通した人材の高齢化が進み、退職してしまっているなどの理由で、システムが変更しにくいといった事情もあります。

レガシーシステムの問題点とは?懸念リスクと脱却に必要な手法や人材

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日本のDX推進を妨げている障壁

次に、DX推進を目指す際のよくある「障壁」をご説明します。

(1)DXへの理解が足りない

DXを推進するにあたっては、「DXの定義」「DX推進のメリット」など、DXの本来の目的への理解を深めることが重要です。

企業におけるDXの推進は、業務の根本的な見直しや相応の投資など、少なからず痛みを伴う改革となります。

IT人材不足の課題にも通ずる部分ではありますが、自社の何にどうITの技術を導入することで、新しい価値の創出が可能になるのか、その目標が明確に描けないようでは、従業員の協力を得たり、予算の確保したりするのは困難であるといえるでしょう。

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(2)社内で共通認識が持てていない

DXの推進は、現状の事業や業務フローの棚卸しをして、課題を見出す作業から始まります。また、実際にシステム化などが進む段階では、根本的な業務の見直しも発生するでしょう。そのため、従業員全員の協力が必要不可欠となります。

しかし、レガシーシステムや既存事業の利益に「現時点」で不満を抱えていない場合は、現場からの反発が起きることは珍しくありません。

DXを推進する目的やメリット、目指すゴールについては、社内全体が共通認識として把握できるよう、共有を徹底することが重要です。

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(3)ベンダー企業に任せれば良いという認識がある

日本におけるIT人材の特徴ともいえるのが、IT人材の所属が、ベンダー企業に大きく偏っていることが挙げられます。

要は、これまでの日本企業では、ユーザー企業でSEやプログラマーといったIT人材を確保しているケースは少なく、システムの開発や管理は、ほとんどがベンダー企業にお任せだったということが伺えるのです。このような慣習的な認識や実情が、DX推進の妨げにもなっています。

(4)経営陣がコミットメントできていない

DXの成功には、全社を挙げた取り組みと、相応のシステムへの投資が必要となります。そのため、経営陣のコミットメントは欠かせない要素のひとつとなります。

「DXを推進する」といった目標を現場に丸投げして終わるのではなく、経営陣が積極的にDX推進に関わることが大切です。

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DXが発展している国と日本との差

DX推進に遅れをとっている日本ですが、先進的な取り組みをすでに実施している海外の国々とは、どのような差があるのでしょうか。ここでは、具体例を挙げつつ解説します。

(1)金融のインフラ

日本では1960年代に「日本ダイナースクラブ」が日本で初めてクレジットカードのサービスを開始して以来、日本クレジットビューロー(現在のJCB)が設立されるなど、徐々にクレジットカードが普及していきました。

一方、中国においては2002年までクレジットカードは、ほとんど普及していなかったものの、2002年に中国銀聯が「銀聯(Union Pay)」のサービスを開始すると、その発行枚数は瞬く間に80億枚を超えるなど、急激な成長を遂げています。

中国が、デジタル競争において急成長を遂げた要因のひとつとしても、このようなクレジットカードサービスの急激な普及が、影響していると考えられます。

(2)世代によるDXの受容度の温度差

IT技術への抵抗がなく、一旦認知されてしまえば、普及や浸透のスピードも速い若い世代に比べ、シニア世代は、今までのやり方を変えることに抵抗があったり、単に覚えるのが面倒と感じたりすることも多いでしょう。

世界と比較して日本はとくに高齢化が進んでおり、そのような面からもDX推進の受容性が低いといえます。

注目すべき海外のDX推進事例15選!事例からみる日本との比較も解説

2025年の崖を回避するために日本企業が行うべきこと

莫大な損害を被らないためには、2025年の崖は、なんとしても避けたい事態といえるでしょう。ここでは、そのために日本の企業が実行すべきことを解説します。

(1)既存のITシステムを見える化する

ブラックボックスと化した既存システムについて、「現状、問題は起きていないのだから」と見て見ぬふりをしているようでは、コストがかさみDX推進を阻む障壁は解消されません。

既存のITシステムの刷新に向け、まずはシステム機能や役割の見える化から着手してみましょう。可視化することで、刷新すべき必要な機能だけでなく、不要な機能や作業が見えてくることもあります。

ただし、既存のITシステムの刷新は、DXの中でも大きな予算を必要とする段階であるため、計画的に進めることが重要です。

DX化とIT化の違いとは?必要性やDXを推進する方法をわかりやすく簡単に解説

(2)全社的にDXの目的やビジョンを共有する

DXを推進させるためには、経営陣やマネジメント層のコミットメントだけでなく、全従業員の協力が必要です。

そのため、DX推進にあたりどのようなIT技術を導入するのか、導入する目的や目標は何なのかなどを具体的な内容で全社に共有し、従業員の理解を得ることがDX成功の鍵となります。

