経費精算は領収書なしでも可能?領収書がない場合の具体的な対処法
経費精算の際には、基本的には領収書が必要です。しかし、ありとあらゆる経費の中には、そもそも領収書が発行されないケースもあるでしょう。この記事では、そんな時に役立つ、領収書なしで経費精算する方法と注意点を解説しています。
目次
経費精算において領収書を原則保存すべきとする理由
経費精算は領収書なしでも可能ですが、その前に、なぜ領収書は税法上原則として保存すべきものと定められているのか、その主な理由について確認していきましょう。
(1)信憑性の高い出金記録になる
経費とは、企業が事業活動を行う上で必要となるコストのことです。企業に課せられる法人税などの税金は、売り上げから経費を差し引いた「事業所得」から算出されます。そのため、不正な経費の計上は、場合によっては、「脱税」と見なされることがあるのです。
以上のことから、経費の取り扱いについては、税法上にその定めがあるなど、厳格な処理が求められ、事業活動に必要であると認められるもののみが経費として計上できる仕組みになっています。
企業には、その費用が「経費として適正であること」を書類とともに証明する義務があり、領収書は、会社の費用を経費として使ったという信憑性の高い出金記録になるのです。
(2)税務調査にも問題なく対応できる
税務調査とは、納税対象者が、正しく税務申告をしているかどうかを、国税庁の管轄である税務署などが調査することです。税務調査では、不適切なものが経費として計上されていないか、本当に取引が行われたかなどを調査するため、経費についての詳細説明や証明を求められることも少なくありません。
領収書は、経費の使い道や取引の事実を説明・証明する際に証拠力の高い書類になります。そのため、領収書を保存しておけば、このような税務調査にも問題なく対応ができるのです。
(3)仕入税額控除が受けられなくなる
仕入税額控除とは、消費税の課税売上から、仕入れにかかった消費税を差し引いて消費税の納税額を算出することです。消費税法では、この仕入額控除を受けるために請求書や領収書などの保存が義務付けられています(消費税法第30条)。そのため、領収書なしでは仕入の費用として認められません。
現行の制度(2022年2月時点)では、税込みの支払額が3万円未満の場合には、領収書がなくても帳簿があれば仕入額控除が受けられます。
しかし、インボイス制度が施行される2023年10月以降は3万円未満であっても、一部を除き、原則として領収書がないと仕入税額控除がされないので注意が必要です。
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経費精算の際に領収書がないパターンと対処法とは?
経費精算に領収書が添付できない理由としては、領収書の紛失や、そもそも領収書が発行されないパターンが考えられます。このような場合、経費精算はどのように対応すれば良いのでしょうか。
(1)領収書を紛失してしまった
領収書を紛失してしまった場合は、次の方法で経費精算の対応が可能です。
領収書の代わりになる書類を提出
領収書の代わりになる書類とは、実際に支払があったことを証明できるものをさします。具体的には、クレジットカードの利用明細や電子マネーの支払履歴、交通系ICカードの利用履歴、ETC利用料金の明細、ATMの振込明細、取引で交わされた請求書、納品書、受発注のメールなどです。
出金伝票を起票する
出金伝票は、会社から現金が支払われた取引の内容を記録するための書類です。出金伝票には、以下の項目を記載します。
- 支払日:〇年〇月〇日
- 支払先:自動販売機または支払者氏名
- 支払金額:〇〇円(〇円×〇本)
- 支払目的や内容:〇〇(会社名)へ差し入れ(自動販売機で購入のため領収書なし)
多くの場合、社内にフォーマットがあるはずですので、それらを利用してもいいですし、市販の伝票を使っても問題ありません。
ただし、出金伝票だけでは支払いの証拠書類とは認められない可能性がある点には注意が必要です。実際に、訪問したことが分かる資料なども併せて保存しておくようにしましょう。
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(2)領収書をもらえない場合
そもそも領収書をもらえない場合の対応について見ていきましょう。
#1: 自動販売機を利用した時
例えば、自動販売機で現金を使ってジュースを買い、取引先に差し入れをした。というケースでは、領収証が発行されません。この場合にも出金伝票を起票します。
ただし、先にお伝えしたとおり、出金伝票だけでなく、交通履歴やメールのやり取りなど、訪問したことが分かる証拠も併せて準備しておくようにしてください。
#2: 公共交通機関の交通費
鉄道やバスなどの公共交通機関を利用した交通費精算の場合、領収書は提出せずに、会社が定めた交通費精算書などで精算するケースが多いのではないでしょうか。
この場合は、交通費精算書が出金伝票にあたるため、利用日付や利用者氏名、支払金額、利用した交通機関と区間、目的地、訪問目的などの項目が、記載されていなければなりません。
経費精算のルール上、必要であれば、移動ルートや運賃を指定のソフトやインターネットで調べて添付します。
#3: 取引先への祝儀・香典
取引先への祝儀や香典は、基本的に領収書がもらえません。会社が定めた慶弔費精算書があれば、そのフォーマットに必要事項を記入して提出します。指定の書類がない場合は、出金伝票を記入しましょう。
慶弔関係の行事への出金は、出金伝票以外にも招待状や案内状、メール、FAXなど、複数の証憑書類を保存しておくようにしてください。
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経費精算は領収書なしで可能!領収書の代わりとなる書類とは?
