請求書の法的効力とは?法律上の根拠や有効期限・未払いへの対処法
商取引において慣習的に発行され、税法上の証憑書類としても重要な書類となる請求書。普段よく目にする文書である一方で、その「法的効力」については、不明な点も多いという人は少なくありません。本記事では、請求書に法的効力はあるのか?法律上の根拠や有効期限・未払い時の対処法をあわせて解説します。
目次
請求書とは?
請求書とは、仕事の報酬のほか、サービス利用料、品物に対する代金などを請求するために発行する文書です。
しかしながら、請求書は、その発行自体が法的に義務付けられているものではありません。その一方で、主に、商取引の記録・証明による取引先とのトラブル回避、適切な会計処理のためなどを目的に、ビジネス上の慣習となっていることから、発行することが一般的とされています。
また、請求書の発行方法については、従来、紙文書での発行が主流でしたが、近年では、請求書をはじめとした証憑書類の電子化を進める企業も増えています。
▷請求書とは何か?定義・必要性・役割や発行方法について徹底解説
請求書に記載する内容
請求書に記載する内容としては、税法上の証憑書類として下記の5項目の記載が推奨されています。
- 作成者の氏名(名称)
- 取引年月日
- 取引内容
- 税率ごとに区分した税込みの取引金額
- 交付を受ける事業者の氏名(名称)
加えて、商習慣では、請求日・請求書番号・振込先・支払期日などを、上記と併せて記載するのが一般的です。
▷請求書発行に必要な記載項目一覧!書き方・送り方も合わせて解説
請求書の法的効力とは?
請求書は、税法上の保管義務があり、取引があったことを証明する証憑書類として扱われています。また、万が一、取引先との支払いトラブルなどが生じた際には、取引があったことを証明する証拠書類の一つにもなり得るでしょう。
ここでは、請求書の法的効力について解説します。
請求書は債務者への請求事実を証明する重要書類
請求書は、税法上の証憑書類となるだけでなく、代金を支払う側(債務者)に対して、支払いを受ける側(債権者)が、「請求した事実」を証明する重要な証拠書類となります。
例えば、商取引により発生した代金を請求したにも関わらず、債務者が「請求を受けていない」と主張した場合、請求した事実が証明できなければ、請求そのものが、なかったと見なされてしまうこともあるからです。
このようなトラブルが発生した場合は、請求書を相手に送付した、という事実だけでは不十分とされるケースもあるため、配達証明付きの内容証明郵便で郵送するのがよいとされています。
請求書の有効期限
請求書には、民法により請求の有効期限が定められています。
具体的には、新民法166条1項1号により2020年4月1日以降に発行した請求書に関しては原則支払期日から5年で消滅時効を迎えるとされています。ただし、2020年3月31日以前に発行された請求書については、改正前の法律が適用されるため、その有効期限は支払い期日より2年が有効期限となり、それ以降は、当該請求書を根拠とした請求はできなくなる点に注意しましょう。
[出典:e-Gov 民法 第百六十六条]
有効期限は「催告」による6ヶ月の延長が可能
請求書の有効期限が迫っても債務者からの支払いがない場合は、債務者に内容証明郵便を利用して支払いを促す文書を送付するといった「催告」を行うことにより、有効期限を6ヶ月延長することができます。
ただし、この催告による期限の延長は、請求書の有効期限内に行う必要があり、有効期限を経過した後に、催告にあたる行為を実行しても延長は認められません。
▷請求書に関する基本ルールとは?知っておくべき注意点やマナーを解説
請求書発行後の未払いへの対処法
請求書を発行したものの、代金の支払いが確認できない場合は、まずは、自社の対応に不備がなかったかを確認したうえで、下記の対処を取るようにしましょう。
自社に不備がないか確認
まずは、発行した請求書の支払期日や送付先など、請求書に不備がなかったかを確認しましょう。記載事項や送付先の誤りだけでなく、作成したものの、送り忘れていたというケースもあります。
請求書のトラブルは、内容によっては、大切な取引先との関係を悪化させてしまうことにもなりかねません。取引先へ連絡をする前に、まずは、社内の取り扱いや文書作成でミスが起きていないかを十分に確認するようにしましょう。
取引先へ入金の要請
請求書が適切に取引先へと送付されていることが確認できた場合は、取引先に対して、メールや電話などで支払い状況を確認します。基本的には、まずは支払いを促したという事実を残せるメールでの連絡がおすすめです。
