デジタルツインの最新事例6選!業界別の活用方法を具体例で解説!
デジタルツインは社会でどのように活用されているのでしょうか。本記事では、デジタルツインが注目される背景や活用メリットを解説した上で、業界別にデジタルツインの事例を紹介します。注意点も紹介しているので合わせてご覧ください。
目次
デジタルツインとは?
デジタルツインとは、ITトレンド用語の1つで、現実世界から収集したあらゆるデータを双子であるかのようにコンピュータ上で再現する技術のことです。
従来の仮想空間とは異なり、リアルな空間を再現できます。デジタルツインの実用化が可能になった背景として、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の進化があります。
IoTによって取得したデータはクラウド上のサーバーにリアルタイムで送信され、AIが分析処理することで、起こりうる未来のシミュレーションが可能になりました。
普段の生活の中では気がつきにくいものの、都市設計においてもデジタルツインの利活用の動きはすでにはじまっています。1つの代表例が東京都による「デジタルツイン実現プロジェクト」です。
東京都は2030年の実現に向けて、防災・まちづくり・モビリティ・エネルギー・自然・ウェルネス・教育・働き方・産業などあらゆる分野でデジタルツインを活用するプロジェクトを進めています。これにより、社会課題の解決と都民のQOL向上を図るとしています。
[出典:東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」]
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デジタルツインが注目される背景
デジタルツインがなぜ注目されるようになったのか、2つの背景について解説していきます。
(1)DXが進み、デジタルツインの導入がしやすくなったから
近年、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進みデジタルツインの活用の幅が広がっています。
これまで現実世界での情報をデジタル化する場合、さまざまなデータを人の手で入力する必要があったため作業負担が大きく、仮想空間に取り込める情報が限定されていました。
AI技術の発展により、手入力が必要な大量のデータも分析と合わせてAIが担当することで、より正確な検証結果を示せるようになりました。
DXを推進するにあたって、先進企業のプロジェクトではすでにデジタルツインが導入されており、新製品開発や保守メンテナンスなどの分野で成果を出しています。
DX化を推進して世界市場で生き残るためにも、企業はデジタルツインのビジネス活用に注力しはじめているのです。
(2)IoTの活用としてデジタルツインが選ばれることがあるから
デジタルツインの広がりの背景には、IoTも関係しています。
IoTの発展により今までよりも、リアルタイムで正確なデータを自動で取得可能となり、物理空間をより正確に仮想空間に再現できるようになりました。
IoTはすでに私たちの日常生活で導入されています。例えば下記のような活用例があります。
- 外出先からエアコンの電源ONやOFF
- 家のドアの開閉
- 照明のONやOFF
外出先から、スマホなどのデバイスを通じて離れた場所にある家電などを操作できます。物の操作だけでなく、IoTは集めたデータを活用して、サービスの改善や新たな商品の開発など、ユーザーにより最適な選択肢を提供することも可能です。
またビジネスの現場でもIoTの活用は進んでいます。
- 車両の運行管理
- 工場での生産管理
- 機器の予知・予防保全
- 店舗の在庫管理
こうしたデータ収集と活用をリアルタイムでできるようになったことで、企業は消費者の生活の質の向上やビジネス改革につなげるためにデジタルツインの活用に力を入れ始めているのです。
デジタルツイン9つの活用メリット
デジタルツインを活用するメリットは9つあります。デジタルツインを導入する効果も合わせて解説していきます。
(1)遠隔で監視や指示出しができる
デジタルツインを導入することで、遠隔監視が実現できます。
スマホやタブレット端末から、デジタルツインによる仮想空間を確認できるため現場にいなくても、映像を見て音声により指示を出せます。主に、生産現場や飲食店、各種施設での防犯システムで導入されており設備や機器の監視が可能です。
例えば、日本各地に拠点を構えているメーカーであれば、定期的に工場を訪問するのは交通費と時間、人件費がかかります。遠隔監視カメラを導入すると移動時間や交通費の削減につながり、さらには設備内での作業状況などもデジタルツインで確認できます。
