OJTとはどういう意味?目的やメリット・研修の効果を高める秘訣をわかりやすく解説
多くの企業で取り入れられている教育手法である「OJT」。新入社員を対象に実施されるため、実際に「OJT」を受けたことがある人も多いのではないでしょうか。本記事では、OJTの目的やメリット・デメリットを解説します。指導者向けのOJT研修についても説明するので、ぜひ参考にしてください。
・OJTとは実践形式で知識やスキルを身につける人材育成手法のこと
・OJTによって、指導者と対象者双方のスキル向上が見込める
・コミュニケーションの活性化や即戦力人材の育成などのメリットを得られる
目次
OJTとは?
OJTとは、「On the Job Training」の略で、実践形式でスキルや知識を身につける人材育成手法を指します。上司や先輩社員がマンツーマンで指導することが多く、研修やマニュアルでは学べない実践的なスキルを教えるための手段として用いられます。指導側は、状況に応じて指導内容や方法を柔軟に変えられるのが特徴です。
OJTの起源は第一次世界大戦時のアメリカで、軍人を育成するための「4段階職業指導法」がベースになっています。この手法では「やってみせる」「説明する」「やらせてみる」「チェックする」の4段階で指導するのが基本で、OJTでも同様に指導が行われます。
OJTの目的
OJTの主な目的は、指導対象者のスキル向上です。OJTは新たな職務に就く社員が必要なスキルを習得し、理解を深めるのに適した育成手法です。指導対象者の実践的なスキルや成長意欲の向上、仕事に対しての責任の意識づけなどにつながります。また、指導者も対象者への教育を通して技術的なスキルを向上させることが可能です。自身の業務を見直し、理解を深めるきっかけにもなるでしょう。
指導者と対象者双方のスキルが向上することで、組織全体の生産性を高めることにもつながります。OJTの実践により、即戦力となる人材を効率的に育成したり、社員間で人を育てる組織風土が定着し、企業の永続的な発展にも寄与すると考えられます。
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OJTとOFF-JTの違いとは?
人材育成手法のひとつであるOFF-JTは「Off the Job Training」の略称です。OJTと比較されることも多いですが、明確な違いがいくつかあります。OJTは職場内で行う教育手法であるのに対し、OFF-JTは主に職場外で教育・研修を実施することを指します。具体的には、セミナーや講義、ワークショップや合同研修などで、外部講師から新たな知識やスキルを学びます。また、eラーニングや通信教育もOFF-JTの一つです。
OJT・OFF-JTのどちらも人材育成を行う上で重要です。効果的な人材育成を行うためには、どちらか一方ではなく必要に応じて使い分けるとよいでしょう。
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OJTのメリット
OJTを行うことでさまざまな効果が期待できます。ここでは、OJTのメリットについて詳しく見ていきましょう。
即戦力となる人材を育成できる
OJTのメリットは、現場の即戦力となる人材を育成できることが挙げられます。実務を通して新入社員に必要なスキルや知識を伝えることで、状況に応じて対応する力も身に付くでしょう。知識の習得のために行われる研修と比較してスキルが定着しやすく、即戦力の育成に適した手法といえます。
また、スキルの習得度合いや個性に合わせて研修を進めることが可能です。苦手な部分を重点的に教育したり、得意な部分を活かした業務を割り当てたりすることで、現場で活躍できる人材を効率的に育てられるでしょう。
社員間のコミュニケーションが活性化する
社員間のコミュニケーションが活性化することも、OJTのメリットです。その理由として、現場での実務を通じて教育を行うことで日頃から社員同士で交流する機会が増え、社員間の信頼関係も深まるなどの効果も期待できます。
また、OJTを通じてコミュニケーションを取ることで、職場環境に馴染みやすくなるでしょう。セミナーや研修といった職場外での教育と比較して、社員間でのコミュニケーションが発生しやすいため、職場に慣れるスピードが早まるのもメリットのひとつです。
教える側のスキルアップにつながる
OJTは、指導者自身のスキルアップにもつながるというメリットがあります。指導者はOJTを通して、自身の知識や経験、業務内容を他の人に伝える必要があるため、業務内容を見直して理解を深めたり、適切な伝え方を考えたりする必要があります。このような流れを通して、教える側の指導力の向上も期待できるでしょう。
人材育成にかかる費用を抑えられる