単なる支払い忘れなどであれば、即日、もしくは、支払い期日の再設定などの対応により速やかに対応してもらえるでしょう。
催促状や督促状の送付
メールや電話による入金要請をしても、取引先が支払いに応じない場合には、送った文書の内容、差出人及び受取人、差出日が郵便局により証明される内容証明郵便を利用して催促状や督促状を送付します。
催促状は、先方の状況確認と早期の入金を促すものであり、督促状は「期日までに支払いが確認できなければ法的処置を取る」といった内容で、支払いをより強く促すものとして使い分けられています。そのため、一般的には催促状により支払いに応じなかった場合は、必要に応じて内容証明郵便を利用し、督促状を送付するといった流れになります。
また、請求書の有効期限が迫っている場合、内容証明郵便を利用した督促状などの送付は「催告」にあたる行為となるため、6ヶ月の期限延長の期間に、債権を行使するための法的措置を進めることが可能となります。
▷【解説】請求書送付の催促メールの文例とポイントについて
法的手段による未払金の回収
内容証明郵便による催促状や督促状の送付を行なっても、取引先が支払いに応じない場合は、裁判所を介して支払いを求めることになります。
このような、いわゆる法的手段による債権回収には、いくつかの方法があります。順に見ていきましょう。
支払督促の申立て
支払督促とは、未払い分の支払いを裁判所を介して求める方法です。
裁判所への申し立てによって、裁判所から債務者(取引先)へ督促内容が通知されます。通知から2週間以内に、債務者による異議申し立てがない場合は、裁判所の仮執行宣言を経て、強制執行を申し立てることができるようになります。
支払督促は、申立手数料が訴訟のおよそ半額であること、また、訴訟に比べて、手続きが比較的簡単であるなどのメリットがあります。しかし、支払督促に対して、相手方から異議申し立てがあった場合は、通常訴訟へと移行することになります。
また、支払督促は民法における「催告」にあたる行為ですので、請求書の有効期限が迫っている場合には、支払督促によって請求書の有効期限を6ヶ月延長することが可能です。
少額訴訟
少額訴訟は、簡易裁判所において60万円以下の未払金の回収に限って利用することができる制度です。
少額訴訟は、原則1回の審理の後、即日、判決が言い渡されるため、迅速に未払金を回収できるというメリットがあります。ただし、少額訴訟も、支払督促と同様に、相手方が少額訴訟での手続に従わなかった場合は、通常訴訟に移行することになります。
通常訴訟
通常訴訟は、未払金の回収を目的とした法的手段の中で、最も費用と時間を要する手続きです。
請求額によって、簡易裁判所や地方裁判所のいずれかが管轄することになり、また訴訟手続きは、専門的な知識も求められるため、弁護士に依頼するのが一般的です。
通常訴訟では、当事者による主張・立証をおこない、その内容を裁判所が判断することになるため、手続きから解決までに1年ほどの期間が必要になることも珍しくありません。
ただし、他の法的手段と比べ、未払金を回収できる確実性は高いと言えるでしょう。
▷請求書の正しい管理方法!効率化のコツやおすすめシステムを紹介
未払いを事前に防ぐ取り組みも必要
請求書発行後の未払いについては、トラブルが発生しないよう、事前の予防措置を講じておくことも大切です。
具体的には、取引先について信用性・将来性・支払能力などを事前に調査する、あるいは、特に初めて取引をおこなう取引先であれば、取引の限度額を設けるなどの与信管理の実施や、取引フロー見直しなどが挙げられるでしょう。
また、2023年10月に施行される「インボイス制度」では、適格請求書の控えの保存も義務化されます。このような制度も活用しつつ、未払いリスクを回避する必要があるのです。
▷請求書発行から入金管理まで徹底解説!生じる課題や効率化のポイントは?
請求書の法的効力を理解しトラブルを未然に防ごう
請求書発行後、支払期日が過ぎても代金が支払われない場合は、まず自社の対応に不備がなかったかを確認した上で、適切な段階を踏み、取引先へと支払いを促しましょう。
催促や督促といった通知に対しても未払いが続く場合は、必要に応じて、法的手段を取ることになります。ただし、このような法的手段には、少なからず、費用と手間、そして、時間を要することになります。そのため、未払いを防ぐ取り組みの重要性を理解したうえで与信管理などの仕組みを構築することが大切です。
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