デジタルツインとシミュレーションの違いとは?メリットや課題を解説
デジタルツインとシミュレーションの違いとは何なのでしょうか?本記事では、両者の違いに加え、デジタルツインのメリットや課題、事例について解説します。デジタルツインの活用がビジネスや人々の生活にどう影響を与えるのかなども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
デジタルツインとは?
デジタルツインとは、様々な目的で使用できる物理的資産、プロセス、人、場所、システムおよびデバイスをデジタル空間に再現する技術のことです。
経済産業省の2020年版「製造基盤白書(ものづくり白書)」では次のように定義しています。
フィジカル空間の情報を、IoTなどを活用してほぼリアルタイムでサイバー空間に送り、サイバー空間内にフィジカル空間の環境を再現することで、フィジカル空間のモニタリングや高度なシミュレーションなどを行う概念のこと(出典:MONOist)。
[引用:経済産業省「製造基盤白書(ものづくり白書) 2020年版」より]
デジタルツインによって、インターネット空間を通して得られる情報をもとに、将来どのような事態になるかということを予測できるようになります。
現実世界を仮想世界に映し出すといった意味合いから、「デジタルの双子(ツイン)」という呼ばれ方をしています。この技術はとくにリアルとの連動性が高く、現在のところ製造業を中心に活用されています。
シミュレーションとの違いを解説
未来予測を行うという点でシミュレーションと似ている部分がありますが、両者は異なる特性を持っています。ここでは、シミュレーションとデジタルツインにおける2つの違いを解説します。
(1)リアルタイム性
1つはリアルタイム性です。これまでのシミュレーション技術では情報の収集を行った上で仮説を立てて想定していくために、リアル世界との遅れが生じていました。このタイムラグは未来予測に大きな変化をもたらします。
一方デジタルツインではIoTなどを使ってデータを収集し、タイムリーに仮想空間に反映させます。シミュレーションとは違い、現実をもとにすぐに予測を立てることができるので時間的なズレを最小限に抑えられます。
(2)現実と仮想の連動
もう1つの違いは、現実(リアル)と仮想空間の連動性です。リアルタイム性に優れたデジタルツインは、現実世界の変化をすぐに仮想空間へと反映することができます。
一方シミュレーションは仮説を立ててシナリオを組み立てていくため、連動性が低く、タイムラグも起きやすいといった特徴があります。デジタルツインのほうがより現実的で精度の高いシミュレーションを行えるといった特性があります。
デジタルツイン導入がもたらす5つのメリット
デジタルツインの導入は様々なメリットをもたらします。これからさらに注目度が高まると予想されるデジタルツインについて、5つの強みを解説していきます。
(1)コストの削減や試算が可能になる
これまで、製品を開発する際には現実空間で試作品を製作し、動作確認やエラーチェックを行うのが一般的でした。デジタルツインの活用により、仮想空間で試作を行うことができるようになったため、開発費用を下げられるようになります。
また、コストの試算も正確かつスピーディに行えるようになるため、予算管理やプロジェクト全体の管理もよりスムーズに実行できるでしょう。
(2)リスク回避やリスクの軽減ができる
1つ目のコスト削減にも繋がる部分ではありますが、これまでは「試作しなければ分からない」という点がたくさんありました。
試作品を作ってみたもののクオリティが低く製品化に繋げられなかったといった問題も起こりえました。そのため、試作に対してどの程度のリスクがあるのかについて、不透明な点が多かったのです。
時間と費用をどのくらいかけるべきか、どのようなエラーやミスが発生するのかについて、デジタルツインを使ったシミュレーションであれば容易に把握できるようになります。
デジタルツインは従来の手法よりもリスクを軽減させた取り組みが可能になる技術であり、同時に積極的なチャレンジを促す技術でもあるといえるでしょう。
(3)設備トラブルの原因を追究しやすくなる
デジタルツインが製造業などで特に注目されている理由の1つに、設備保全に適しているという点があります。例えば、機械設備にトラブルが発生した時に、デジタルツインと連携している設備であれば即座に原因究明ができ、対応スピードが早くなります。
デジタルツインにより構築された仮想空間はリアルな空間と連動しているので、旧来のような設備そのもののデータチェックに時間をかけたり、管理者からのレポートを待たずとも事態の把握がしやすくなります。
(4)業務の効率化によりリードタイムが短縮される
製造現場などにおいてデジタルツインを活用することで、業務効率化にも繋げられる可能性があります。
デジタルツインの強みは、リアルタイムにデータを収集して現場での人や資材などのリソースの最適化を図る管理業務を代行してくれる点です。製造のプロセス全体を最適化することで、リードタイムの短縮が期待できます。
また、人の手によって管理・チェックを行い改善策を実行する場合、人員不足や集中力の低下などによって、作業効率や正確性が損なわれるケースもあります。デジタルツインはそうした製造現場などにおける作業効率の改善が期待できます。
