チェンジマネジメントの意味とは?具体的な手法や事例・フレームワークを紹介

2023/08/08 2024/06/05

組織・マネジメント

チェンジマネジメント

組織の成長に欠かせない「チェンジマネジメント」。変化が激しい現代で企業の成長に必要なマネジメント手法ですが、チェンジマネジメントが具体的に何かわからないという方も多いはずです。本記事では、チェンジマネジメントについて、具体的な進め方や事例をあわせて紹介します。

チェンジマネジメントの意味とは?

チェンジマネジメントとは、ビジョン達成に向けて組織を変革させるためのマネジメント手法です。チェンジマネジメントの考え方を身に付けることで、企業や組織の変革がスムーズに行えるようになります。

ここからは、チェンジマネジメントが必要とされている背景や歴史について見ていきましょう。

チェンジマネジメントの必要性

社会やビジネスにおける環境の変化が激しい中で、組織が持続的な成長を続けるには、変化に強く柔軟に対応できる組織作りが欠かせません。

たとえば、コロナ禍以降はリモートワークへの対応など、ニューノーマルな働き方に対応することが求められています。さらに、日本では労働人口の減少も問題となっており、ITツールなどを活用した業務効率化や生産性向上も目指す必要があるでしょう。

このように、目まぐるしく変化するビジネス環境に適した組織を実現するには、効率的に変革を進めていけるチェンジマネジメントの実践が有効だと考えられています。

チェンジマネジメントの歴史

チェンジマネジメントは、1990年代のアメリカではじまったとされています。当時アメリカでは、BPR(Business Process Re-engineering)と呼ばれる業務プロセスを改革するための手法が開発されました。

しかし、BPRは成功確率が低く、逆に状況を悪化させる結果になっていたそうです。BPRが失敗に終わった原因のひとつに、現状維持を望み変化を回避しようと動くメンバーの存在が指摘されています。

そこで、メンバーの心理的抵抗を和らげるためのマネジメント手法として、チェンジマネジメントが開発されたのです。

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チェンジモンスターとは

チェンジモンスターとは、変革の妨げとなる人物を表した言葉です。アメリカに本社を置くコンサルティング会社ボストンコンサルティンググループの、ジーニー・ダック氏が提唱しました。代表的なチェンジモンスターには、以下のようなものがあります。

  • タコツボドン(他人が自分の業務に関与することを嫌う)
  • ウチムキング(社内の評価ばかりを気にして、外部に無関心)
  • カコボウレイ(過去の成功に捉われて、事業撤廃などの決断に踏み切れない)
  • ミザル・キカザル・イワザル(改革に関わろうとせずにやり過ごす)
  • ノラクラ(言い訳ばかりで行動をしない)
  • カイケツゼロ(課題に気付いていながらも自ら行動しようとしない)
  • マンテン(リスクが完全になくならなければ行動しない)

チェンジモンスターの根底には、変化に対する不安や恐れなどがあります。チェンジモンスターに限らず、変革に対する不安は誰もが感じるものです。チェンジマネジメントを行う際は、人の感情も考慮したうえで変革戦略を考えることが大切になります。

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チェンジマネジメントの3つのレベル

チェンジマネジメントには、組織変革の規模によって3つのアプローチ方法があるとされています。ここでは、それぞれの特徴を見ていきましょう。

個人レベル

従業員一人ひとりに対して変化を促すアプローチです。特定の従業員に対してどのようなサポートが必要かを検討するところからはじまります。

具体的な計画が決まったら、変化が必要とされている理由を説明し、最適なタイミングでサポートを行うことが大切です。個人単位で変化を促していくことで、従業員の抵抗感を和らげながら変革を推進できるでしょう。

組織レベル

企業全体または事業組織全体で、組織変革や経営戦略の改革を成功させるためのアプローチです。変化が激しいビジネス環境に対応するために必要な施策を検討し、組織全体で変革に取り組んでいく必要があります。

組織単位での改革を成功させるには、個人やプロジェクトレベルでのチェンジマネジメントを実施して基礎作りを行う必要があるでしょう。

プロジェクトレベル

特定のプロジェクトや、プロジェクト内のメンバーに対して変革を促すアプローチです。変革が必要なプロジェクトを見極め、誰がどのような取り組みを行うことでプロジェクトの変革につながるのかを、メンバーが気付くよう働きかけます。

また、変革が必要な個人やグループに対し、必要なスキルを習得するための機会を与えることも大切です。プロジェクトレベルでのチェンジマネジメントを実施することで、組織全体によい影響を与えることにもつながります。

