ワーケーションは普及するのか?現状の課題と今後の普及率の変化について
「ワーケーション」の名前自体は普及していますが、実際に実施している企業がどれだけあるのかは気になるところです。この記事では、2021年の調査結果をもとにした現状の普及率と実施率、そして課題や今後の見通しについて解説しています。また、普及率を高めるため、企業にできることや地域の取り組みについてもご紹介します。
目次
ワーケーションの普及実態は?
「ワーケーション」という言葉を、聞いたことはあるもののその実態についてはよくわかないという人も多いのではないのでしょうか。
そこでこの章では、国土交通省の調査した「『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書」を元に、ワーケーションの普及実態について解説していきます。
(1)ワーケーションの認知率は80%以上
全国の3,500社を対象に実施された国土交通省の調査では、ワーケーションの存在を認知している企業は80.1%にも達しています。この数字から、多くの企業がワーケーションについて認識していることがわかります。
(2)ワーケーション導入率は44%
実際にワーケーションを導入した企業の割合は全体の44.4%。導入率が11.1%だった2018年と比較すると普及が進んだことはわかりますが、約8割の企業がワーケーションを認知しているにも関わらず、実際に取り入れている企業は全体の半数にも満たないのです。
(3)利用希望の需要は57%と多く今後は実施率も高まるとみられる
ワーケーションの実施率は44%に留まり、高いとはいえないのが現状です。しかしその一方で、ワーケーションの利用を希望する企業は57%で、多くの企業がワーケーションを取り入れたいと考えています。
2019年には、ワーケーションの普及を目的としたワーケーション自治体協議会が設立されました。さらに地方自治体では補助金制度を作ったり、コワーキングスペースを作るなどの動きもあります。このような取り組みや会社制度の整備が行われれば、今後さらに普及が高まる可能性はあるでしょう。
[参照:国土交通省「『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書」]
ワーケーション導入の障害になる現状の課題
ワーケーションの導入率が低い理由には、以下のような課題が影響していると考えられます。
- 職種がワーケーションに向いていない
- 休みの間に仕事をしたくないと考えている人が多い
- 経費と自己負担の区別が難しい
- 旅先で仕事をしても生産性が上がらないイメージがある
- 勤務時間に制約があるためワーケーションは難しい
- 社内制度が整っていない
- 情報漏洩などのセキュリティが確立されていない
- 家族と同行して良いか分からない
こうした課題が障害となり、認知度は高いものの導入率は伸び悩んでいるというのが現状でしょう。ここからは、それぞれの課題について解説していきます。
(1)職種がワーケーションに向いていない
職種によっては、そもそもワーケーションに向いていない場合があります。例えばアパレル業のような接客業や、直接顧客と対応する販売業はワーケーションが難しいと考える人が多くなっています。
ほかにも、患者と対峙しなければならない医療や福祉の分野にもワーケーションの利用が難しい従業員が多いでしょう。ただし、デスクワークに従事する従業員はワーケーションの利用が可能であったりと、同じ事業所でも職種によって利用の可否が異なってきます。
(2)休みの間に仕事をしたくないと考えている人が多い
休日に仕事をしたくないと考えている人が多いことも、ワーケーションが普及しない理由の一つです。多くの人は、平日に働き休日に休むというサイクルで生活しています。
会社や自宅以外の場所で仕事モードに切り替えることが難しかったり、慣れない環境で仕事をすること自体にストレスを感じてしまうといったこともあるかもしれません。
(3)経費と自己負担の区別が難しい
プライベートと仕事で使った経費の区分けが難しいという声もあります。ワーケーションを行う場合、以下のような支出が発生します。
- 交通費
- 宿泊費
- 食事代
- コワーキングスペース使用料
会社によってはこれらの経費をどのように区分けするのか規定がないケースもあります。その場合、どこまでが経費として認められるか分からず不安に感じてしまう人も多いのが現状です。
(4)旅先で仕事をしても生産性が上がらないイメージがある
