ナレッジマネジメントの歴史について|現在の状況や成功のポイント
ビジネスの場で再注目されているナレッジマネジメント。1980年代に提唱されてから長期的に取り組まれていますが、起源はいつなのか疑問に感じている人もいるのではないでしょうか。本記事では、ナレッジマネジメントの歴史や現在について解説します。
目次
ナレッジマネジメントとは?
ナレッジマネジメントとは、社員が持つ知識・経験・ノウハウなどのナレッジを企業や組織内で共有し、企業・組織全体における生産性の向上や競争力の強化などを目指す経営手法です。日本では長期にわたって終身雇用制度が前提とされていたため、10~20年かけてナレッジを継承していくという形がとられていました。
しかし働き方が多様化し、テレワークの一般化や転勤が当たり前になった現代において、長期間にわたるナレッジの継承が困難になったのです。そのため、各企業は個人の持つナレッジをその都度共有し、社内にナレッジが蓄積できる「ナレッジマネジメント」の導入を進めました。
ナレッジマネジメントには、知っておきたい「形式知」と「暗黙知」という2つの概念があります。それぞれの意味について詳しく解説します。
形式知・暗黙知
ナレッジマネジメントの「ナレッジ」には、2つの概念が存在します。
- 形式知
- 暗黙知
形式知とは、文章・図表・データなどで言語化され、他者に共有できる状態のナレッジを指します。たとえば、ITツールの操作マニュアルや業務フローなどがその一例です。
一方で暗黙知は、言語化されておらず、他者への共有が難しいナレッジのことです。形式知に変換できるものもあれば、営業担当者の話術やデザイナーのセンスなど、形式知に変換できないものも存在します。
そして、できる限り暗黙知を形式知に変換して社内に蓄積するのが、ナレッジマネジメントの考え方です。
▷【解説】暗黙知と形式知とは?意味の違いや変換する方法をわかりやすく解説
ナレッジマネジメントの歴史について
ナレッジマネジメントという言葉は、1980年代に生まれました。しかし、1960年代には経営学者であるピーター・ドラッカーが、「基礎的な経済資源は知識である」と唱えたため、「ビジネスにおける情報の重要性」は注目されていたのです。
ここでは、ナレッジマネジメントが発展してきた歴史的背景を、年表に沿って詳しくみていきます。
1980年代|ナレッジマネジメントの提唱
1980年代には、各企業でコンピュータが導入されはじめ、業務システムの構築・活用が盛んになっていきました。構築された業務システムには、さまざまな知識やノウハウなどが蓄積されたため、「蓄積された情報を活用しよう」というナレッジマネジメントの考え方が提唱され、広く普及していったのです。
また、勘や経験などの個人資質ではなく、情報やデータに基づいたマーケティング活動が欠かせないと考えられはじめました。そのため、情報を武器に顧客を獲得する「情報武装化」という言葉をよく耳にするようになったのも1980~1990年代のことです。
1990年代|ナレッジマネジメントに対する誤認識
1990年代には、IT技術の進歩やインターネットの普及と同時に、ナレッジマネジメントも社会に広く知られていきました。しかし、ナレッジマネジメントそのものの意義が正しく解釈されていなかったため、期待する効果は得られなかったのです。
この背景には、経営環境の変化と欧米の影響が挙げられます。
各企業では社員1人につきパソコン1台を与え、ナレッジを共有できる環境を整えました。ただ、「環境さえ整備すればナレッジの共有が進むだろう」という考えから、ナレッジマネジメントは環境整備にとどまってしまいます。
また、欧米ではパソコンとインターネットを最大限に活用したナレッジ共有の仕組みとインフラが整備されました。日本で生まれたナレッジマネジメントですが、活用方法や仕組み作りは欧米に遅れをとってしまったのです。
このように、1990年代の日本ではナレッジマネジメントの意義や活用方法が正しく認識されませんでした。
そこで、これまでのナレッジマネジメントに限界を感じた経営学者の野中郁次郎が「知識創造理論」を提唱します。「知識創造理論」は、現在広く認知されているナレッジマネジメントの原型を創出しました。
2000年代|ナレッジマネジメントの正しい知識が浸透
2000年代に入り、ナレッジマネジメントは徐々に正しい知識が浸透していきました。具体的には、以下の内容が挙げられます。
- ナレッジはシステム構築などの環境整備を行っただけでは蓄積されない
- ナレッジは活用してこそ効果を生み出す
- ナレッジは部門やチームを問わず全社的に共有するべき
たとえば、環境整備だけではナレッジが蓄積されないことから、社員個人が持つナレッジは自らシステムへ登録するようになりました。このように、各企業では上記の知識を踏まえてナレッジマネジメントに取り組むようになったのです。
2010年代|ナレッジマネジメントの必要性の再認識