またデータとして保存・蓄積できるので、技術やノウハウを他のエンジニアに伝えたり、別の設備でノウハウを流用できるなど、副次的な効果も期待できます。
(2)現場作業が効率化される
現場作業の効率化にもデジタルツインは役立ちます。
AIの自動分析、遠隔監視などテクノロジーを活用することで現場業務の効率をあげ、ムダを省くことにつながります。
工事現場であれば、管理者が現場から離れた位置にいても「指示書」や「設備のデータ」などをスマホやタブレットから確認して指示を出すことで、経験の少ない社員でも迅速に業務をおこなえるでしょう。
さらに技術力が足りない社員は、熟練社員と比べて足りていない部分を数値やグラフなどで可視化して、課題を明確にできます。
業務のやり方が異なる場合や疑問点などが発生した場合でも、デジタルツインを活用してすぐに意思疎通が図れるため、現場作業の効率化だけでなく社員の課題解決にも効果を発揮します。
(3)スマート保安がしやすくなる
デジタルツインは「スマート保安」に対しても効果的です。スマート保安とは「製品評価技術基盤機構」で以下のように規定されています。
1:国民と産業の安全の確保を第一として、2:急速に進む技術革新やデジタル化、少子高齢化・人口減少など経済社会構造の変化を的確に捉えながら、3:産業保安規制の適切な実施と産業の振興・競争力強化の観点に立って、4:官・民が行う、産業保安に関する主体的・挑戦的な取組のこと。
[出典:スマート保安官民協議会「スマート保安推進のための基本方針」]
デジタルツインは、センサーデータと現場のデータを組み合わせて活用することが必要不可欠です。2つのデータが紐づけられることで、老朽化した生産設備などの軽微なエラーや故障などを迅速に確認できるようになり、リアルタイムでの対策の検討が可能になるのです。
デジタルツインは、石油プラントやガスなどのインフラ施設などでも導入が進み、安全性だけでなく生産性向上にも寄与しています。
(4)故障予測ができる
デジタルツインを導入することで、製品や製造ラインの故障予測ができます。トラブル発生時、設置されたIoTセンサーがデジタルツインと連動することで、「どこ」で「どんな」エラーが発生しているのかをリアルタイムで把握し、迅速に対策がうてます。
今まで生産設備などでトラブルが起きた際には、製造部門からフィードバックをもらった上で検証していたため、ダウンタイムの長さが課題でした。デジタルツインの導入により、何らかのトラブルが発生するまえに収集されたデータを参考にして、素早く原因の特定をおこない改善できるため、ある程度の予測検知が可能となります。
設備や部品にトラブルが発生しても、これまでよりは問題の解決に時間がかからなくなったため、ダウンタイムも縮小されます。
(5)製品の不具合を特定し品質が向上する
デジタルツインを導入すると、いままで保管されていた膨大なデータから製品の不具合を特定し品質向上に役立てられます。
仮想空間を活用すると、現実世界では限られた回数しか試行錯誤できなかった試作も繰り返しおこなえるようになります。複数回のトライアンドエラーを実施することで、製品の品質向上につながります。
- ユーザーの口コミ
- 使用感
- アンケート結果
- ヒアリングの内容
- 対応したクレーム
など地道に収集していた膨大なデータを参考にして、顧客の満足度向上のために無駄なく効率的に改善策を実行できるようになります。
(6)コストやリスクの削減につながる
デジタルツインを導入すると、品質向上の部分でも解説した仮想空間での試行錯誤が可能となるため、現実空間と比べてコストを削減できます。
仮想空間で複数回試作することにより、リスクや不明点を解決した状態で開発や製造をスタートさせることができるようになり、製造中に発生するリスクの軽減やトラブル予測も期待できます。
また、商品を製造するまえに、どのくらいのコストや人員が必要になるのか試算も可能です。コストやリスクを削減して新製品の開発をしたい場合、大きなメリットとなるでしょう。
(7)きめ細やかなアフターフォローができる
デジタルツインを導入することで、きめ細やかなアフターフォローができます。製品が顧客の手に渡った後も、設置しているセンサーからデータを取得して、状況の把握や寿命予測などが可能です。
製品に取り付けられたセンサーによって、使用状況(顧客の体験)を分析することで、ニーズや不満点を察知し最適な使用方法の提案をおこなえます。
また、故障時期の予測によって、メンテナンスの提案などがタイムリーに実施できます。顧客から収集されたデータを元にして、新商品の開発など新しいマーケティング戦略としても役立てられるでしょう。
