チェンジマネジメントとは?手法や事例・フレームワークを紹介!

2023/08/08 2023/08/09

組織・マネジメント

チェンジマネジメント

組織の成長に欠かせない「チェンジマネジメント」。変化が激しい現代で企業の成長に必要なマネジメント手法ですが、チェンジマネジメントが具体的に何かわからないという方も多いはずです。本記事では、チェンジマネジメントとは何か?、手法や事例とあわせて紹介します。

チェンジマネジメントとは?

チェンジマネジメントとは、ビジョン達成に向けて組織を変革させるためのマネジメント手法を指します。社会の変化が激しい現代において、少子高齢化や顧客ニーズの多様化・不安定な社会情勢など、企業を取り巻く課題も増えつつあります。激変する時代のなかで組織が生き残るためには、社会の変化に応じた組織変革を行う必要があるでしょう。

チェンジマネジメントの起源は、1990年代のアメリカで広まった業務プロセス改善策BPR(Business Process Re-engineering)といわれています。当時は長引く不況を打破するために、多くの企業が組織改革に挑みました。しかし社員が変化に対応できず混乱を招くことになったため、スムーズな組織変革を行うために、チェンジマネジメントへの注目が集まるようになったのです。

チェンジマネジメントの課題

チェンジマネジメントを行う際に大きな壁となるのが、社員からの抵抗や反発です。ヒトは変化が起こることでネガティブな感情になるといわれており、現状維持を好みます。チェンジモンスターと呼ばれる変革に対して抵抗を示す社員への対応が課題です。

チェンジモンスターとは?

チェンジモンスターとは、変革の妨げとなる人物を表した言葉です。アメリカに本社を置くコンサルティング会社ボストンコンサルティンググループの、ジーニー・ダック氏が提唱しました。代表的なチェンジモンスターには、以下のようなものがあります。

  • タコツボドン(他人が自分の業務に関与することを嫌う)
  • ウチムキング(社内の評価ばかりを気にして、外部に無関心)
  • カコボウレイ(過去の成功に捉われて、事業撤廃などの決断に踏み切れない)
  • ミザル・キカザル・イワザル(改革に関わろうとせずにやり過ごす)
  • ノラクラ(言い訳ばかりで行動をしない)
  • カイケツゼロ(課題に気付いていながらも自ら行動しようとしない)
  • マンテン(リスクが完全になくならなければ行動しない)

チェンジモンスターの根底には、変化に対する不安や恐れなどがあります。チェンジモンスターに限らず、変革に対する不安は誰もが感じるものです。チェンジマネジメントを行う際は、ヒトの感情も考慮したうえで変革戦略を考えることが大切になります。

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チェンジマネジメントに有効な6つのフレームワーク

チェンジマネジメントは、効果的な手順を踏むことで成功につながりやすくなります。チェンジマネジメントに有効なフレームワークとして以下の6つがあります。

  • レヴィンの3段階組織変革モデル
  • ADKARモデル
    キューブラー・ロスの変化曲線モデル
  • マッキンゼーの7Sモデル
  • PDCAサイクル
  • コッターの8段階変革モデル

それぞれ解説していきます。

1.レヴィンの3段階組織変革モデル

ドイツ出身の心理学者クルト・レヴィン氏が提唱した組織変革モデルです。レヴィンは以下のプロセスを経て変革すると唱えました。

  • 解凍
  • 変革
  • 再凍結

解凍とは、変革の必要性や危機感を共有し、従来の考え方を手放すことを意味しています。変革に対して抵抗が起きないよう、まずは新たな考えを受け入れられる状態を整えなければなりません。解凍が完了した後は、実際に変革施策を実行します。そして、新たな文化を定着(再凍結)することで組織が生まれ変わるのです。

レヴィンの3段階組織変革モデルは、チェンジマネジメントの軸となるフレームワークといえます。

2.ADKARモデル

ADKARモデルとは、米国企業Prosciのジェフリー・ハイアット氏が考案した組織変革のステップを表したフレームワークです。ADKERとは、Aware(認知)・Desire(願望)・Knowledge(知識)・Ability(能力)・Reinforce(強化)の略称で、以下の手順をもとに変革を進めます。

  1. 認知(組織変革の必要性を認知する)
  2. 願望(社員自身が自発的に変革を望む)
  3. 知識(変革に必要な知識を身に付ける)
  4. 能力(知識を活かして行動する)
  5. 強化(変革を推し進める)

ADKARモデルは、知識や能力を身に付けるタイミングが分かりやすく提示されている点が特徴です。社員の自律性を活かした変革モデルといえるでしょう。

3.キューブラー・ロスの変化曲線モデル

キューブラー・ロスの変化曲線モデルとは、アメリカの精神科医エリザベス・キューブラー=ロス氏が示した、「人が変化に対してどのような反応を示すのか」を表したものです。変化曲線モデルでは、以下の流れで変化を受け入れていきます。

