請求書を発行するのは義務なのか?発行の目的や記載すべき必須項目
請求書の発行は実は法律上で定められた義務ではなく、日本での取引で慣例として行われてきたものです。なぜ義務ではないのに発行するのか、その理由や請求書発行において外せない記載項目、インボイス制度での追加項目や支払い明細書の発行は必要かを解説します。
目次
請求書の発行は法律で義務付けられていない
サービスや製品の請求に合わせて発行することが一般的と考えられている請求書ですが、実は法律による強制力はありません。
ではなぜ請求書の発行が一般的であり、現在も多くの企業が請求書を発行しているのでしょうか。
(1)日本の商業の習慣・慣例で発行するのが一般的
法律による発行義務がない請求書ですが、商品やサービスの納品をする際には発行されることが一般的です。
法律による定めこそないものの、締め日や支払い日を「月末締め、翌月払い」と決めている企業が多く、取引先との関係性を維持する目的も込めて、請求書を発行することが商業の慣習、慣行となっています。
(2)取引先とのトラブル防止・帳簿管理のためにも発行推奨
慣行となり発行されることが当たり前となっている請求書ですが、取引先とのトラブルを防止するという役割を担っています。
商取引において起こりがちな、「言った・聞いてない」「支払った・受け取ってない」といったトラブルを防ぐための書類として、請求書が活用されています。
また、取引先による支払い漏れを防ぐことも、法的強制力のない請求書が今もなお利用され続けている理由の1つです。
請求書を発行する目的
ここからは、請求書を発行する目的について解説していきます。
「自社が提供したサービスへの対価の回収」、「取引を行ったことの証左」、「取引についての齟齬をなくすこと」が請求書発行を発行する主な目的です。
(1)自社が提供したサービス・業務の対価を回収するため
請求書は自社が提供したサービスと対価の関係を証明、回収する書類として用いられます。請求書を発行することで、取引先企業が支払うべき金額を明示するだけでなく、内訳を明記し、サービスや業務ごとの単価を伝えることができます。
また、回収日時を明記することで、サービスや業務の対価を確実に回収することも請求書を発行する目的です。
(2)取引が合ったことの証左となる
請求書は取引が行われたことの証左にも活用されています。上記のように請求金額の内訳を明記するだけなく、取引先と会社側の双方に請求に至る取引があった証明書としての役割も果たしています。
発行には法的義務はありませんが、請求書があることで取引があったことの証となり、税務署調査といった第三者への証明にも利用可能です。
(3)取引についての齟齬をなくすため
取引についての齟齬をなくすことも、請求書を発行する目的の1つです。
契約書によって取引先と会社側の双方が合意していることは確認できますが、その後の実作業で変更が生じることも珍しくなく、請求書が取引についての齟齬をなくす最終工程となります。
請求書を取引先に送り、発行した企業の認識を伝えることも請求書を発行する目的の1つです。
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請求書に必ず記載すべき5つの必須項目
ここからは、請求書に記載すべき項目を紹介していきます。法的強制力がなく、記載しなければならない項目に関する取り決めもありません。
ただし、税務の観点から見ると、特に消費税の仕入税額控除を受けるためには請求書を発行・保管しておく必要があります。
このとき、
- 取引・サービス提供が行われた日付
- 相手方の社名・担当者名
- 取引の内容・サービスの名称(軽減税率の対象品目である旨)
- 請求金額(税率ごとに区分して合計した税込対価の額)
- 支払いを受ける自社名・担当名
の5項目については、記載しておく必要があります。
(1)取引・サービス提供が行われた日付
明記しておくべき項目の1つ目が、取引・サービス提供が行われた日付です。その名の通り、請求書を発行する日を指し、納品日以降の日付が明記されていれば問題ありません。
ただし、取引先の都合によって変わるケースがある点には注意が必要です。特に会計締め日の取り決めによって、経費の計上月が変わることもあるため、事前に先方への確認作業を行うことが一般的です。
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(2)相手方の社名・担当者名
請求書の書式には法的な決まりはありませんが、書類の左上に社名と担当者名を記載するのが一般的です。
書類の左上に社名と担当者名を明記することで、封筒の窓から見える形になり、送り先の住所を付け加えることでラベル貼りなどの作業を省略できます。
社名や住所については省略されることもあり、取引先の規模や部署数などによって使い分けられることも少なくありません。
(3)取引の内容・サービスの名称
請求書には取引をした品名、単価、数量、金額と名称も明記されます。その名の通り取引先に費用を請求する請求書ですが、取引ごとに発行する都度方式と、ひと月などの一定期間の取引をまとめる掛売方式の2つの方式があります。
取引ごとに発行する都度方式が一般的ですが、請求書発行の手間を削減できる掛売方式を採用している企業も少なくありません。取引内容やサービス内容に名称がなければ、一式といった表記でまとめてしまっても問題はありません。
また、消費税の仕入税額控除を受けるために請求書を発行・保管する場合には、軽減税率の対象品目である旨も記載する必要があるので覚えておきましょう。
(4)請求金額
請求金額については取引額をすべて合わせた小計と、消費税を足した合計金額を分けて記載することが慣習となっています。