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チェンジマネジメントのフレームワーク

チェンジマネジメントは、効果的な手順を踏むことで成功につながりやすくなります。ここでは、チェンジマネジメントに有効なフレームワークを3つ紹介します。

レヴィンの3段階組織変革モデル

ドイツ出身の心理学者である、クルト・レヴィン氏が提唱した組織変革モデルです。レヴィンは、変革を成功させるためには以下のプロセスが重要だと述べています。

  • 解凍
  • 変革
  • 再凍結

解凍とは、変革の必要性や危機感を共有し、従来の考え方を手放すことを意味しています。変革に対して抵抗が起きないよう、まずは新たな考えを受け入れられる状態を整えなければなりません。

解凍が完了した後は、実際に変革に向けた施策を実行します。このプロセスでは、目指すべき方向性や全体像を共有し、改革に必要となる解決策を試行していきます。

再凍結とは、新たな文化を定着させることを意味します。せっかく変革を起こしても、以前の習慣に戻ってしまっては意味がありません。変革によってもたらされた新しい概念や行動を定着させることで、組織が生まれ変わるのです。

レヴィンの3段階組織変革モデルは、チェンジマネジメントの軸となるフレームワークといえるでしょう。

チェンジカーブ

チェンジカーブは、精神科医であるキューブラー・ロス氏が提唱した「悲しみを受け入れるプロセス」をもとに、研究者などが変化を受け入れるプロセスとして発展させたものです。

50年ほど前に定義されたフレームワークですが、現代でもチェンジマネジメントを実施する際に活用されています。チェンジカーブには、以下8つの心理的な段階があるとされています。

  • 否定:変化が必要という事実を否定する
  • 怒り:変化が必要であることに対して怒る
  • 抵抗:変化を回避できるか抵抗してみる
  • 落ち込み:変化を回避できないことを知り落ち込む
  • 受け入れ:変わる必要があることを受け入れはじめる
  • 試み:新しい環境で何かできないか試みる
  • 発見:やりがいや楽しみを発見する
  • 統合:変化を日常として取り込む

このように、変化に直面した人はいくつかの心理的なプロセスを経ながら適応していくのです。ただし、必ずしもすべてのプロセスを経験するとは限りません。すぐに変化を受け入れて今できることを試す人もいれば、長期間落ち込んでしまってなかなか抜け出せなくなる人もいます。

そのため、チェンジカーブの緩急や変化を受け入れるスピードは人によって異なることを理解しておくことが大切です。

ブリッジズのトランジション理論

アメリカの心理学者であるウィリアム・ブリッジズ氏は、人が変化を受け入れるプロセスをトランジション(転機)とし、「終わり」「ニュートラルゾーン」「新たなはじまり」の3つの過程に分けて考えています。

終わりとは、これまでの習慣や考え方、関係性などを手放していくプロセスです。人は慣れ親しんだやり方を手放す際に抵抗感を抱くため、トランジションの中でもとくに難しいプロセスといえます。

ニュートラルゾーンは、これまでの習慣は手放せたものの、新しいやり方や考え方に馴染めていない状態です。転機をどう受け入れていくのかという問題に直面し、深刻な喪失感や空虚感におそわれます。この時期には、一人になれる時間を確保する、考えや思いを記録する、過去を振り返ってみるといった方法で自分自身と向き合うことで、3つ目の段階に上手に移行できます。

新たなはじまりでは、慣れた環境から離れる恐怖心から自分自身の中で抵抗が生じたり、周囲に反対されたりすることもあります。新たに何かがはじまるときは、内的・外的な抵抗が起こるものと考えておくことで、適切に対応することが可能です。

チェンジマネジメントの8つのステップ

ここからは、チェンジマネジメントを進めるための8つのステップについて解説します。

危機意識を高める

まずは、社員に対して組織改革がなぜ今必要なのかを説明し、危機意識を高める必要があります。社内の現状はもちろん、社会情勢や顧客ニーズを含めた外部の状況を分析し、「もし変革をしなければどんなリスクがあるのか」「変革することでどんなメリットがあるか」を説明するとよいでしょう。

変革の必要性や目的が理解できていないと、変化に対して否定的な感情を抱く社員も出てきます。制度や仕組みを一新しても、組織を動かす社員が変わらなければ変革は成功しません。具体的な数値や根拠を提示しながら、理解を得られるまで発信しましょう。

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変革のためのチームを結成する

社員間で変革に対する意識を共有できたら、組織変革をけん引するチームを作ります。チームのメンバーは、可能な限り社員に影響力のある人物が望ましいです。

たとえば、以下のような人材で構成するのがよいでしょう。

  • 社員から信頼され、人望がある
  • プロジェクトを完遂する実行力がある
  • 計画的にプロジェクトを進められる

これらすべての要件を一人の社員が持ち合わせている必要はありません。どれかひとつでも当てはまる人材を集めて、各自が持つ能力を発揮できるような体制を築くことが大切です。まずは社員に影響力のある人材がリードすることで、変革がスムーズに進みやすくなります。