  1. 否定
  2. 怒り
  3. 交渉
  4. 意気消沈
  5. 受容

もともとは、死期が近い患者が「自分の死」をどのように受け入れるのか研究したものでした。しかし、組織変革に対する感情の変遷に応用されました。変化曲線モデルを理解しておくことで、社員にどのような反応が予想されるかを踏まえた対策を考えることができるでしょう。

4.マッキンゼーの7Sモデル

アメリカに本社を置くコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーは、「企業は7つの『S』で構成されている」と定義しました。7つの「S」とは、以下の要素を指します。

  • Structure(組織構造)
  • Strategy(戦略)
  • System(システム)
  • Style(スタイル)
  • Staff(スタッフ)
  • Skill(スキル)
  • Shared Value(共通価値観)

組織構造・戦略・システムはハード面、スタイル・スタッフ・スキル・共通価値観はソフト面における要素です。7Sモデルはハード面とソフト面の両方を分析し、組織の現状把握と改善に役立てるフレームワークです。7つのSの観点から自社の課題を分析し、変革計画を策定していきます。

5.PDCAサイクル

PDCAサイクルとは、アメリカの統計学者ウィリアム・エドワーズ・デミング氏が提唱した、目標実現のプロセスを表したフレームワークです。

PDCAは、Plan(計画)・Do(行動)・Check(評価)・Action(改善)の頭文字から名付けられました。「計画を立てる→実際に行動する→計画に対する行動を分析する→振り返り改善策を考える→再び計画を立てる」というサイクルを回しながら、目標達成を目指します。

PDCAサイクルはチェンジマネジメントだけでなく、品質管理や個人レベルでの目標達成に向けた方法としても有効な手段です。

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6.コッターの8段階変革モデル

ハーバード・ビジネス・スクール松下幸之助記念講座名誉教授であるジョン・コッター氏は、数多くの組織を分析した後に変革手順を8つのプロセスで示しました。

  1. 変革の必要性を明らかにする
  2. 変革チームを発足する
  3. 組織の方向性・戦略を定める
  4. 方向性・戦略を社内へ周知する
  5. 変革がスムーズにいくように環境を整える
  6. 短期目標を設定する
  7. 変革を加速させる
  8. 変革を浸透させる

コッターの8段階変革モデルは、チェンジマネジメントの手法としてよく活用されている手法です。個人レベルと組織レベルの両方から確実に変革できるよう考えられたモデルであり、8つのプロセスを着実にこなすことで効果を発揮します。

チェンジマネジメントの手法

ここでは、コッターの8段階変革モデルの手順を参考に、チェンジマネジメントのプロセスをひとつずつ解説していきます。それぞれのポイントを押さえながら、組織変革の参考にしてください。

1.変革の必要性を明らかにする

まずは社員に対して、「なぜ今、組織改革が必要か」を明らかにしましょう。社内の現状はもちろん、社会情勢や顧客ニーズを含めた外部の状況を分析し、「もし変革をしなければどんなリスクがあるのか」「変革することでどんなメリットがあるか」を説明します。

変革の必要性を明らかにする目的は、社員の心に「今変わらなければいけない」という危機感や、「変わりたい」という自律心を芽生えさせるためです。制度や仕組みを一新しても、組織を動かす社員が変わらなければ変革は成功しません。具体的な数値や根拠を提示しながら、理解を得られるまで発信しましょう。

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2.変革チームを発足する

社員間で変革に対する意識を共有できたら、組織変革をけん引するチームを作ります。チームのメンバーは、可能な限り社員に影響力のある人物が好ましいです。たとえば、以下のような人材で構成するのがよいでしょう。

  • 社員から信頼され、人望がある
  • プロジェクトを完遂する実行力がある
  • 計画的にプロジェクトを進められる

社員に影響力のある人材がリードすることで、変革がスムーズに進みやすくなります。

3.組織の方向性・戦略を定める

次に変革チームを中心として、現状の組織をどのように変えていくか戦略を立てます。組織のビジョンを明確にし、方向性を定めましょう。

戦略を立てる際のポイントは以下の6つです。

  • 戦略が分かりやすい
  • 将来のビジョンが可視化しやすい
  • 組織の目指す方向性が明確である
  • 実現可能である
  • 変革することで社員にメリットがある
  • 今後も柔軟に対応できる

