請求書発行で仕訳は必要なのか?簿記上の考え方や注意ポイントを解説
請求書を発行したら即座に仕訳が発生するわけではありません。簿記上では、売掛金が発生した場合に仕訳が必要です。この記事では請求書の仕訳の概要と簿記上の扱い、売掛金の概要と請求書発行から仕訳のフロー・注意点、効率的に管理する方法や便利なシステムを紹介します。
目次
請求書の仕訳の概要と簿記上の扱い
請求書の仕訳(しわけ)は、商品やサービスの受渡時および入金時に発生する経理処理のことを指します。そもそも仕訳とは、簿記用語のひとつであり、会社の資産が増減した取引を勘定科目ごとに分類し、帳簿に記録していく経理作業のことです。
(1)入金前に自社商品・サービスを提供した場合に仕訳が必要
多くの企業が採用している発生主義の会計方法では、請求書発行日や入金前であっても、自社商品およびサービスを提供した時点で仕訳が必要です。
仕訳の目的は、会社の資産の増加および減少を記録して把握し、代金回収や支払い漏れを防いで会社を存続させるためといわれています。
請求書を発行しただけでは会社の資産に変動はないので、商品やサービスの提供時または入金時に仕分け作業が発生するのです。
(2)簿記上では「借方:売掛金」「貸方:売上」と表記する
他社に自社商品またはサービスを提供した場合、請求書の仕訳ではどの勘定科目か分類するだけです。
一方簿記上では、帳簿や仕訳帳の左側に「借方:売掛金」、右側に「貸方:売上」と表記し、金額や摘要などをあわせて記入します。
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請求書の仕訳に必要な知識売掛金とは
企業間取引で多く発行される請求書の仕訳において、知っておきたいのは売掛金がどのようなものかということです。
売掛金とは、取引する際に自社商品やサービスを提供する対価として現金ではなく、あとで代金を受け取る債権を選択することであり請求書払いが該当します。
ここでは、売掛金と混同してしまいがちな「買掛金」および「未収金」と、「時効期間」について解説します。
(1)買掛金との違い
買掛金とは、企業間取引において仕入れ時に対価として現金ではなく、あとで代金を支払う債務を選択することであり、請求書払いが該当します。売掛金は商品を売った企業、買掛金は商品を買った企業の勘定科目と覚えておくとわかりやすいでしょう。
買掛金および売上金は手形のような証書が発行されるわけではなく、企業間の信用で成り立っていますが、発注書や注文メールで取引履歴を残しておく企業がほとんどです。
(2)未収金との違い
未収金とは、売掛金同様提供した商品やサービスの対価を取引時ではなく、あとで回収するときに分類される勘定科目です。
売掛金は、企業の営業活動により発生するのに対し未収金は、企業の営業活動以外で発生する債権を指します。例えば、土地や建物といった企業にもともとあった資産を売却する際に生じる掛取引です。
(3)売掛金の時効期間
売掛金は債権に分類されるため、回収せずにそのままにしておくと民法166条により消滅時効を迎えてしまいます。消滅時効は、提供した商品やサービスの種類によって期間が異なり、以前は以下のように定められていました。
- 1年:運送費・飲食費等
- 2年:製造業・小売業・卸業の売掛金等
- 3年:建築費・工事費等
- 5年:上記以外の売掛金
ただし、2020年4月1日の改正債権法の施行により、消滅時効は原則5年に変更となりました。
今回の改正では,消滅時効期間について,より合理的で分かりやすいものとするため,職業別の短期消滅時効の特例を廃止するとともに,消滅時効期間を原則として5年とするなどしています。
[引用:法務省「民法(債権法)改正」より]
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請求書発行から仕訳作業までの流れ
ここでは、請求書発行から仕訳作業までの流れを経理初心者の人でも紹介。
A社から100万円分の商品注文を受けた(※支払い方法は請求書払い)場合のケースに当てはめて解説していきます。
(1)請求書の作成
A社から注文を受けた商品の在庫を確認し、発送手続きと同時に請求書を作成します。請求書には以下の項目を記入します。
- 請求書発行元の氏名または名称
- 取引先の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容
- 税込金額
- 支払期日
- 問い合わせ先(住所・担当者名・電話番号)
他にも取引が複数ある場合はまとめて請求書を送付しますが、単発の場合は商品発送と同時に請求書を先方へ発送します。
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(2)帳簿に売上の仕訳を売掛金で記載する
A社に商品を発送したら帳簿に請求書の仕訳を以下のように記載します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
売掛金 | 100万円 | 売上高 | 100万円 |
使用している会計システムに摘要欄やコメント機能があれば、いつだれと取引があったのか記載しておきましょう。
(3)先方からの入金管理を行う
請求書に記載した支払期日に先方から指定口座へ入金されているか確認します。入金が確認できたら領収書を発行し、先方に送付しましょう。