小計と合計を分けることで、請求書を消費税の仕入税額控除を受けるための書類として活用できます。さらに取引先にとっても支払いの内訳がわかりやすい書類になるでしょう。
(5)支払いを受ける自社名・担当名
請求書の最下段に、支払いを受ける会社に関する情報を記載していきます。
相手方の企業情報と同じように、支払いを受ける会社情報についても企業ごとの取り決めが設けられています。取引を行っている長さや頻度に合わせて、銀行名、支店名、預金種別、口座番号、口座名義といった情報を明記するケースも少なくありません。
2023年度インボイス制度開始後の記載事項
2023年度のインボイス制度の導入により、請求書の記載事項が追加されることが決まっています。2022年12月現在は明記する必要はありませんが、経理処理が煩雑化することも視野に入れた将来的な運用を考え、今から準備しておくのも良いでしょう。
(1)事業者番号(課税事業者のみ)
2023年度のインボイス制度により、請求書への事業者番号の記載が必須となります。
事業者番号とは、「適格請求書発行事業者の登録申請書(国内事業者用)」の提出により取得できる番号であり、登録事業者の認定を受けた証として利用可能です。
法人番号を取得している企業であれば「T+法人番号」、それ以外の事業者は「T+13桁の固有番号」が付与されます。2021年10月1日〜2023年3月31日までに登録申請書を提出する必要があるため、事前に準備を進めておきましょう。
(2)適用税率
インボイス制度は記載義務を満たしている請求書に対して、適用される消費税を計算して納付しましょうという制度です。そのため、品目ごとに異なる、適用税率の記載が必須とされています。
食品や定期購読の新聞などには8%の軽減税率が適用されるため、税率の異なる取引を行う場合には、品目ごとに適用税率の記載が必要になるのです。
(3)税率ごとに消費税額を明記
品目によって適用税率が異なるため、税率ごとの消費税額の明記も必須となります。品目ごとに適用税率を記載し、適用税率ごとの小計額の記載、小計を合わせた合計額といった形式への変更が必要です。
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取引先から支払明細書の発行をしてもらうべきか
請求書と同様に、発行されることが一般化されている支払明細書ですが、「支払明細書は必須なのか」と感じている方も多いのではないでしょうか。ここからは発生した料金に対していつどこで支払いをしたかを確認できる、支払明細書の発行義務について解説していきます。
(1)請求書同様に発行義務はない
請求書と同様に、支払明細書についても発行義務はありません。
ただし、一定期間の取引をまとめる掛売方式を採用している企業の多くが、取引先に対して支払明細書の発行を慣習化しています。目的については次の項目で紹介しますが、請求書と同様に法的強制力はありません。
(2)取引内容への認識合致のために明細を発行してもらった方が良い
法的強制力のない支払明細書ですが、取引先に発行を依頼した方が無難であると考えられています。必要性についても請求書と同様ですが、確認不足によるトラブルを防ぐことが1番の目的です。
掛売方式での取引を行っている場合、請求書を取引期間や取引金額の確認に、明細書を請求された代金に対する支払い内容の確認に、それぞれ活用するというケースが一般的です。
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毎月の請求書発行を効率化する方法
最後に、請求書の発行業務を効率化する方法を紹介していきます。今回取り上げる、「エクセルの数式等を使って発行する」、「請求書発行システムを使う」といった方法で、業務の効率化を目指しましょう。
(1)エクセルの数式等を使って発行する
エクセル関数等を使って請求書のフォーマットを作っておけば、不要な事務処理の手間を省けます。営業担当が作成した見積書を反映する、作業内容と単価を登録して選ぶだけの書式を作っておくといった方法で、印刷するだけの状態にしておくことが可能です。
またPDF化する手間もかからず、電子化に対応していることもエクセルを用いるメリットの1つです。ただし、数式やマクロに関する知識が必要なため専門書で調べる、知識のある人に依頼するといった手間がかかる点には注意が必要です。
(2)請求書発行システムを使う
請求書発行システムの活用も、請求書に関する業務を効率化する手段の1つです。また、発行の手間を削減できるだけでなく、請求書の管理と法改正への対応を自動化できる点も請求書発行システムを利用するメリットです。
請求書発行に関する業務の属人化を防ぐことができるのも、業務効率化に向けた重要なポイントです。請求書発行システムを用いて必要な情報を確認し、誰もが請求書の発行、管理、電子化といった業務を担当できる体制を構築できます。
請求書発行システムの選び方に迷う方は、こちらの記事を参考にしてみてください。内部リンクを参照してください。
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取引の健全化のためにも正しく効率的な請求書発行を行いましょう!
法的強制力のない請求書ですが、取引の健全性を保つ書類として発行することが一般的であると考えられています。取引回数が増えるほどに経理処理が煩雑になり、請求書の発行が取引先との健全な関係構築に役立ちます。
今後はインボイス制度の導入を始めとした、商取引が変化することを加味し、事前に請求書に関する知識習得や事務処理の簡略化といった準備を進めておきましょう。
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