(8)スペースの制限を受けない
デジタルツインによる仮想空間では、スペースの制限を受けずさまざまな試行錯誤が可能です。
新商品を開発するコストやスペースの制限を気にすることなく、仮想空間でシミュレーションをおこなえるため、仮に開発に失敗しても現実世界で行うよりリスクを最小限に抑えられます。
試作品の改良においても、スピーディーなフィードバックによって次の試作に活かせるため、時間とコストも削減できます。
特に予測が難しい環境下においては、変化に柔軟に対応できるデジタルツイン上の取り組みの方が、スペースおよびコストの優位性が高いのでより積極的な製品開発にのぞめるでしょう。
(9)コストや人員を最適化できる
デジタルツインによる仮想空間の活用で、製造工程におけるコスト、人員などの最適化が可能になります。
新しい製品を開発する際には、事前にかかりそうなコストや必要な人員を試算しますが、これまでは机上での計算のため正確性に欠ける面もありました。
デジタルツインであれば仮想的な製造ラインによって、蓄積された過去のビッグデータを活用しながら試算することで、計算の精度を上げることができます。過剰な人員配置はコストアップにつながり、人員が少なすぎると工期が延びたり品質低下につながるおそれもあります。
コストや人員を最適化することで、新たな製品開発や他の事業に余ったリソースを振り分けることができるので、企業全体の生産性や効率性も向上することが期待できます。
デジタルツインの活用事例6選
デジタルツインの活用事例を「製造業」「建設業」「行政」の3分野から2つずつ紹介していきます。
(1)製造業
製造業に関しては以下の2社の参考事例を紹介していきます。
- 富士通
- ダイキン工業
#1: 富士通
富士通では、複数の異なるシステムにより膨大なデータを収集していましたが、情報がバラバラな状態で、整理されていない点が問題でした。
この課題を解決するために、同社ではデジタルツインによって、仮想空間に可視化した工場の全体像や、電力消費量などの監視が可能な「インテリジェントダッシュボード」の技術開発に成功しました。
膨大な製造データを一元的に可視化することで、「生産・品質情報の管理」「エネルギー監視」などをおこない、生産性向上や経営改善に役立てています。
一連の取り組みによって、製造工程で問題が発生した場合、詳細まで情報を掘り下げて対応できるようになりました。国内の製造業においてデジタルツインを導入した企業の代表的な事例といえます。
#2: ダイキン工業
空調製品を生産するダイキン工業では「製造設備の異常」や「作業の遅れ」が問題点としてあげられていました。デジタルツインの導入により、製造設備の組み立て作業を仮想空間に再現することで、トラブルの予測から問題点の早期解決が可能になりました。
同社では工場内の製造設備にセンサーやカメラを取り付けて、カメラから取得したデータを仮想空間で「組み立て」「塗装」「プレス」といった工程を再現しています。
デジタルツインを導入した結果、現場改善や生産技術の向上により、3割のロス削減が見込めたという絶大な効果をもたらしています。時間やコストの削減を検討している製造業の企業において、ダイキン工業のデジタルツインの事例は参考になるでしょう。
(2)建設業
建設業におけるデジタルツインの参考事例は以下の2つです。
- 鹿島建設
- コマツ
#3: 鹿島建設
鹿島建設は顧客の建物資産価値のさらなる向上を捉え、「企画・設計から施工」「竣工後の維持管理・運営」までの情報を、BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)の活用によりデジタル化しています。
デジタルツインを使った仮想空間でシミュレーションをおこない、規格・設計フェーズでの周辺環境への影響、施工フェーズでの工事プロセスのデジタル化や進捗管理、維持管理・運営フェーズでの管理会社との連携や今後の開発へのフィードバックなどに活用しています。
建物のすべてのフェーズでデジタルツインを駆使して、建物資産価値の向上に寄与している事例の1つです。
#4: コマツ
総合機械メーカーのコマツ(小松製作所)では、IoTとアプリケーションで施工の全工程をデジタルでつなげています。
ドローンを飛ばしてカメラから撮影した実際の現場とデジタルツインで構築したデジタルの現場を同期させ、施工の最適化をおこなっています。
デジタルの現場によるデジタル施工では、リアルタイムで「施工状況の確認」や「未来予測」「事故リスクの予測」も可能です。デジタルで作成された施工計画作成書を提案することで、受注後のプロセスがなくなり、落札から本施工までの期間が短縮されました。