2010年代には、ビッグデータの活用やAIといった最新技術の発達など、各企業におけるデジタル化が加速しました。「人間には到底把握しきれない膨大な情報」「専門知識を必要とする情報」など、ナレッジマネジメントの必要性が再認識されるようになったのです。
また、2010年代から現在まで、テレワークの一般化やワークライフバランスの重要視など、働き方の多様化も進んでいます。そのため、社員同士が直接ナレッジを継承するというこれまでのやり方では、ナレッジの共有が進まなくなってしまいました。
このように、経営環境や働き方がアップデートされ、ナレッジマネジメントに特化したITツールの登場などから、活用方法や在り方も定期的に見直し・改善が現在も繰り返されています。
▷【解説】ナレッジマネジメントとは?注目される背景や手法・具体例を紹介
ナレッジマネジメントの現在
現在のナレッジマネジメントは、「SECIモデル」と「場」から構成されています。それぞれについて詳しくみていきましょう。
SECIモデル
SECIモデルは、ナレッジマネジメント実現へのプロセスを表しており、具体的なプロセスとして4つが挙げられます。
- 共同化(Socialization)
- 表出化(Externalization)
- 連結化(Combination)
- 内面化(Internalization)
4つのプロセスを繰り返すことで、高いレベルのナレッジ共有が期待できます。では、それぞれのプロセスで具体的にどのようなことが行われているのでしょうか。
共同化(Socialization)
共同化は、暗黙知を他者に共有するプロセスです。このプロセスでは、ナレッジは形式知へと変換されておらず、実際の業務や体験を通じて同じ感覚を味わうことがメインになります。
たとえば、部下と一緒に営業を行うことで、部下に営業の方法を体感してもらうことが目的です。このように、共同化ではナレッジが個人から個人へと伝承されます。
表出化(Externalization)
表出化は、暗黙知を形式知へと変換するプロセスです。個人が持つナレッジを文章に書き出したり図で表現したりするなど、ナレッジを他者に共有できる状態へと言語化していきます。たとえば、「ITツールの使用方法をマニュアルにまとめる」「ミーティングで業務報告を行う」などが一例です。
また、作成したマニュアルを全社的に共有するなど、形式知に変換したナレッジの共有を行うのも表出化のひとつです。
連結化(Combination)
連結化は、形式知にあるナレッジを複数組み合わせ、新たな知を創造するプロセスです。たとえば、他部門での成功事例を参考に、アレンジを加えつつ自分の部門に落とし込むといった内容が挙げられます。
また、一部のプロセスを自動化・効率化するためにITツールを導入することも、よりよい知を創造するという点で連結化のひとつといえます。
内面化(Internalization)
内面化は、個人が新たに得た形式知を、暗黙知として「自分のものにする」「体にしみ込ませる」プロセスです。形式知を何度も繰り返し実践することで、ナレッジの内面化が実現します。
たとえば、はじめはマニュアルを見ないと操作できなかったITツールをマニュアルなしでスムーズに操作できるようになった場合、形式知を暗黙知として内面化できたといえるでしょう。
そして、内面化したナレッジ(=暗黙知)は、個人の経験が重なることでさらに発展していきます。発展した暗黙知を共同化・表出化・連結化と繰り返していくことで、ナレッジマネジメントの効果は最大化されるのです。
▷SECIモデルとは?基本的な考え方やマネジメントへの活用方法を徹底解説
ナレッジマネジメントにおける「場」
ナレッジマネジメントにおける「場」とは、SECIモデルから得た知識が「創造」「共有」「活用」される基盤・プラットフォームを意味します。休憩スペースといった単なる物理的空間だけではなく、会話・雑談・メール・SNSのやり取りも「場」に含まれます。たとえば、休憩スペースでの雑談は知識の共有や創造に役立ち、テレアポのロールプレイングは知識の実践や活用に役立つでしょう。
このように、ナレッジマネジメントのSECIモデルを効率化するには、「場」の存在が欠かせません。したがって、ナレッジマネジメントを成功させるためには、組織内に「場」を増やすことが大切です。
▷ナレッジマネジメントの失敗事例と成功に導くためのプロセス
ナレッジマネジメントが重要な理由
企業にとってナレッジマネジメントが重要な理由について紹介していきます。
働き方の多様化が推進されているため
現在、日本ではフレックスタイム制・勤務間インターバル制・テレワークなど、働き方の多様化が推進されています。少ない時間と労力でより高い成果が求められるため、あらゆる業務を効率化しなければなりません。