OJTによる研修を行うことで、人材育成にかかる費用を抑えることが可能です。実務を通じて教育を行うため、研修会場の設定や講師の手配などが必要ありません。外部に委託することの多いOFF-JTと比較すると、人材育成費を抑えやすい手法といえるでしょう。
OJTを実施するデメリット
OJTにはさまざまなメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここでは、OJTを実施するデメリットを紹介します。
OJT指導者によって教育の質に差が出る
OJTのデメリットは、指導者によって教育の質にばらつきが出ることです。指導者のスキルや経験、指導技術などが直接教育に影響を与えるため、育成度合いに差が出やすくなります。
指導者が新人への指導に熟練していない場合や、業務知識やスキルを正確に伝える能力が不足している場合、OJTの効果は大きく損なわれるでしょう。また、指導者によって教育内容や教育方針が異なれば、同時期に入社した新入社員間でもスキルの差が生まれるという問題も見受けられます。
そのため、OJTを現場任せにするのは危険です。指導者研修の充実や教育プログラムの標準化など、指導する側をサポートする体制を整える必要があります。
OJT指導者の業務負担が増加する
OJTには、指導者の業務負担が増加するデメリットがあります。指導者は、普段の業務を行いながら新入社員の指導やフィードバックを行わなければなりません。また、新入社員が誤った作業をした場合には修正の時間を割いたり、指導するためのプログラムを作ったりする必要があります。
既存の業務以上の仕事が多く発生するので、指導者の負担が増加することが考えられるでしょう。OJTの実施期間中は業務量を減らすなど、指導者をフォローする体制の強化が求められます。
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OJT研修の流れ
OJT研修は、円滑なOJTを行うための知識を学ぶ指導者向けの研修です。主に、以下4つのノウハウを学べます。
- OJT実施計画の立て方を学ぶ
- 具体的な業務の割り振り方を学ぶ
- OJTを想定し業務を遂行する
- OJT対象者の内製・振り返りの促し方を学ぶ
OJT研修の具体的な流れについて見ていきましょう。
1.OJT実施計画の立て方を学ぶ
まずはじめに、OJT実施計画の立て方を学びます。実施計画を立てるのは、OJTを計画的かつ継続的に実施するためです。計画を立てることで、何を教えるべきか、どのような手法で教えるべきか、学習結果をどのように評価・フィードバックするかを明確にできます。
とくに、以下3点を意識しながら計画を立てることが重要です。
- OJTを通じて育成対象者にどのような業務ができるようになってもらいたいか
- 上記を達成するために身につけるべきスキルや知識、経験は何か
- 上記のスキル・知識・経験を身につけるために、どのような業務をどのタイミングで割り振るか
2.具体的な業務の割り振り方を学ぶ
OJT指導者は、育成対象者の業務量や質を考慮しながら指導することが求められます。OJTとは、実務経験を積みながら必要なスキルを身につけ、業務の遂行に必要な知識を獲得する場です。業務量と質のバランスを見極められないと、大量の業務に対して遂行を諦めたり、やることが少なくて仕事が退屈になったりする可能性があります。
そのため、育成対象者の取り組み方や進捗、理解度などを見たうえで、適切な業務を振り分けなければなりません。OJT研修では、現在の育成対象者の能力で取り組める業務と、スキル向上につながる業務の適切な割合や配分の仕方を学べます。
3.OJTを想定し業務を遂行する
実際のOJTでは、指導者が実際の業務を行い、育成対象者の指導を行います。最終的に、育成対象者が自分で業務を遂行できる状態にするため、指導者は一連の流れや各手順の意味を理解しておかなければなりません。
また、各手順をわかりやすく説明するスキルも必須です。業務に関する知識量と指導スキルは必ずしも比例しないため、指導スキルの習得に向けたカリキュラムも組まれます。
4.OJT対象者の内省・振り返りの促し方を学ぶ
OJT研修の最後には、指導者による内省支援の方法を学びます。OJTの成果を向上させるためには、育成対象者の内省が必要不可欠だからです。内省することで、うまくいった・いかなかった理由を明確に認識できます。また、指導者の適切なフィードバックも欠かせません。
内省支援は「振り返り」と「概念化」の2つで構成されます。両方を適切に行うことで、育成対象者の能力を向上させることが可能です。「振り返り」では成功または失敗の原因について、「概念化」では次回以降の教訓について考えることを促すとよいでしょう。