また、一定金額を超えた取引は領収書に収入印紙の貼付が義務付けられているので、貼り忘れに注意しましょう。収入印紙の金額は商品やサービスによって異なるため、国税庁のサイトを参考にしてください。
万が一、入金確認ができない場合は、速やかに先方に連絡し入金を催促します。
(4)入金確認後に売掛金が入金された旨を帳簿に記載する
入金が確認できたら、売掛金が入金された旨を以下のように帳簿へ記載します。また、どの取引先からどの取引に対して入金されたのか後から見返せるように、摘要やコメント機能を使って記録を残しておきましょう。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
普通預金 | 100万円 | 売掛金 | 100万円 |
(5)帳簿と口座で売掛金残高をつけ合わせる
売掛金が入金された旨を帳簿に記載したら、実際の売掛金残高と帳簿上の売掛金残高が一致しているかチェックします。問題がなければ、今回行った取引の経理処理は終了となります。
実際の売掛金残高と帳簿上の売掛金残高に差異がある場合、帳簿の入力ミスまたは、入金された金額が足りない可能性があるので、確認後に帳簿の修正や先方への連絡を行いましょう。
また、入金時の振込手数料が相殺されている場合は、不足金額分を支払手数料として処理する必要があります。
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請求書の仕訳を行うときの注意点
請求書の仕訳作業にミスが出ると帳簿へも影響するため、できるだけミスをしないように注意する必要があります。ここでは、請求書の仕訳の際に注意したいポイントを4つご紹介します。
- 摘要に請求発生月を明記する
- 売掛金の管理を厳密に行う
- 帳簿は必ず作業者・確認者に分ける
- 売掛金の金額が合わない場合は必ず先方確認を行う
(1)摘要に請求発生月を明記する
帳簿の摘要欄に請求発生月や取引先等詳細情報を明記しましょう。勘定科目や金額を入力するだけでは、同額の請求が発生した場合にどこを消し込めば良いかわからなくなります。
また、何らかの理由により一度帳簿に記載した金額から変更する場合は、修正仕訳の作業が必要になります。具体的には、間違えた仕訳と反対の「逆仕訳」を行った上で、正しい仕訳を行う作業です。
(2)売掛金の管理を厳密に行う
先に説明した通り、売掛金には時効期間が定められているので、回収できなければ残高が消えないだけではなく企業の成長の妨げとなります。
売掛金は支払期日を設け入金管理し、締め日までに回収できていない場合は、営業担当と連携して取引先に催促するなど、イレギュラー時のフローをあらかじめ決めておきましょう。
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(3)帳簿は必ず作業者・確認者に分ける
帳簿への計上作業において、入力ミスが発生しやすいという課題があるため、必ず作業者と確認者に分けて対応しましょう。
同じ人物が作業と確認を担当した場合、入力ミスに気がつかないケースや同じミスを繰り返すケースも想定されるため、ダブルチェックがおすすめです。
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(4)売掛金の金額が合わない場合は必ず先方確認を行う
売掛金の金額が帳簿と合わない場合は、入力ミスだけではなく入金間違いもあり得るため必ず先方に確認しましょう。
先方の入金漏れや金額ミスの場合、迅速に連絡し対応してもらわないと計上にズレが生じ、その後の修正対応に余計な工数が発生する可能性もあります。後回しせずに迅速に対応する必要があります。
また、営業と先方の間で金額変更が発生し、その旨を経理に伝えていない可能性も考えられるので、現場の担当者にも確認が必要です。
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請求書の仕訳が難しい!ミスが多い場合の対処法
請求書の仕訳には、勘定項目の種類とある程度の簿記の知識を理解していないとミスが増える可能性があります。ここでは、仕訳が得意ではなく、ミスが多い人のために対処法を2つ紹介します。
- エクセルで自動計算する
- 請求書発行システムを導入する
(1)エクセルで自動計算する
請求書の仕訳をエクセルで自動計算する方法は、エクセルが搭載されているPCを持っていれば新たなコストは発生しないのですぐに取り組めるところが魅力です。
しかし、エクセルで自動計算するには、データ抽出用のシートを用意して関数をいくつも組み合わせた高度な数式を使う必要があるため、エクセルに詳しい人でも作成までに膨大な時間がかかります。また、数式が複雑になり抽出用データが大きくなるほどエクセルの動作が遅くなり、作業に支障が出ることもあるのです。
したがって、事業規模が小さくエクセルに詳しい人材がいる場合に限定されるでしょう。
(2)請求書発行システムを導入する
請求書発行システムの導入により、発行から管理まで一元管理でき自動的に仕訳作業までしてくれるので、業務工数が少なくなり経理の負担を軽減できます。
また、会計システムに連携しているシステムであれば、仕訳データを抽出する必要がなく帳簿管理まで一括して行えるところがメリットです。
電子帳簿保存法やインボイス制度に対応したシステムも多く提供されているため、法改正があってもスムーズに移行できます。