コマツの事例は「DX銘柄2020」でグランプリを受賞しており、将来的には複数の施工現場を遠隔でつなぎ、労働人口に関わる課題の解決を目指しています。
(3)行政
行政におけるデジタルツインの参考事例は以下の2つです。
- シンガポール政府
- 国土交通省
#5: シンガポール政府
シンガポールでは、国家全土を丸ごと3Dバーチャル化しており、リアルタイムで都市情報を可視化する「バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)」が展開されています。
シンガポールの都市計画は、行政の縦割り組織構造で工事計画が乱立してムダが発生しているため、最適化を目的として都市情報が可視化されています。
工事状況だけでなく建設後の人の流れや車の流れの変化など、シミュレーションできるため、渋滞緩和や工事効率化のための検討に役立ちます。シンガポールのデジタルツインは、インフラ整備計画における先進的な事例といえるでしょう。
#6: 国土交通省
国土交通省では、日本全国の3D都市モデルの整備、活用、オープン化を推進するデータプロジェクトのPLATEAU(プラトー)を進めています。
これまでの都市情報はセクターごとに分断されてしまい、得られる情報に限界がありました。今後起きるであろう災害やパンデミックに向けて、社会にあふれている課題の解決に向けて、都市が保有するポテンシャルを最大限に発揮するため、2021年にPLATEAUが実現されました。
2021年には、新宿の街並みを再現してアバターを用いて街を歩いたり、購買を体験できる実証実験がおこなわれました。将来的には、PLATEAUを利用して、エリア居住者の生活行動に密着したサービスだけでなく、教育や行政サービスを網羅した仮想世界の構築を目指しています。
デジタルツインを活用する際の注意点
デジタルツインを導入するにあたって3つの注意点を解説していきます。
(1)自社のサービスや製品に合っているか確認する
デジタルツインを導入するにあたって、自社のサービスや製品に合っているか確認することが大切です。業種や取り扱い商品によっては、デジタルツインの導入に適していない場合があります。
例えば、量産品の製造工程で不具合や故障が発生すると予測された時、立ち戻るには量産したタイミングのデジタルツインを構築する必要があります。
また、大型プラントなどにおいて将来的にメンテナンスが必要なケースでは、直近のサービス時点に戻らないといけません。トラブルが発生した際、戻るべきフェーズは自社で製造している製品や業種によって異なります。
デジタルツインを導入する前に、自社の製品やサービスに適しているのかについて、設計の背景まで考えて検討しましょう。
(2)デジタルツインだけでは不完全
デジタルツインだけでは、不完全であることも理解しておきましょう。デジタルツインは「シミュレーション」「トラブルの未然防止」などに役立ちますが、デジタルツイン単体では不完全です。
CADを例にすると「モノ」の3Dデータを作り、それを作動させるソフトウェアやエレクトロニクスのデジタルツインだけを用意しても、製造から提供までのプロセスをトレースすることが難しいため、故障が発生すると速やかに対応することが難しくなります。
デジタルツインはソフトウェアやエレクトロニクスの双子を作りだせますが、製品が作られ廃版になるまでの一連の流れ(例えば設計変更になった理由やどのように設計変更したかなど)をつなげておく機能を別途用意しないと、トラブルが起きた時に対応できないことがある点は把握しておきましょう。
(3)あるべき姿を描くのを忘れない
デジタルツインを導入するにあたって、活用する現場の「あるべき姿」の設計が重要です。目の前に見えている問題点だけを改善していくのは、手間もかからず楽です。
ただし、本来のあるべき姿の先にあるゴールが見えていないため、遠回りな改善となってしまうこともあります。ゴール地点を設定することで、ムダな改善活動をせず「あるべき姿」の先にあるゴールに最短かつ最適なルートでたどり着けるのです。
事例を参考にデジタルツインを正しく活用
デジタル技術の発展によって企業のDX化が進んでおり、生産現場をはじめとした様々な業界でデジタルツインの導入も始まっています。
デジタルツインには多くのメリットがありますが、目的やゴールの設定など、注意点を把握したうえで導入しないと効果を発揮できない可能性もあります。ここで紹介した活用事例を参考にして、自社ではどのような効果が得られるのかについて検討した上で導入を考えてみましょう。
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