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OJTがうまくいかない・失敗する原因
OJTが失敗する原因としては、以下の2つが考えられます。
- 社員教育に対しての優先度が低い
- トレーナーの知識やスキルが不足している
それぞれについて詳しく解説します。
社員教育に対しての優先度が低い
OJTが失敗する原因のひとつに、社員教育に対する優先度が低いことが挙げられます。OJTは時間とリソースを投資し、継続的に取り組むことが必要です。
しかし、上司が行う業務量が多いためにOJTの時間を惜しんでしまい、十分な指導ができない場合があります。社員教育への優先度が低ければ、OJTは形骸化してしまい、十分な効果を発揮できません。社員教育への優先度が低い姿勢は、組織全体に伝わり、新入社員が自己育成をおろそかにする可能性もあります。OJTを成功させるには、社員教育にリソースを投資し、優先度を高める必要があるでしょう。
トレーナーの知識やスキルが不足している
トレーナーの知識やスキル不足も、OJTが失敗する原因になります。 このような状況では、新入社員に十分な教育はできないでしょう。また、トレーナーとしての指導方法が理解できていない場合、新人に一方的な指導をしてしまい、スキルの習得を遅らせることも考えられます。
OJTを成功させるためには、トレーナーの知識とスキルの向上が必須です。もしくは、適切な知識とスキルを有した人材をトレーナーにすることが求められます。
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OJT研修の効果を高める秘訣
ここからは、OJT研修の受講効果を高める秘訣を紹介します。
OJT指導者のレディネスの形成を図る
OJT指導者のレディネスを形成すると、OJT研修の効果を高められます。レディネスとは、学習前の準備が整った状態のことです。OJT指導者が適切な心構えを持つことで、積極的に研修に取り組めるでしょう。
一方、レディネスが整っていないと、研修内容に興味を示しにくくなるため、得られる効果が減少してしまうかもしれません。レディネスの形成を図るには、事前に指導者として選出した理由や期待している気持ちを伝えておくのがおすすめです。
OJT対象者のタイプを理解する
OJT育成対象者のタイプを理解することも、OJT研修の効果を高める秘訣です。近年の若手社員は、言われたことを確実にこなす傾向がある一方で、少しでも失敗の不安があると行動に移せない人も多く存在します。そのため「失敗した」と思われることを恐れ、業務中に不明点があっても聞きに来ないことが考えられるでしょう。
このような場合では、OJT指導者が育成対象者に積極的な声がけをしたり、話しやすい関係を構築したりする努力が求められます。育成対象者の傾向は年々変化するので、OJTを円滑に進めるためにも事前に育成対象者のタイプを理解しておくことが重要です。
ワークショップ・ケーススタディを導入する
OJT研修にワークショップやケーススタディを導入するのも効果的です。ワークショップとは、参加者が主体のグループ学習や講座を指します。ケーススタディは、事例をもとに実践的な知識を身につける学習方法のことです。ワークショップやケーススタディは、自ら思考・行動するため、学習定着率が上がりやすくなります。
ワークショップでは、OJT実践計画の立て方から業務の割り振りまでを実際に行ってみるとよいでしょう。また、研修の参加者同士で協力しあい、実際に業務を行いながら指導を行ってみるのもおすすめです。ケーススタディでは、OJT中に起こる失敗例などを参考にしてみてください。
OJT研修対象者自身の内省を促す
OJT研修の効果を高めるためには、研修対象者自身の内省を促すことが重要です。内省を促すことにより、研修対象者は研修を通じて学んだことを振り返る機会を設けられます。
改善すべき点を自覚したり、自己理解を深めたりすることで、実際のOJT指導に活かすことが可能です。内省はあくまで「支援」のため、管理職の考えを押し付けないように注意してください。効果的な問いかけを行い、研修対象者自身が思考するよう促しましょう。
OJT・OJT研修の目的を理解し積極的に取り組もう
OJTを実施することで、指導者と育成対象者のスキルだけでなく、組織全体の生産性を向上させることができます。費用をかけずに即戦力となる人材の育成ができる一方で、指導者によって教育の質に差があったり、業務負担が増加したりするデメリットも無視できません。
そのため、メリット・デメリットを理解したうえで対策をうち、OJTを導入することが重要です。
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