旅先で仕事をしても、生産性が上がらないのではないかと疑問視している人も少なくないかもしれません。いつもと異なる環境なのでそわそわしてしまい、集中できないかもしれない、などと考えると積極的な利用には繋がらないでしょう。
また旅先によっては、Wi-FiやLANケーブルなどがなく、ネット環境が整っていないことも考えられます。インターネットに接続するためにポケットWi-Fiをレンタルする必要があるなど手間がかかると、ハードルが上がってしまうのです。
そのような懸念があると、やはり旅先で仕事をすることは難しいと感じてしまうでしょう。
(5)ワーケーションでは勤務時間の管理が難しい
勤務時間の制約は、ワーケーションを取り入れる際の課題でしょう。また、ワーケーション制度がまだ浸透していない中での利用は「本当に仕事をしているのか?」という不信感を抱かれてしまうかもしれないと、上司や同僚の目が気になる人もいるかもしれません。
働く人は勤務時間を正確に把握し、報告する必要がありますが、人目のないワーケーションではこの点が不明瞭です。
(6)社内制度が整っていない
社内制度が整っていないと、ワーケーションの導入は困難です。社内制度がないと、いくつかの場面で対応に困ってしまいます。
例えば、ワーケーション中に事故に遭ってしまう可能性があります。その場合、会社がどのように対応してくれるのか知っておく必要があるでしょう。
また、ワーケーション中は勤怠をどのように扱うかについても確認が必要です。このような社内制度が定まらなければ、ワーケーションの導入は困難でしょう。
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(7)情報漏洩などのセキュリティが確立されていない
情報漏洩などのセキュリティが確立されていないままだと、ワーケーションを取り入れることはできません。情報漏洩などが発生すると経済的損失に繋がり、企業が信頼を失うことにもなりかねないからです。
例えば、旅先で仕事をする場合、Wi-Fiを使用することがあるでしょう。そこでフリーWi-Fiを使用してしまうと、悪意のある第三者に情報が漏洩してしまう可能性があります。
さらにワーケーション先の入室管理ができていないと、社用携帯やノートパソコンが盗難に遭う可能性も否めません。また、社外秘の資料を旅先で紛失してしまうリスクなども考えられます。
このように、ワーケーションには様々なリスクが伴いますので、こうしたリスクを回避するためにセキュリティ対策が重要になってきます。
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(8)家族と同行して良いか分からない
ワーケーションに家族が同行して良いか分からないという点もワーケーションに踏み切れない理由の一つかもしれません。パートナーや子供がいる場合、みんなで旅行に行きたいと思うことは自然です。
しかし、家族がいる横で仕事をしても問題ないのか、家族の分の経費はどのように扱えばよいのかなど疑問が生じます。その結果、ワーケーションの利用に繋がらないということもあるでしょう。
ワーケーションの課題を解決するために企業ができること
前述したワーケーションの課題を解決するには、企業がワーケーション先の環境の構築や、社内制度を定めるため、積極的に取り組む必要があります。その際、企業にできることをあげてみました。
- テレワークに必要な機材などの導入
- 社内規定・テレワークの労働時間管理体制の確立
- ネットワークセキュリティを高める
- 労災制度の見直し
- テレワークに対しての家族同行可否の規定などを決める
- 人事評価の基準を決める
- テレワークの正しい認識を従業員に周知する
ここからは、それぞれの解決策について、詳しく見ていきましょう。
(1)テレワークに必要な機材などの導入
ワーケーションを実施する際は、必要な機材などを導入しましょう。テレワークと同様にワーケーションでも以下のような機材は必需品です。
- ノートパソコン
- Wi-Fi機器
- 電源タップ
- 社用のスマートフォン
ワーケーション先でテレワークを行う場合、すでにこれらの機材が準備されていれば問題ありません。まだこうした機材がない場合は、テレワーク用の必需品として準備する必要があります。
業務にインターネット環境を必要とする場合は、VPNやクラウドサービスの準備も必須です。これらを用意することで、社外から社内ネットワークに接続できるので、職場と変わらない環境で業務に取り組むことが可能となります。
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(2)社内規定・テレワークの労働時間管理体制の確立