さらに、機器や設備におけるメンテナンスの必要性やタイミングを最適化できるので、回数や頻度を減らすことにも繋がります。
(5)企業価値や顧客満足度を向上できる
デジタルツインは、顧客のアフターフォローにも活用できます。出荷した製品の状態を常に把握することで、バッテリーの消耗状態や製品の疲労度に応じた適切なタイミングでの交換や点検などのサポートが行えるようになります。
顧客からの問い合わせを待たずに手厚いフォローができるため、顧客満足度や企業価値の向上にも繋がります。
デジタルツインにおける3つの課題
デジタルツインは比較的新しい技術であることから、いくつかの課題も指摘されています。ここでは、3つの課題を解説していきましょう。
(1)監視されていない周辺環境との相互関係を観測・予測することは難しい
1つ目の課題は、デジタルツインは対象が限定的であれば効果を発揮できる反面、周辺環境(モノ・ヒト・その他外部環境)との相互関係まではシミュレーションできないという点です。
現実世界では、何か1つの要因で物事が発生するのではなく、複数の要因が作用し合っているケースがほとんどでしょう。デジタルツインでは様々なデータを取得する必要がありますが、すべての関連データをもれなく収集することは技術的なハードルが高いのが現状です。
周辺環境と連動できず、それぞれに対して作用できていない場合、十分な成果を得られないことがデジタルツインの懸念点として挙げられます。
(2)導入効果はユーザー側の体制・導入方法に依存する
2つ目の課題は使い手次第で効果が変わってしまうという点です。誰がどう使っても同じ効果を発揮できるわけではなく、ユーザー側の受け入れ体制や、導入の方法1つで十分な効果を発揮できない可能性があります。
そうした背景があることから、デジタル環境やデジタル人材を用意できない企業や現場への導入がなかなか進まないという問題があります。
(3)個人情報保護に関する法令順守、及び住民理解の醸成が必要
3つ目の課題は、公共の場で使用するデジタルツインの場合、個人情報保護や周辺住民の理解が必要になる点です。実際にスマートシティのようなデジタル社会を創ろうとしても住民の理解を得られなければ構想を現実化できません。
説明の場を設けて根気強く説得していくことや、個人情報を保護するための法令を順守するためのセキュリティ環境づくりなどに努める必要があります。
【業界別】デジタルツインの活用事例
これまで概念的な話や、メリット・課題について説明してきましたが、実際の事例を知るほうが具体的なイメージがわきやすいでしょう。
ここでは製造・建築・航空・医療・農業など、業界別のデジタルツインの活用事例について紹介していきます。
(1)製造業の事例: デンソー
自動車部品を製造する株式会社デンソーでは、乗用車やバス、トラックなどの自社開発自動車をクラウドで繋げ、仮想空間上にデジタル都市を作り出し、そこで現実の交通社会を再現する技術を開発しています。
この技術を用いることで、あらかじめ仮想空間で交通シミュレーションを行うことができ、リアルタイムで現実世界と繋がりを持つことができます。
こうした技術を活用することで、新製品開発の際に交通量や人の数、電力量などの試算が仮想空間上でできるようになり、大幅なコスト削減にも寄与しています。
(2)建設業の事例: 鹿島建設
大手総合建設会社である鹿島建設株式会社では、「3D K-Field」という建設現場で使うデジタルツインを開発しています。
建設現場の資材の位置や稼働状況、人の位置やバイタル情報などをリアルタイムに把握できるシステムで、これを使うことにより遠隔から現場全体の管理が行えます。
施工が安全に滞りなく進んでいるか、事故や問題が起きていないか、という点についてわかる上に、もし問題が発生した場合はどのような状況で要因はなにかという細部まで即座に判明するため、現場の安全性向上に努めることができます。
(3)航空業界の事例: ゼネラル・エレクトリック
世界最大の総合電機メーカーであるゼネラル・エレクトリック(GE)は、デジタルツインの導入により、ビジネスに大きな影響を与える事実を発見しました。
もともと同社では、航空ジェットエンジンのメンテナンスを24〜36ヵ月ごとに行っていました。しかし、デジタルツインの活用により、実際は38ヵ月経過するまでメンテナンスの必要がないということが分かりました。
これにより、メンテナンスに割いていた時間や人材・コストをカットすることができ、その分別の作業に割り当てることができるようになりました。
(4)医療業界の事例: NTT
NTTでは、大きく5つの目的のためにバイオデジタルツインの研究・開発を進めています。
①臓器機能のデジタル写像化
②心電、心音、血糖値などの生体情報の適時測定
③心身の様々なデータに基づいた複眼視的な予測シミュレーション
④体内の超ミクロ領域での診断・治療
⑤介護や障がい者支援
こうした医療分野での活用が進めば、これまで「やってみないと分からなかった」ことや「原因不明」だったことを透明化できるようになり、手術における高度なシミュレーションや投薬による変化、患者の将来予測の把握などが実現できるようになります。
(5)農業分野の事例: Happy Qualityとフィトメトリクス
株式会社Happy Quality(ハッピークオリティー)と株式会社フィトメトリクスの2社が合同で農業用デジタルツインの開発に成功しています。