場合によっては、領収書なしでも経費精算ができることをお伝えしました。続いてここでは、領収書がない場合、領収書の代用として認められる書類について、具体的な例を詳しくご説明します。
(1)”領収書”でなくても取引を証明できる書類であればOK
一般的には、領収書がなければ経費精算できないと思われていますが、領収書と同様の記載事項があり、かつ適切な証拠力のある書類であれば、必ずしも領収書である必要はありません。
つまり、領収書以外の書類を、代替の証憑として経費精算することが可能なのです。
(2)支払いの証拠書類を代替品として利用する
では具体的に、経費精算の際に領収書の代替として利用可能な書類を見てみましょう。
#1: クレジットカードの利用明細
カード会社が発行するクレジットカードの利用明細は、領収書として代用可能です。とはいえ、明細書に必要な事項が記載されていることが前提の条件となります。
なかには、サービス内容や支払い内容が書かれていない明細書もあるため、その場合は、購入時のレシートなど、補足となる書類も併せて保管しておくようにすると安心です。
また、個人所有のクレジットカードの場合は、業務と関係のない支払明細を塗りつぶしておくと経理担当者が確認しやすいでしょう。
ETCカード付きのクレジットカードを利用しているケースも多く見受けられますが、このETCカードの利用履歴も、領収書の代用として使用することができます。
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#2: 交通系ICカードや電子マネーの利用履歴
公共交通機関のICカードや電子マネーの利用履歴は、多くの場合、印刷や電子ファイル化することが可能であり、領収書の代替資料になります。
ただし、さかのぼれる期間や件数が決まっていることもあるため、これらを証憑書類とする場合は、出力が可能な期間について注意するようにしてください。
#3: 請求書等
請求書や納品書、受発注のFAXやメールも領収書の代替書類になります。ただし、ここでも支払いの明細が書かれているかの確認は必要です。オンラインで決済した場合には、決済画面のキャプチャーをプリントアウトするなどしておきましょう。
#4: レシート
現金決済やプリペイド式のキャッシュレス決済を行った際の、支払日や支払先、支払金額、支払明細がすべて印字されたレシートは、領収書の代替として使用できます。
ここで1点注意したいのが、クレジットカード決済を行った際に発行されるレシートについてです。
通常、クレジットカードで決済をすると、「レシート」のほか、「クレジット売上票(買上票)」などと書かれた2つの書類が、店舗側より発行されますが、この際に発行されるレシートは、領収書として認められていません。これは、クレジットカード決済が、のちにカード会社より代金が支払われることを前提にした信用取引であり、実際、決済時には代金が支払われていない状態であることが理由です。
ややこしいですが、クレジットカード決済であっても、別途店舗に依頼して発行してもらう「領収書」であれば、認められます。ただし、クレジットカード払いの際の領収書の発行は、上記の、決済時には支払いが済んでいないことの理由により、店舗側(販売側)に発行の義務がないことも、覚えておくといいでしょう。
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#5: 振込明細書
銀行振込での取引の場合は、振込金受取書(振込明細書)が領収書の代替書類として使用できます。預金口座からの振込の場合は、預金通帳の記録でも代用が認められているため、毎月振り込みが発生する取引先やサービスなどは、このような書類で対応すると良いでしょう。
#6: 出金伝票
ここまでに挙げたどの書類も用意できない場合には、先にお伝えしたとおり、出金伝票を起票します。記入の際は、宛名が「上様」だったり、但し書きが「お品代として」だったりなど、支払先や取引内容が不明確にならないよう注意が必要です。
また、出金伝票による支出の証明の場合、伝票の他にも支払いを証明する複数の証憑が求められるケースがあることを覚えてきましょう。
(3)再発行は原則不可
原則として領収書の再発行はできません。代金を受け取った側は、支払い側が求めた場合、領収書を発行する義務があります。しかし、領収書の再発行は義務ではありません。
発行側は、再発行をした領収書を不正利用されると、共犯として疑われる可能性があるので、再発行に応じてくれないこともあります。
領収書なしで経費精算する場合の注意点
領収書なしでも経費精算は可能であるとお伝えしてきました。しかし、領収書なしの経費精算には、次のような注意点があります。
(1)税務調査で悪印象になる
