経理業務をペーパーレス化するメリットは?進め方や役立つツールを解説

業務のペーパーレス化には、業務効率化による生産性向上やコスト削減などのメリットが期待できます。また、電子帳簿保存法の改正により、経理業務の見直しを図りたいとお考えの企業も多いのではないでしょうか。本記事では、経理業務をペーパーレス化することで得られる具体的なメリットや組織におけるペーパーレスの進め方、役立つツールについて解説します。
目次
経理業務のペーパーレス化とは?
経理業務のペーパーレス化とは、主に国税関係書類のデータ化、経費精算フローのシステム化などが挙げられるでしょう。
具体的には、契約書、見積書、受発注書、納品書、請求書、領収書などの取引先から受け取った証憑書類について、紙保存ではなくスキャナでデータ化して管理すること。また、自社が発行する請求書などの証憑書類は、PDFなどのデータで発行することなどを指します。
また、社内の経費精算においても、紙の領収書でやり取りするのではなく、フローをシステム化し、PDFデータ、もしくは、撮影して画像化した領収書データによって管理することも、経費精算のペーパーレス化の取り組みと言えるでしょう。
経理業務ペーパーレス化のメリット
では、経理業務のペーパーレス化にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
費用・スペースの削減
国税関係書類は、税法上7〜10年の保管が義務付けられています。そのため、企業規模や取引件数によっては、大量の紙書類を、長期間に渡って保管・管理するスペースが必要です。
このような保管スペースは、コストをかけて別途手配している企業も多く、管理コストが発生しています。また、これらの書類を印刷するための紙やインク代、ファイリングのための事務用品などのコストも必要です。
一方、データで保管するペーパーレス化を実施した場合、保管スペースの賃料や消耗品コストを、“ゼロ”にすることも不可能ではありません。
人的ミスの防止
書類をデータで扱うようになれば、契約書や領収書などの紙の書類を持ち歩くことはなくなります。そのため、ついうっかりどこかに置き忘れてしまったり、大量の書類に紛れて紛失してしまうようなミスを軽減することができるでしょう。
また、データ化された書類には、ファイルやフォルダにパスワードやアクセス権を設定することができるため、保管の際のセキュリティ性を高めることができます。
業務負担の軽減
経理業務を紙で行っている場合、それぞれの書類に「承認印」の押印をするケースも少なくありません。たかが「ハンコを押すだけ」の作業であっても、処理件数によっては、それなりの作業時間をとられることになります。
また、書類管理の場合、ファイリングの手間が発生するだけでなく、過去資料の閲覧が必要になった際は、山積みの資料をかき分けてお目当ての書類を探し出すことになるでしょう。
データ保管であれば、各書類への押印は不要となり、検索する際も「キーワード検索」の機能が使えます。一つひとつは小さな改善であっても、積み重なることにより、経理業務全体の大きな業務負担の軽減につながるはずです。
業務効率・生産性アップ
経理業務のペーパーレス化を実現するにあたっては、経費精算をシステム化することも多いでしょう。経費精算は、経理業務の中でも件数・手間ともに、担当者が大変だと感じる業務の一つです。
また経費を使用することの多い営業職にとっては、紙の申請だと在席時にしか作業ができず、どうしても期日ギリギリまで処理を先延ばしにしてしまいがちです。
しかし、クラウドツールを使用した経費精算であれば、移動中の隙間時間などを使った経費申請・承認者による承認が可能です。また、申請時の入力に不備がある場合は、申請を拒否する設定にしておくことで「差し戻し」による手間を低減することもできます。
申請者と承認者、そして経理担当者の三者の業務効率と生産性を上げることができるのです。
多様な働き方の実現
経理業務をペーパーレス化することで、経理担当者のテレワークが可能になります。「押印が必要である」、「紙の書類を取り扱う」などは、経理業務にテレワークを導入しない理由の代表例です。
しかし、領収書や請求書への押印は、単なる商習慣であり、税法上の義務ではありません。そのため、ペーパーレス化による経理業務へのテレワーク導入は十分可能であり、テレワークを実現することによって、優秀な人材が確保しやすくなる、あるいは、ライフステージの変化による社員の離職防止につながるなどのメリットが得られます。
ワークフローのオンライン化
請求書や領収書、契約書などの証憑書類のデータ化によるペーパーレス推進により、これらに関連したフローを全てオンライン化することも可能になります。