この開発により現実世界の農作物やハウス設備・環境データを照らしあわせて仮想空間で農作物の分析やシミュレーションが可能になりました。農薬の配分や収穫量の予測などを行い、得られた結果を現実世界に反映していくことができます。
遠い場所にある農園であってもわざわざ訪ねる必要がないため、身体的な負担も軽減され、時間やコストカットにも繋がります。スマート農業を普及させる大きな要因の1つとなりました。
デジタルツインを構成する技術
デジタルツインを構成している技術は大きくわけて4つです。それぞれの技術について解説していきます。
(1)IoT: 現実世界のデータを収集する
IoT(Internet of Things)によって、インターネット空間からデータを収集することができるようになります。
デジタルツインで仮想空間を作り出すためには、元となるデータの収集が必要不可欠です。IoTにより、リアルタイムでモノ・ヒト・コトの情報をデジタル化させることで、デジタルツインの仮想世界を生み出します。
(2)5G: リアルタイムにデータを反映させる
IoTで取得したデータは、リアルタイムで仮想空間に反映させる必要があります。そこで5Gの通信システムがカギとなります。
すでにスマートフォンなどにも導入されている5Gですが、これまで以上に大容量のデータを高速で処理することが可能になります。
高速通信・低遅延・多数同時接続が可能となる5Gの技術なくしては、デジタルツインのリアルタイム性は実現できないと言えるでしょう。
(3)AI: 大量のデータを分析し最適化する
集めたデータをリアルタイムで仮想空間に反映した後は、分析作業を行っていきます。そこではAI(人工知能)の活用によってビックデータをもとに、最適解を導き出します。
データ量が多ければ多いほど正確な答えに近づきやすくなるため、最先端テクノロジーの活用が必要不可欠となります。
(4)AR/VR: 分析結果を現実世界にフィードバックする
最後に、導き出した回答を現実世界へと活かしていく工程で、AR(拡張現実)とVR(仮想現実)の技術が必要になります。ARとVRは、データを現実世界に反映すると、どのような効果をもたらすかをユーザーに示してくれる表現方法の1つです。
VRで空間そのものを体感することもできれば、ARでシミュレートした仮想空間と現実空間を融合させることもできます。どちらも分析されたデータが現実へとフィードバックされるときに用いられます。
デジタルツインが実現するスマートシティとは?
デジタルツインの技術を応用していくことでスマートシティ「3D都市モデル」という仮想世界の実現が可能になります。
それは、商業利用だけではなく一般消費者の生活にも直結してきます。交通や災害予測が可能な社会の実現に近づく大きな取り組みとなります。
(1)スマートシティにおけるデジタルツインとは?
都市のあらゆるスポットにセンサーを取り付けることでデジタルツインの活用が可能となり、現実世界とまったく同じデジタル空間を都市スケールで作り出すことができます。
既にシンガポールでは「バーチャルシンガポール構想」というプロジェクトが2014年から始動しています。国全土に存在する建物・施設・道路、天候などの情報を取り込み、3D都市モデルを完成させる取り組みです。
それにより交通情報をいち早く予測できたり、設備故障を予見できたりするなど、人々の利便性の向上も期待できます。
(2)都市のデジタルツインを実現するための要素
スマートシティの実現に向けて必要な要素は3つあります。
#1: リアルタイムデータ
1つ目は、リアルタイムデータです。現実空間にセットされたセンサーにより得られる動的データと静的データの両方を用いる必要があります。
#2: 時系列データ
2つ目は、時系列データです。取得した膨大な情報を時系列に並べて整理するためのもので、これによりどの順番で何が発生するのか、正確な予想を立てることができます。
#3: 仮想条件
3つ目は、仮想条件です。これはリアルな世界ではもたらされていない、「例えば」の条件を自由にインプットした時のシミュレーションです。リアルタイムデータと、時系列データ、仮想条件を揃えて、都市のデジタルツインが実現されます。
(3)都市におけるデジタルツインがもたらす価値
都市におけるデジタルツインは、人々の生活に大きな価値をもたらします。
例えば、渋滞の緩和などの交通整理はもちろん、正確な天候・災害予測が可能になったり、設備の故障を先回りしてメンテナンスできたり、遠隔から事故現場の様子を即座に把握することができたりします。
デジタルツインを使った情報収集・分析・フィードバックの繰り返しが、都市での暮らしを豊かなものに変えてくれると期待されています。
デジタルツインとシミュレーションの違いを理解して活用する
これからますます技術が発展していく中で、日本のスマートシティの実現や世界各国のデジタルツインを使った動きも増えていくでしょう。
またビジネスシーンにおいても、製造現場をはじめとして、デジタルツインの導入によって業務効率化・コスト削減・顧客満足度向上などがさらに進んでいくものと思われます。
デジタルツインの活用事例も参考にしながら、まずはシミュレーションとデジタルツインの違いを理解し、自社のビジネスにどう生かせるのか検討してみると良いでしょう。
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