社内規定やテレワークの労働時間を管理する体制の確立も求められます。たとえワーケーションであったとしても、企業は従業員の正確な労働時間を把握しなければなりません。
フルタイムで仕事をする際は通常の勤務として扱い、短時間での勤務をする際は、勤務時間を把握し、残りの時間を有給休暇として処理するなどの対応が必要です。
このように、ワーケーションでは労働時間を詳細に把握する必要性があるため、従業員が対応しやすいように勤怠管理システムを用いるなどの対策を取っておくとよいでしょう。
(3)ネットワークセキュリティを高める
ワーケーションでは、特にネットワークセキュリティを高める必要があります。パソコンやスマートフォンのような端末や、資料などを社外に持ち込むことで、盗難や紛失といったリスクを伴うからです。
さらに、外部からネットワークに接続するため、情報漏洩などのリスクも生じます。こうした危険性を回避するため、セキュリティ対策について従業員への周知が必須です。ケーススタディを学ぶことで、どのような場面でどのような危険性があるのかを認知できるようになるでしょう。
また、ワーケーションで利用するネットワークを準備したり、セキュリティソフトをインストールしたりするセキュリティ対策も徹底的に行いましょう。これにより、第三者からのサイバー攻撃を防ぐことができます。
(4)労災制度の見直し
ワーケーションを実施する際は労災制度を見直しましょう。ワーケーションでも事故や災害が発生する可能性があります。その際、会社がどのように対応するのかを事前に考えておかなければなりません。
一般的にその事故や災害が業務時間外に発生した場合は、労災の対象外と考えます。こうした取り決めについては、従業員と認識齟齬がないように周知しましょう。
(5)テレワークに対しての家族同行可否の規定などを決める
ワーケーションについて、家族を同行できるか否かの規定を定めましょう。ワーケーションはプライベートの時間も含む働き方になるため、家族と同行したいと考える人も多いでしょう。
従業員の意見や業務への影響を考慮しながら取り決めを進めると、ワーケーションの実施がスムーズになるでしょう。
(6)人事評価の基準を決める
従業員を公平に評価するためにも、ワーケーションを考慮した評価基準を設ける必要があります。評価基準が定まっていないと、従業員が評価や周りの目を気にして、ワーケーションを利用しづらくなることが考えられるからです。
そこで、業務内容や成果を把握できるような仕組みを構築する必要があります。人事管理システムなどのツールを利用すると、ワーケーションでの業務を含め、シンプルかつ公平に従業員の評価を行うことが可能となります。
ツールにはクラウド型のものもあるため、ワーケーションをはじめとするテレワーク中にも利用ができ、効率的です。
(7)テレワークの正しい認識を従業員に周知する
従業員の中にはテレワークについて理解していない人もいますので、テレワークの正しい認識を従業員に周知しましょう。
また、ワーケーションは旅行気分になり、気が緩みやすいため、ワーケーション先でのテレワークではどのような対応が求められるのか、何に気を付けるべきかなどの説明は必須です。
ワーケーションの普及率向上に向けた地方自治体の取り組み
昨今では、地方自治体がワーケーションの普及率を上げるために様々な取り組みを行っています。こうした取り組みを利用することで、ワーケーションのハードルが下がり、取り入れやすくなるでしょう。
ここからは、地方自治体の取り組みを8つご紹介します。
(1)北海道
北海道の自治体では、「北海道型ワーケーション」というWebサイトを開設し、ワーケーションを利用して北海道を訪れる人や企業に向けて、体験記などの情報を発信しています。また、このサイトを利用すれば、条件にマッチしたワーケーションエリアを検索することも可能です。
また市町村の協力のもと、ワーケーションを体験できるイベントや交流会なども実施されています。こうしたイベントに参加することで、どのようにワーケーションに取り組めばよいかの参考になるでしょう。
(2)長野県
長野県の自治体では、「信州リゾートテレワーク」というライフスタイルを推奨しています。これは信州の魅力を体験しながら仕事に取り組むというワーケーションです。特設サイトも存在し、ワーケーションに興味がある企業や個人に向けて情報を発信しています。