DX推進には不可欠なビジョンとロードマップ策定の重要性について

(3)ベンダー企業との契約関係の再構築

ITシステムの管理をベンダー企業に依頼している場合は、ベンダー企業との関係性の見直しも必要となるでしょう。

また、IT技術が日々進化し、市場ニーズの流動性も高いビジネス環境においては、DXの推進は、企業にとってある意味、終わりのない取り組みとなります。

そのため、企業におけるIT人材の確保、社内の人材育成も粛々と進め、将来的には、ベンダーに依存しない、DXの内製化が図れる体制づくりを進めることも重要です。

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日本企業のDX推進に成功した5つの事例

最後に、DX推進により、新たなビジネスモデルの確立や既存ビジネスの変革を遂げた日本企業の成功事例を5つご紹介します。

(1)トライグループ

主に家庭教師の派遣サービスを展開するトライグループは、オンラインで教師による指導が受けられる「Try IT」サービスを開発しました。1コマ15分といった、空き時間などにも利用しやすい授業の特徴や、各科目の苦手なテーマのみを繰り返して学習できる利便性などから、多くのユーザーを獲得しています。

また、この技術を利用してオンライン授業専用の教室を作るなど、派生した新たなビジネスモデルも展開するなど、事業のDX推進に成功しています。

(2)ソニー損害保険

ソニー損害保険は、AIを活用した自動車保険「GOOD DRIVE」サービスを提供しています。

GOOD DRIVEは、スマホアプリで収集した運転中のデータを分析することで、AIにより事故リスクを個別に算出することができるサービスです。

そのため、ドライバーに適した保険がわかるだけでなく、事故リスクが低いと判断されたドライバーにはキャッシュバックするなどの顧客体験向上につながるサービスの展開に活用しています。

(3)日本交通

ハイヤー・タクシー事業を展開する日本交通では、地域や時間によって変化するタクシー需要の動向が把握できず、業務効率の悪さへとつながっていたことが長年の課題となっていました。

そこでAIによって「地域」「時間」「時期」「交通状況」「気象状況」「イベント情報」などの、いわゆるビッグデータと呼ばれる多種多様なデータを分析するITシステムを開発。AIによる的確な分析により、タクシー配車の最適化に成功しました。

また、同時に顧客に対しても、タクシー配車を簡単に依頼できる「GO」アプリを提供したことから、顧客満足度の向上にも成功しています。

注目すべき海外のDX推進事例15選!事例からみる日本との比較も解説

(4)ベネッセホールディングス

通信教育や出版などの事業を展開するベネッセホールディングスでは、既存の業務やビジネスを段階的にデジタル化していきました。また、既存システムの情報を整理するとともに、不要な業務やシステムの廃棄を徹底的に実施し、業務効率の改善と向上を実現しています。

DXによる新たなビジネスモデルとしては、会員の学習データや指導ノウハウから、AIを使って会員一人ひとりに最適な学習方法を提供するサービスを開始。さらに、ベネッセホールディングスが提供する「進研ゼミ専用タブレット」にもAIの技術が活用されています。

DXとAIの関係性|AIの活用事例やDXとAIの違い・DX推進の秘訣

(5)りそなホールディングス

りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらいフィナンシャルグループ等を傘下に置くりそなホールディングスは、金融業界の中でも、いち早くバンキングアプリを導入しています。

同アプリは、リリース以降、約400万ダウンロードを達成。さらにこのバンキングアプリはプラットフォームを公開しており、他の金融機関の新たなビジネスモデルの創出を支援している点も特徴です。

実際に、2021年にはめぶきフィナンシャルグループにバンキングアプリの基盤を提供し、同グループの傘下である常陽銀行や足利銀行では、バンキングアプリのサービスが開始されています。

DXの成功事例15選!先進企業から学ぶDX推進を成功させるポイント

DX推進は国内外を問わず重要かつ急務である

国内外を問わず、流動的な市場のニーズに対応していくためには、組織やビジネスモデルのDX推進は、重要であり必要不可欠な要素となります。

また、DXの推進は、業務のシステム化を目指すのではなく、デジタル技術により、新たなビジネスモデルや価値を創造することに、その本質があることを忘れてはいけません。

DX推進に向け、確かな経営戦略と人的リソースを確保し、企業優位性の確立を実現しましょう。

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