多面的からの視点で社員の共感を得られる戦略を考えます。

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4.方向性・戦略を社内へ周知する

方向性が定まったら、社員に対してビジョンや戦略を周知します。周知の方法は、日々の朝礼や定例会、社内報などさまざまで、社員数が多い場合は全体での周知に加えチームレベルでの認知向上を目指しましょう。

社員が痛みを伴う戦略の場合は、なかなか理解を得られないかもしれません。社員へ1度や2度の説明だけで会社の意向を完全に分かってもらうのは困難です。全員が同じ目標に向かって進んでいくためにも、継続的に発信し周知を徹底しましょう。

5.変革がスムーズにいくように環境を整える

戦略が決まり社内への周知が完了したら、変革をスムーズに行うための環境を整えます。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

  • 社員がとるべき具体的な行動をリスト化する
  • 変革に向けた行動に対する評価制度を整える
  • システム入れ替えなどの導入準備を行う

社員に戦略が伝わったとしても、何をしたらよいのかを示さなければ行動できません。各部署や個人によって取るべき行動も変わるので、目的を明確に示しましょう。また、評価制度の導入はモチベーション維持としての効果があります。社員が自律的に行動ができるような環境を整えてください。

6.短期目標を設定する

環境が整ったら、ビジョンに向けて短期目標を設定しながら着実に変革を目指します。変革に対する成果が見えるまでには、ある程度の時間がかかります。大きな目標しかない場合は結果が見えずに途中で挫折し、モチベーションが下がってしまう恐れもあるでしょう。「今月は業務効率化ツールを導入する」など、小さい目標を積み重ねながらビジョンの達成を目指してください。

実行したら進捗状況や成果を随時共有し、効果の可視化も大切です。変革の効果が実感できることで、社員のモチベ―ジョン向上に繋がるでしょう。

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7.変革を加速させる

短期目標を達成して勢い付いてきたところで、一気に変革を加速させます。この段階まで到達すると社員の抵抗感も薄れ、より大きな変革が受け入れられやすくなります。大規模なシステム入れ替えや変革後を見越した人材採用、組織構造の改革などを進めていきましょう。

また、変革を進めてきたなかで見えた課題についての振り返りも必要です。ビジョンや方向性の軌道修正を行いながら、新しい文化を形成してください。

8.変革を浸透させる

古い体制から新しい体制へと移行が完了したら、変革を定着させます。チェンジマネジメントを行うなかで効果を実感した取り組みは積極的に採用し、継続させていきましょう。

以上で組織変革が完了します。しかしながら、組織変革は社会に合わせて繰り返し行う必要があります。8つのステップを取り入れながら、柔軟な組織を作っていきましょう。

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チェンジマネジメントの活用事例

ここからは、実際の企業で行われたチェンジマネジメントの事例を3つ紹介します。自社でチェンジマネジメントを行う際の参考にしてください。

富士フイルム株式会社

カメラやOA機器などの販売を手掛ける富士フイルム株式会社では、組織変革を目指した「富士フイルムチェンジマネジメントプログラム」という研修が行われました。

富士フイルムが目指したのは、社会の変化に対応した新しいリーダー像の誕生です。課長以上を対象にした研修では、過去と現在の自分を振り返り、自己変革に向けた計画を策定します。上司が変わることで部下にもよい影響を与え、富士フイルム株式会社では新たな文化が形成されています。

アドビ株式会社

ソフトウェア企業のアドビ株式会社でも、チェンジマネジメントが行われています。目まぐるしく変わる社会や技術革新の変化に対応するためにソフトウェアの販売形式を一変し、従来のパッケージ販売型からサブスクリプション型へと一新しました。

変革の際は社員からの反発も大きく、チェンジモンスターへの対応に苦戦しました。しかし、丁寧な説明を繰り返しながら長い月日をかけて変革を達成しています。サブスクリプション型にしたことで、常に最新版のソフトウェアが利用できるようになり、今では多くのユーザーに愛されています。

Google LLC

大手IT企業のGoogle LLCでは、自社独自の組織変革手法として「ChangeRules」を考案しました。ChangeRulesは、「なぜ」「何を」「誰が」「どのように」という4つの問いかけを基に組織変革に対する理解を深める手法です。

ChangeRulesでの問いかけは、組織変革の目的や具体的な施策を明確化する効果があります。ChangeRulesを活用したことで、以前よりも変革に対する社員の理解度が高まり、組織の求心力を高めています。

チェンジマネジメントを活用し組織変革を成功させよう

本記事では、チェンジマネジメントのフレームワークや企業事例などを紹介しました。急激に変化する社会のなかで企業が生き残るためには、適切な組織改革が必要です。チェンジマネジメントをうまく活用しながら、変化に対応できる柔軟な組織作りを成功させましょう。

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ビズクロ編集部
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