ビジョンと戦略を明確にする

チームを結成したら、変革のビジョンと戦略を明確にして方向性を定めましょう。最終的にどうなりたいかというビジョンを示し、実現のための戦略を立てる必要があります。

戦略を立てる際のポイントは以下の6つです。

  • 分かりやすく簡潔に説明できる内容である
  • 将来のビジョンが可視化しやすい
  • 組織の目指す方向性が明確である
  • 実現可能である
  • 変革することで社員にメリットがある
  • 今後も柔軟に対応できる

多くの人に周知していくためにも、簡潔で可視化しやすく、かつ達成可能なビジョンであることが求められます。誰が見てもわかりやすく、社員にとってのメリットがイメージしやすい戦略を考えていきましょう。

ビジョンと戦略を社内に共有する

ビジョンと戦略を設定したら、社内全体に共有します。変革に対する現場からの理解を得るには、あらゆるコミュニケーション方法を活用しながら周知していくことが大切です。

具体的には、日々の朝礼や定例会、社内報などが挙げられるでしょう。また、社員数が多い場合は全体での周知に加え、チームレベルでの認知向上を目指す必要があります。

社員の痛みが伴う戦略の場合、なかなか理解を得られないかもしれません。社員に一度の説明だけで会社の意向を完全に分かってもらうのは困難です。全員が同じ目標に向かって進んでいくためにも、継続的に発信し周知を徹底しましょう。

従業員が動きやすいように環境を整備する

戦略が決まり社内への周知が完了したら、変革をスムーズに行うための環境を整えます。具体的には、以下のような取り組みが考えられるでしょう。

  • 社員がとるべき具体的な行動をリスト化する
  • 変革に向けた行動に対する評価制度を整える
  • システム入れ替えなどの導入準備を行う

戦略が伝わったとしても、何をしたらよいのかを具体的に示せなければ社員は行動できません。各部署や個人によって取るべき行動も変わるので、目的を明確に示しましょう。

また、評価制度の導入はモチベーション維持としての効果があります。社員が自律的に行動ができるような環境を整えることが重要です。

短期目標を達成する

環境が整ったら、ビジョンに向けて短期目標を設定しながら着実に変革を目指します。変革に対する成果が見えるまでには、ある程度の時間がかかります。場合によっては数年単位でかかることもあるでしょう。

大きな目標しか設定されていなければ、なかなか結果が見えずに途中で挫折してしまい、モチベーションが下がってしまうおそれがあります。そのため、長期的な取り組みが必要な場合でも、短期的に成果が見えるような工夫を行うとよいでしょう。

実行したら進捗状況や成果を随時共有したりするなど、効果を可視化することも大切です。変革の効果が実感できることで、社員のモチベーション向上につながり、チェンジマネジメントを効率的に進められます。

さらなる変革を推進する

短期目標を達成して勢い付いてきたところで、一気に変革を加速させます。この段階まで到達すると社員の抵抗感も薄れ、より大きな変革が受け入れられやすくなるはずです。大規模なシステム入れ替えや変革後を見越した人材採用、組織構造の改革などを進めていきましょう。

また、変革を進めてきたなかで見えた課題についての振り返りも必要です。ビジョンや方向性の軌道修正を行いながら、新しい文化を形成してください。

新たな手法を企業に浸透させる

古い体制から新しい体制へと移行が完了したら、新たな手法を企業に浸透させる段階に入ります。各部署やチームのリーダーが変革の重要性を発信し、新たなリーダーの育成を行いながら引き継いでいくことで、企業文化として定着させることが可能です。

ただし、組織変革は社会に合わせて繰り返し行う必要があります。8つのステップを取り入れながら、柔軟な組織を作っていきましょう。

組織マネジメントとは?事例や必要な能力・参考にすべきフレームワークを紹介

チェンジマネジメントの具体的な事例

ここからは、実際の企業で行われたチェンジマネジメントの事例を2つ紹介します。自社でチェンジマネジメントを行う際の参考にしてください。

富士フイルム株式会社

カメラやOA機器などの販売を手掛ける富士フイルム株式会社では、課長層の意識変革を促す「富士フイルムチェンジマネジメントプログラム」を実施しています。

富士フイルムが目指したのは、社会の変化に対応した新しいリーダー像の誕生です。この研修では、過去と現在の自分を振り返り、自己変革に向けた計画を策定します。

また、その6ヶ月後には研修後の変化や研修に参加したメンバーでの意見交換を目的としたフォロー研修も行われました。上司が変わることで部下にもよい影響を与えることができ、現場の雰囲気が明るくなったことから、今後も継続してプログラムを実施していくとしています。

[参照元:株式会社レアリゼ「富士フイルム株式会社様」]

チェンジマネジメントを実践し、組織変革を推進しよう

本記事では、チェンジマネジメントのフレームワークや企業事例などを紹介しました。急激に変化する社会のなかで企業が生き残るためには、適切な組織改革が必要です。チェンジマネジメントをうまく活用しながら、変化に対応できる柔軟な組織作りを成功させましょう。

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