領収書がない経費が多いと、税務調査で印象が悪くなるので注意が必要です。領収書の紛失の可能性やもともと発行されないケースがあることは、調査する側も一定の理解を示してくれるはずです。しかし、あまりにその頻度や金額が多いと、経費の不正利用や水増しを疑われる原因になります。
原則として領収書の保存が必要であることを忘れないようにしてください。
(2)仕入額控除の金額が変わってしまう
領収書がないと、仕入税額控除の金額が変わってしまう可能性があります。仕入額控除を受けるためには、請求書や領収書など”原始記録の保存”をしておかなくてはなりません。
仕入額控除は会社の利益にかかわるものです。利益を損なわないためにも、仕入れに関わる領収書は適切に管理しておきましょう。
(3)領収書の再発行は不正使用を疑われるリスクがある
領収書の再発行は、不正使用を疑われるリスクがあります。再発行した領収書は、経費の二重計上や架空計上に悪用できてしまうためです。このような疑いを持たれないためにも、再発行を依頼する側と依頼される側の双方において慎重な対応が求められます。
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領収書の紛失が多い場合は経費精算システムを導入すべき
領収書の紛失が多い場合は、経費精算システムの導入がおすすめです。ここでは、経費精算システムを導入する主なメリットを5つ紹介します。
(1)領収書データを電子化して紛失リスクを下げる
経費精算システムを導入すれば、領収書を電子データ化できるため紛失のリスクが下げられます。システムによっては、領収書をスマホのカメラで撮影するだけで情報を自動で読み取り、入力してくれる機能もあるため、経費精算を申請する側にとっても、利便性が向上するでしょう。
また、電子帳簿保存法に対応しているシステムも多いので、書類のファイリングや保存場所の確保といった作業からも解放されます。
▷経費精算の領収書は電子化で効率化!方法やメリット・注意点を解説
(2)アプリ対応しているものも多く外部からでも申請できる
パソコンだけでなく、スマホのアプリに対応している経費精算システムも多くあります。
そのため、外出先や出張先からでも利用可能です。領収書が発行された際にすぐデータ化して申請できるので、経費の発生から精算までのタイムラグが解消でき、領収書の紛失リスクも軽減します。
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(3)クレジットカードやICカード明細を自動で取り込める
経費精算システムとクレジットカードやICカードを連携すれば、明細や利用履歴を自動で取り込めるようになります。従来の方法では、交通費の精算の際に乗降駅や利用経路、金額などの細かい情報の記入が必要でした。
しかし、交通系ICカードの明細を自動で取り込めば、交通費の精算に関する作業が大幅に削減可能です。さらに、水増しや架空申請などの防止にも役立ちます。
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(4)会計システムとの連携で経理処理が楽になる
経費精算システムには、申請した経費を自動的に仕訳する機能もあり、会計システムと連携すれば、仕訳データをそのまま移行できます。これにより、経理担当者にとって大きな負担であった、経費の集計や仕訳、会計システムへの再入力が大幅に削減されるのです。
また、経費精算に関するミスや不正の防止にもなるため、イレギュラーな事態への対応業務も少なくなります。経理処理が楽になり、効率化が図れるでしょう。
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(5)出金伝票作成などの作業を減らせる
領収書を紛失したときや領収書が発行されない交通費の経費精算を行うときには、出金伝票の作成が必要でした。経費精算システムは、領収書を電子データで管理できるため、領収書の紛失リスクを軽減できます。
また、交通系ICカードと連携すれば、料金や利用履歴が自動で入力されます。そのため、出金伝票を作成する作業が大幅に削減されるのです。
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領収書なしの経費精算は例外的措置として考えるべき
お伝えしてきたように、領収書なしでも経費精算は可能です。そのため、領収書の紛失や領収書を発行してもらえない場合には、代替書類を利用して適切な経費精算を行ってください。
ただし、領収書が経費精算にもっともふさわしい書類であるという認識は必要です。原則として領収書は適切に保管し、領収書なしの経費精算は例外的な措置として考えるようにしましょう。
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