場所を気にせず作業ができるようになり、かつ、保管や共有の手間も軽減されるでしょう。書類の印刷・郵送にかかるコストを削減できるのはもちろんのこと、「書類を持ち歩く」こともなくなるため、セキュリティの強化も実現します。
経理業務ペーパーレス化のデメリット
さまざまなメリットのある経理業務のペーパーレス化ですが、デメリットが全くないというわけではありません。ここからは、ペーパーレス化によって生じるデメリットを解説します。
導入費用等がかかる
経理業務をペーパーレス化を推進する際には、ツールを導入することになるでしょう。そのため、導入時の初期費用のほか、ランニングコストが発生します。
その一方で、紙代・印刷代、郵送代など、ペーパーレス化による業務改善によって削減できるコストもあるため、両方のコストを考慮しつつ、選ぶ必要があります。
システムの定着に時間がかかる
業務のシステム化に不慣れな場合は、システムの選定、導入による業務フローの変更、システム操作の習得などに、想像以上の労力と時間を要することもあります。そのようなケースでは、導入時のサポートが手厚いサービスを選ぶなどの工夫が求められるでしょう。
システム障害のリスク
クラウド型のサービスを利用する場合、サイバー攻撃やサーバートラブルなどによるシステム障害のリスクを完全に排除することはできません。セキュリティレベルの高いシステムを選定する、万が一に備えたBCPを策定しておくなどの準備が必要です。
ペーパーレス化に相手の承諾が必要な場合もある
国税関係書類などの法定保存文書の電子化には、主に「e-文書法」と「電子帳簿保存法」の2つの法律が関係し、定められた要件に従って運用しなければなりません。
ただし、契約や取引の内容によっては、電子化に一部規制がかかっている場合もあります。例えば、特定商取引法の改正により、契約締結時等に交付すべき書面(契約書・重要事項説明書など)やクーリングオフ書面なども電子化が可能となりましたが、電子化するにあたっては、事前に相手の承諾を得なければなりません。
法令を遵守した運用ができていなければ、トラブルに発展するリスクも懸念される点は注意が必要です。
経理業務ペーパーレス化の進め方
次に、実際に経理業務をペーパーレス化する際の進め方についてお伝えします。
目的を明確にする
ペーパーレス化には、「業務効率化」、「コスト削減」、「テレワークへの移行」、「セキュリティの強化」など、さまざまな目的が挙げられます。
これらの目的は、ペーパーレス化する書類やシステムの選定、システム化に伴う業務改善の基準にもなるため、明確にするだけでなく、全社的に共有しておくようにしましょう。
書類の選定と優先順位づけ
次に、データ化すべき書類を選定し、ペーパーレス化を推進する書類の優先順位を決定していきます。ペーパーレス化成功のコツは、スモールスタートによりPDCAサイクルを回して、最適化しながら、徐々に領域を拡大していくことです。
全ての書類を一気にペーパーレス化してしまうと、混乱が生じた際の修復に時間がかかってしまう、問題発生の原因追及に時間がかかってしまうなどの状況が発生しやすくなるため注意しましょう。
システムの検討・導入
目的、ペーパーレス化をすべき書類が決まったら、それらが実現できるシステムを選びます。近年はさまざまなツールやシステムが提供されており、搭載機能や料金プランも多様化しています。
検討する際に重要なのは、「必要な機能が搭載されているか」、「従業員が使いこなせるか」、「導入・運用のコストは適切か」の3点です。また、既存システム、もしくは将来的にシステムの導入が予想される業務との連携の可否なども含めて検討してください。
ルールの策定
ペーパーレス化やシステム化を推進する際には、多くの場合、業務フローを大きく変更することになります。新しいフローやルールは、管理職だけで策定せず、必ず業務担当者の意見を反映するようにしてください。
また、新たな仕組みやルールは「一度決めたら終わり」ではなく、実行と検証、改善を繰り返し最適化される点を認識しておきましょう。
ペーパーレス化の実施
目的の明確化、システム導入、ルールの策定等が完了したら、いよいよ業務のペーパーレス化を実行します。
システムの運用に関しては、事前にいくら資料を読み込んでいても、実際に使用してみてわかることは必ずあるはずです。また、策定したフローやルールが上手く機能せず混乱を招くこともあるでしょう。
そのため、一気にペーパーレス化、システム化を推し進めるのではなく、余裕を持った移行期間を設け、新体制が機能しなかった場合に備えておくことも大切です。
支援サービスの利用
システム導入時、経理部門にて扱う既存書類の電子化に人的リソースを割くことが困難な場合には、文書の電子化がアウトソーシングできる支援サービスを利用するのも良いでしょう。
ただし、確定申告を済ませた国税関連書類に関しては、そのまま紙で保存しておかなければなりません。電子帳簿保存法などの要件を満たしたデータ保存であっても、あくまで原本は紙の書類であり、破棄することはできませんので注意しましょう。