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請求書の仕訳や売掛回収を楽にする請求書発行システム
ここでは、請求書の仕訳や売掛回収といった、経理業務で負担となっていた作業を大幅に削減できる請求書発行システムを5つご紹介します。
(1)CLOUDSIGN
CLOUDSIGNは、請求書だけではなくさまざまな書類に対応しており、すべての書類作成から管理までを一元管理できるクラウド型電子契約サービスです。
弁護士による法律監修のもと作られたサービスであるため、電子署名法にも対応しており、契約締結もクラウド上で完結します。
提供元 | 弁護士ドットコム株式会社 |
---|---|
初期費用 | 要問い合わせ |
料金プラン |
■送信費用
書類保管費:11,000円(税込)/月 ※10,000書類を超えた場合、10,000書類毎に発生 その他オプション:要問い合わせ |
導入実績 | 130万社以上 |
機能・特徴 | 書類作成・書類送信・電子署名・テンプレート・英語対応・中国語対応・チーム管理・AI契約書管理機能・紙書類インポート・監査ログ外部サービス連携等 |
URL | 公式サイト |
(2)楽楽明細
楽楽明細は、株式会社ラクスが提供する2年連続シェアNo.1(同社HPより)の電子請求書発行に特化したサービスであり、発行から保管まで一元管理できます。
また、請求書の郵送にも対応しているため、紙の請求書を希望する取引先は設定ひとつで印刷から発送まで代行してくれるところも魅力です。
提供元 | 株式会社ラクス |
---|---|
初期費用 | 11万円(税込)〜 ※詳細は要問い合わせ |
料金プラン | 27,500円(税込)/月〜 ※詳細は要問い合わせ |
導入実績 | 4,000社以上 |
機能・特徴 | 個別ファイル送信・一括同封機能・API連携・帳票レイアウト・即時発行・予約発行・電子帳簿方対応・インボイス制度対応・ダウンロードURL発行・郵送対応・承認フローステータス管理等 |
URL | 公式サイト |
(3)Misoca
Misocaは、弥生シリーズでおなじみの弥生株式会社が提供するクラウド請求書作成ソフトです。1つの書類を作成すると請求書や納品書といったさまざまな書類に変換できるので、書類作成の手間がさらに削減できます。
提供元 | 弥生株式会社 |
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初期費用 | 無料 |
料金プラン | ■基本料金(年額)
■基本料金(月額)
|
導入実績 | シリーズ累計登録ユーザー数280万人以上(※2022年9月現在) |
機能・特徴 | テンプレート・ロゴ挿入・印影挿入・請求書自動予約・取引先登録・CSVインポート・郵送・売上レポート・ステータス管理・受注管理・回収保証・会計ソフト連携等 |
URL | 公式サイト |
(4)freee会計
freee会計は、簿記や経理の知識がなくても安心して利用できるところが売りのクラウド型会計ソフトです。項目一つひとつにガイドが表示され、毎月の経理処理データを元にワンクリックで決算書の作成ができます。
提供元 | freee株式会社 |
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初期費用 |
|
料金プラン | 【年額プラン】 ■ミニマム
■ベーシック
■おまかせパック
【月額プラン】
|
導入実績 | 33万社以上(freee会計有料課金ユーザー数) ※2021年12月末時点 |
機能・特徴 | 書類作成・入金管理・経費精算・電子帳簿法対応・経営レポート作成・資金管理・権限管理・各種サポート等 |
URL | 公式サイト |
(5)マネーフォワード クラウド請求書
マネーフォワード クラウド請求書は、株式会社マネーフォワードが提供する小規模事業者から中堅・上場企業まで対応しているクラウド型請求書発行サービスです。
同シリーズのクラウド会計システムと連携すると、請求書情報を自動で反映するため、経理業務の課題としてあげられている入力ミスを防げます。
提供元 | 株式会社マネーフォワード |
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初期費用 | 要問い合わせ |
料金プラン | 【個人向け】 ■パーソナルミニ
■パーソナル
■パーソナルプラス
【法人向け】 ■スモールビジネス
■ビジネス
■IPO準備・中堅〜上場企業向け:要問い合わせ |
機能・特徴 | 各種帳票対応・定期発行・ロゴ登録・印影登録・PDF対応・書類変換対応・取引先自動入力・郵送代行・CSV一括作成・書類管理・レポート・ステータス管理・作業履歴等 |
URL | 公式サイト |
仕訳を正しく理解し請求書管理を行いましょう!
請求書の仕訳は、帳簿作成にとって非常に重要な作業であるため、正しく理解して請求書を管理していきましょう。売掛金には時効期間があるため、実際の売掛金と帳簿上の売掛金データが異なる場合は、迅速に対応する必要があります。
また、請求書管理自体は単純な作業ではあるものの、企業規模が大きくなればなるほど件数が増え経理担当者の負担が増えミスに繋がります。
請求書発行システムを導入すれば、発行から管理まで一元管理でき大幅な業務効率化が見込めるため、ぜひ活用を検討してみましょう。
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