さらに長野県にはいくつかのコーディネイト団体が存在しており、研修施設や宿泊施設に関する相談も可能です。また、プライベートでのアクティビティや宿泊中の移動手段などの質問にも応じてもらえるので、ワーケーションの計画を立てやすくなるでしょう。
(3)和歌山県
和歌山県の自治体では、「WAKAYAMA WORKATION PROJECT(WWP)」という取り組みを行っています。これは和歌山県でのワーケーションを希望する企業に向けて、サービスを提供する事業者を募集するプロジェクトです。
利用者は地域の魅力に触れることができますし、企業として地域の課題を解決したり、新しいビジネスに取り組むことも可能です。
またこのプロジェクトでは、土地を活かしたサンセットビーチヨガや、ソロキャンプ、和菓子体験など様々なアクティビティも用意されています。
(4)静岡県
静岡県では、参加者が地域と繋がることを目的とした様々な取り組みが行われています。例えば、過去には市内を観光できる無料ツアーが実施されました。これは静岡県東部地域でテレワークをしながら、沼津魚市場や中心市街を見学できるツアーです。
ほかに、三島市内を観光できるワーケーションツアーも実施されました。ワークショップでは自然を満喫することができ、リフレッシュできるでしょう。自然と触れ合って日々の疲れを癒したい方には、静岡県でのワーケーションもおすすめです。
(5)三重県
三重県の自治体では、「とこワク」というワーケーションポータルサイトを運営しています。とこワクとは「とこわか(常若)」の略で、「とこわか」には「いつまでも若いさま」という意味があります。
地方には過疎化の問題などがありますが、このネーミングが意味するように、三重県はワーケーションを通じて若者の訪問を促し、地域イノベーションを起こしたいと考えています。
またこのポータルサイトでは、プランやマップを検索することも可能です。おすすめのモデルプランも存在するので、どのようにワーケーションの計画を立てればよいか分からない方は利用してみるとよいでしょう。
(6)熊本県
熊本県の自治体では、「KIKUCHIチャレンジプロジェクト」というプロジェクトを立ち上げました。これは菊池市が掲げている「グローカルビレッジ構想」に基づくもので、働き方改革や交流を目的としています。
実際にはYahoo!やソフトバンクのような大手IT企業が参加し、移住や地方でのビジネス展開について構想しています。
菊池市では菊池渓谷でのウォーキングや班蛇口湖でのカヌーなど、様々なアクティビティを用意しています。また、菊池温泉を利用して日々の疲れを癒すこともできるでしょう。
(7)長崎県
長崎県の自治体では、「リモートワークin長崎」というプロジェクトに取り組んでいます。この取り組みでは、山や海といった自然や世界遺産などの観光を楽しみながらリモートワークを取り入れることを推進しています。
さらに「HOW WE WORK NAGASAKI」という特設サイトでは、長崎県でのワーケーションに関する情報を発信しています。このサイトでは、リモートワークを推進している市町村や体験記などが掲載されています。
体験記では利用した経緯やプラン、感想などを画像とともに閲覧できます。利用者の心境やモチベーションの変化もわかるので、気になる方はぜひ確認してみてください。
(8)沖縄県
沖縄県の自治体では、リモートワーク施設を整備し、施設の活用を支援するために「沖縄テレワーク推進事業費補助金」の交付が適用されました。
これにより、沖縄県内のワークスペースが70ヵ所以上増加し、観光とリモートワークを併合させた取り組みを活発に行えるようになりました。
沖縄では様々なモニターツアーやテレワークの勉強会なども開催されています。沖縄は主要観光地でもあり、鮮やかな海や空を満喫したいという方も多いでしょう。沖縄に訪れたいという方は、ぜひ検討してみてください。
ワーケーションの課題を把握して更なる普及率の向上へ
この記事では、ワーケーションの現状や課題、解決策について紹介してきました。ワーケーションには、社内制度が整っていなかったり、セキュリティが確立していないなどの課題が少なくありません。
しかし、こうした課題はテレワークの事例などを参考にしながら、企業が積極的に取り組むことで解決できるものです。社内制度を整備し、セキュリティ対策を行うことで、安心してワーケーションでのテレワークが実施できるでしょう。
ワーケーションは、働き方改革の一環としても推奨されている取り組みです。働く人の満足度が向上するワーケーションの活用について、本記事を参考にぜひ検討してみてください。
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