長期間かけてナレッジを継承する従来のやり方では、ナレッジの共有に時間がかかり過ぎるので非効率です。そのため、ナレッジマネジメントを行いナレッジの共有にかかる時間をできる限り短縮し、他のコア業務に充てられる時間を増やすといった対策が求められます。
社内でのナレッジを蓄積していくため
終身雇用が崩壊しつつある現代において、早期退職や転職などの理由でベテラン社員と若手社員が時間を共有する機会が減少しています。その結果、知識の継承が十分に行われなくなってしまいました。
ナレッジを共有しないまま社員が退職・転職してしまうと、ナレッジが社内に蓄積されず残された社員は始めから業務を行わなければなりません。
このような事態を避けるためにも、ナレッジマネジメントを行うことが大切です。個人が得た知識やノウハウを共有することで、急な退職や転職があっても社内にナレッジを蓄積することが可能となります。
業務効率・生産性を向上させるため
ナレッジマネジメントによって、ベテラン社員や希少なスキルを保有する社員の知識を企業ナレッジとして共有できれば、企業の成長に大きな影響を与えるでしょう。
また、社員の急な離職に伴う知識喪失のリスクも回避でき、知識の継承が常に効率よく行えます。結果として、業務効率や生産性の向上が期待できるでしょう。
業務の属人化防止するため
適切なナレッジマネジメントを行うことで、「その都度ナレッジを共有する」という仕組みづくりや意識改革につながります。定期的にナレッジが共有・蓄積されれば、業務の属人化を防ぐこともできるでしょう。
属人化防止の実現は、同時に人材育成・顧客対応の強化・社員間のコミュニケーションの活性化などにもつながります。このように、ナレッジマネジメントの実践は、あらゆるメリットの連鎖的な獲得につながります。
▷ナレッジマネジメントOSS8選!無料で始める方法や有料版との違いを解説
ナレッジマネジメント成功のためのポイント
ナレッジマネジメントを成功させるための4つのポイントについて紹介していきます。
ナレッジマネジメントの重要性の周知させる
自らが持つナレッジを共有するベテラン社員や優秀な社員は、ナレッジマネジメントそのものにメリットを感じない場合があります。とくに、日々の業務に追われている場合、ナレッジマネジメントに割く時間が惜しいと考えることもあるでしょう。
そのため、ナレッジマネジメントが企業だけではなく個人にもメリットがあることを周知しなければなりません。ベテラン社員や優秀な社員が得られるメリットの主な例として、事前にナレッジを共有することで「若手社員の教育にかかる時間を短縮できる」「引き継ぎが楽」などが挙げられます。
評価基準の確立させる
ナレッジマネジメントの取り組みが、企業の業績向上にどれほどの影響を与えているかを把握するのは難しい傾向があります。具体的には、「誰が共有したナレッジが」「どのような業務で活かされ」「その結果それだけの成果が得られたか」ということです。
「ナレッジを共有したのに、共有した自分自身は何も評価されない」となれば、ナレッジを共有する意味や価値を感じられず、ナレッジの共有が行われなくなる可能性も考えられます。そのため、社員が自発的にナレッジを共有したいと感じられるような、明確な評価基準を設けることが大切です。
操作性の良いナレッジマネジメントツールを導入する
ナレッジマネジメントツールを導入する場合、操作性の良さも選定ポイントです。機能性が高いツールは活用の幅が広いものの、ITリテラシーの差によって活用が定着しない可能性が高いといえます。
そのため、ITリテラシーの差にかかわらず、全社員が使いやすい操作性の高いツールを導入しましょう。ツールの種類によっては無料トライアルや無料プランが提供されているため、積極的に活用し導入前に操作感の確認をおすすめします。
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小規模展開からスモールスタートする
ナレッジマネジメントは全社的に行うことが重要なものの、はじめから全社的に導入してしまうと、部門によって活用方法が異なったり混乱を招いたりするなどの可能性があります。そのため、まずは一部の部門やチームなど、導入範囲を小規模に限定することが大切です。
小規模な範囲であっても、導入後に効果的な活用方法や課題点が見つかるはずです。その結果を参考に、より良い活用方法を定めながら、徐々に規模を拡大していくとよいでしょう。
▷【最新】ナレッジマネジメントの成功事例8選!事例から学ぶ成功ポイント
ナレッジマネジメントを見直し業績の向上を図ろう
ナレッジマネジメントは、1980年代に日本で生まれた概念であり、ナレッジマネジメントの在り方は時代とともに変化し、現在のSECIモデルに落ち着いています。
効率的なナレッジの共有や企業全体の生産性を高めるためにも、ナレッジマネジメントの活用方法を見直し、業績向上を目指しましょう。
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