経理業務ペーパーレス化に役立つツール
ここからは経理業務のペーパーレス化に役立つツールを紹介します。
オンラインストレージ
オンラインストレージとは、インターネット上にデータを保管するシステムを指します。インターネット環境さえあれば場所を問わずアクセスできるため、共有性に優れ、物理的なスペースを要することなくデータが保管できることが特徴です。
なお保管できるデータの容量はシステムや料金プランによって異なります。
経費精算システム
経費精算システムは、経費申請から承認のワークフローなどが効率化できるシステムです。そのほかにも、OCR(自動読取)機能による入力サポートや、通勤定期券区間を控除した交通費の自動計算がICカードとの連携により可能となるなど、経理業務の工数を大幅に削減することが可能です。
請求書発行システム
請求書の発行からデータの受け渡し、データ保管までをオンライン上で行えるシステムです。会計システムとのAPI連携や自動消込機能のほか、請求書だけでなく見積書や納品書、支払明細書などの書類作成・管理に対応しているシステムもあります。
問い合わせ対応システム
社内からの問い合わせ対応に業務を圧迫されているようであれば、バックオフィス業務に特化したAI搭載のチャットボットなど、問い合わせ対応システムを活用するのも良いでしょう。
このようなシステムでは、過去の質問への回答を学習したAIにより、聞いた方が早い、欲しい情報がどこにあるかわからないといった、FAQが活用されないケースの原因となる課題の解消が期待できます。
振込代行ツール
振込代行ツールは、あらかじめ登録しておいた振込データに従い、資金を確認した上で、自動で振込を実行してくれるツールです。取引先への振込はもちろんのこと、社員の給与振り込みにもツールを導入することで業務負担の軽減を実現します。
手続きは全てオンライン上で完結するため、振込用紙の記入や金融機関窓口に出掛ける必要もありません。
入金消込ツール
未入金残高の可視化、未回収の売掛金の照合や催促を効率的に行うための、消込に特化したツールもあります。このようなツールでは、A消込自動化で経理業務の負担を軽減するだけでなく確認漏れなどもミスを自動的、かつ、より確実に防ぐことが可能です。
クラウド会計システム
クラウド型の会計システムは、ネットバンキングやクレジットカードサービスとの連携による自動仕訳機能、請求書作成機能、OCR機能による領収書・レシートなどの読み取りおよび自動入力、売上や経費レポートの作成などの機能を搭載しています。
これらの機能により、記帳業務が効率化できるのはもちろん、給与計算や確定申告時の書類作成に対応したシステムもあります。
経理業務ペーパーレス化の注意点
最後に経理業務をペーパーレス化する際の注意点についても確認しておきましょう。
社員への周知・研修は必須
経理業務のペーパーレス化は、経費精算や請求業務のフロー変更など、経理担当者以外の社員にも大きな影響のある業務改革です。
業務フローが変更されることに対しては、必ずしも好意的な社員ばかりとは限りません。そのため、実行時に全社的な協力体制が得られるよう、事前に目的やメリットを共有し、社内の理解を高めておくことが大切です。
またシステムの操作方法については、社員による自主的な学習に頼るだけではなく、研修スケジュールを立て計画的に行いましょう。
トラブル発生時の対処法を準備
クラウド型のシステムやツールは、高度なセキュリティ対策が講じられていることがほとんどですが、オンライン上に構築されたシステムである以上、サイバー攻撃やサーバーダウンによるシステム障害を100%防ぐことはできません。
バックアップの保存や、代替手段の確保など、万が一、そのようなトラブルが発生した場合の対処法は準備しておくようにしましょう。
関連法の定期的なチェックが必要
国税関連書類の電子化に関連する電子帳簿保存法などの法律は、これまでに繰り返し法改正が実行されています。現行の法令にそった業務管理ができるよう、要件や保管状況などは、定期的にチェックできるような内部統制を図っておくことも必要です。
経理業務の効率化に向けペーパーレス化を推進しよう
経理業務は、企業活動の中でも、特に紙の文書を扱うことの多い部門です。その特性を理由に、「テレワーク導入」を躊躇している企業も多いのではないでしょうか。
しかしながら、経理業務はツールなどの活用により、安全にペーパーレス化ができるだけでなく、大幅な業務効率の改善が可能な業務です。経理部門の「生産性向上」を目的に、業務のペーパーレス化を進めてみてはいかがでしょうか。
ペーパーレスの記事をもっと読む
-
ご相談・ご質問は下記ボタンのフォームからお問い合わせください。
お問い合わせはこちら